有報の感想 RIZAPグループ(株)(2018 年3月期)

(企業情報)

2003年4月、健康食品の通信販売会社として設立。当初は健康コーポレーション株式会社という名前だった。インターネット通販会社として楽天市場・Yahooショッピングなどに出店。
2006年5月に札幌証券取引所アンビシャスに株式を上場。
2010年5月グローバルメディカル研究所(現RIZAP株式会社)設立
以降、M&Aを中心として事業規模を拡大していく。

グループのビジョンは「「人は変われる。」を証明する」

事業としては、
①美容・健康関連事業
②アパレル関連事業
③ 住関連ライフスタイル事業
④ エンターテイメント事業

(感想)

意外に思ったのは、国際会計基準導入が最近(2017年3月期)であったこと。国際会計基準は田中弘先生などが仰られているように、M&Aのための会計基準といえるので、RIZAPグループのようにM&Aで成長する会社には合致する会計処理ともいえる。

売上を見ると、ものすごい成長率である。年間に数件のM&Aを行っているのだから、当然ではある。営業利益も、日本基準に近似させた数値で見れば増加傾向であろう。一方、営業利益率で言えば、一時あがったものの2017年3月期にガクッと落ちて、翌年も横ばいである。もう少し気になるのが、営業キャッシュ・フローの落ち込みだ。利益は上がっていっているがキャッシュ・フローが伴っていない。2018年3月期における営業キャッシュ・フローの減少要因は売上債権の増加と棚卸資産の増加であったため、これが資金化されれば営業キャッシュ・フローが改善されるはずである。もし、改善されなければ、売上債権の滞留または架空計上、棚卸資産の滞留、評価損未計上、架空在庫などを疑うことになるだろう。

財務キャッシュ・フローが毎年大きくプラスである。事業の形として、社債や借入によって資金調達をし、それを元手にM&Aを行う、というスタイルになっている。他人のお金を投資して儲けるのは現代的な戦略といえよう。個人に会社を買うことを勧める本(『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 人生100年時代の個人M&A入門』)もあるくらいだから、買える会社は多い。成長戦略として、事業立ち上げ・育成・人材育成の時間をすっ飛ばせる。
会計基準を見ても、製造業的な原価による評価から時価評価へとシフトしていっている。事業をいくらで売買できるか、という事が焦点なのだ。
また、開示基準も連結重視だし、長期間の成長よりも短期的な利益(ひいては配当、株式売買益)を求める株主が増えてきている。結果が出なければクビになるから、経営者も短期的な視野となりがちで、長期的な戦略を立てにくい。長期的成長戦略を立てにくいから、M&Aで成長を見せる誘因となる。

銀行も相当に貸付をしている。招集通知の主要な借入先はこうなっている。

仮に、経営が傾いてきたとしても、すぐには倒産しないだろう。なぜなら、銀行が回収できなくなるから。回収できるようにリスケをして延命し、少しでも回収をしようとするだろう。ただし、そういうときの銀行は冷たいし厳しい。銀行の管理下に入って、拘束預金として一部の資金以外は使えなくなる。本当は違法らしいが。

事業がまだ整理しきれていない部分もあると思う。毎年数件のM&Aをやっていたら、シナジー効果を発揮しようにも、管理業務だけで精一杯なのではないだろうか。そのため、どこかの時点でM&Aのペースを緩めてグループ内の整備を行う期間が必要なのではないか。永守重信氏は「踊り場の時期」と仰っていたように思う。もしかしたら、松本晃氏にはそのような面も望んでの、代表取締役への就任の要請だったのかもしれない。もし、そうならば、今後数年はM&Aを積極的に行うことはないだろう。しかし、湘南ベルマーレを買収するなどM&Aを行い続けていることを考えれば、しばらくは拡大路線を続けていくはずだ。おそらく、どこかでひずみが大きくなって業績が悪化すると思われる。利益面での業績悪化だ。2018年3月期がすでにそうであるのかもしれない。そうではないかもしれない。
一番は、減損リスクがどこで発現するかだ。国際会計基準は減損逃れをさせないために基準の変更を検討しているようだし、今後の課題のように思う。

RIZAPに関して言えば、縦展開と横展開を加速していくと思われる。

縦展開は、ライフサイクルを意識した、フィットネスの拡充だ。おそらく、これまでのダイエットという観点から美容(これはしばらく前から宣伝を行っている)や健康寿命という観点でのフィットネスへ転換していくだろう。美容はこれまでと同じようなパーソナル型のトレーニングで問題ないが、健康寿命に関して言うと、特に年配者はコミュニティの形成を求める面があるため、複数の参加するフィットネスを考案していくのではないだろうか。これはそのうちにスポーツに発展していくかもしれない。例えばサッカー教室、野球教室など。
なお、美容や健康なら、設立当初からの商材である健康食品や美容商品の小売販売も行うことが可能であろう。

横展開は、「RIZAPのメソッドを活用した目標達成コンサルティングビジネス」を利用した他事業への参入だ。「(3)中長期的な会社の経営戦略」にも書かれている通り、RIZAP GOLF、RIZAP ENGLISH、RIZAP COOK等の新規事業を始めている。いずれは、ビジネスコンサルティングへも進出する可能性もある。というのも、自社におけるM&Aとその後のマネジメントのノウハウを用いることで、他社の経営再建や個人の営業マンへのアドバイスなど、事業領域はあるように思われる。目標達成というのは、企業のノルマ達成と親和性が高いだろう。ただし、レッドオーシャンではある。
マーケティング的には、フィットネスのRIZAPから成長コンサルティングのRIZAPへの転換をできるかどうかがポイントとなりそうに思う。CMの効果もあり、RIZAPにはフィットネスのイメージがこびりついている。「結果にコミットする」を水平拡大しきれていないと思われる。

追記(2018年11月13日)

日経記事

松本COOは内部の整理を主張。社内の反発を受け降格させられる。うるさ方を排除したか?

追記(2018年11月14日)

日経記事2

松本晃氏は構造改革担当として、グループの整理に権限を得たよう。

しばらくは業績は上向かない(むしろ微減だろう)が、数年後上向いてくるのではないだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?