横浜。ビール。(日記の改変)

ざわめいている横浜駅のポルタを抜けて、そごうへ入っていく。ゆうこは、ちょこちょこと僕の横を歩いていて、時折楽しそうに鼻歌を歌っている。アニメのような楽しみ様だと思う。ぷらぷらと歩きながら、奥の方の酒屋に流れ着いて、クーラーに並べられたチョコエールを見つける。
「チョコのビールなんてあるんだね」
そうだね、と返しながら、そういえばもうすぐバレンタインだな、なんて思う。
「甘いのかな?」
不思議に首をかしげながら、ゆうこがビンを持って見つめている。
「いんぺりあるちょこれーとすたうと。さんくとがーれん?」
サンクトガーレンは、昔飲んだことがあった。JAM Akihabara。湘南ゴールドのビール。芳醇に、柑橘が香って、すっきりと飲みやすい、僕の好きな味だった。
「せっかくだから、飲んでみようよ」
そう言うと、ゆうこは満面の笑顔を上げて「飲みたい!」と言った。
適当に、何本かかごに入れて、レジに持っていく。ついでに、日本酒を1本、鳥の絵が光っているビンを手に取っていった。

そごうからポルタに戻ってきて、少し脇に外れて歩いていたら、ミニストがあった。ゆうこが目を輝かせて駆けていく。僕も後ろからのたのたと走っていく。右手に下げた袋の中で、カチカチとビンが揺れる。食べたいと言うので、ソフトクリームを買った。僕はバニラでゆうこはいちご。

店員から受け取って、ゆうこはソフトクリームをなめている。ももいろのクリーム。妙になまめかしさがある。ゆうこがこちらを見て、おいしいね、と笑う。その子犬のような笑顔に、頭を撫でたくなった。チョコエールが碇のように重くて、僕は動くことができなかった。僕はあいまいに笑いながら、こころの中でかわいいと思った。言葉が口からこぼれていてハッとする。ゆうこの目が、驚きながらまるまると見つめている。じっと、戸惑いと喜びに揺れながら。ふたりの視線が絡み、音が消える。呼吸を忘れたように、静かに。

甘い香りとほろ苦さ。インペリアル・チョコレート・スタウトをゆうこは気に入って、次の日も買いに行った。僕のような味だとゆうこは言った。ゆうこは湘南ゴールドかもしれない。そんなことを思った。はじけるような夏の香り。まぶしく光る黄色の実が、満面の笑みで笑いかけている。




(ちいまゆ日記の改変です)

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