複式簿記の起源

複式簿記は、日本に入ったときには「西洋簿記」と呼ばれていました。西洋において生成されてきたからです。そして、複式簿記の起源についてはいくつかの説があります。大きく分けて、古代ローマを起源とする説と中世イタリアを起源とする説です。

古代ローマを起源とする説

古代ローマにおいては、市民は商業を禁止されていました。そのため、商業を奴隷に頼むケースがあったそうです。その委託と受託の関係は、信用のために、記録をして報告する、というプロセスが必要でした。この記録に複式簿記の起源をみる、というものです。しかし、古代ローマ時代の帳簿は見つかっていません。そのため、あくまでも、理論的にそうなのではないか、というのが根拠となっています。

中世イタリアを起源とする説

中世イタリアでは、いくつかの会計帳簿が発見されており、それらの史料をもってその根拠とするものです。中世イタリアの中でも、どの地方が大元なのかで、いくつかの説があります。

トスカーナ起源説

トスカーナ地方から発生した、という、トスカーナ起源説というものがあります。これは、フィレンツェのメディチュオ・ラウレンシア図書館の銀行家の会計帳簿の一部(1211年)に起源を求めるものです。この会計帳簿は、現存する最古の会計記録ですが、2枚、4頁しかありません。そのため、帳簿体系全体が分からないため、組織的な記入形式であったかは不明です。
また、その後の、13世紀末の会計記録においては、体系的勘定組織の成立とそこへの取引の完全複記が確認されており、これを複式簿記の成立とみる説もあるようです。しかし、これらは現代のような左右対称的な勘定形式ではなく、上下に対照しているものでした。そのため、左右対照的な形式を複式簿記の要素と考えるならば、論拠に欠けるようです。

ジェノヴァ起源説

まず、ひとつ目が、ジェノヴァ起源説です。これは、ジェノヴァの国立古文書館のジェノヴァ市庁の財務帳簿(1340年)に起源を求めるものです。ジェノヴァ起源説では、体系的勘定組織の成立と取引の完全複記、そして左右対称的な勘定形式を重視しています。左右対称的な勘定形式は、勘定式計算法を具現するものでもありました。そのため、ジェノヴァ起源説は、長く、支配的な説だったようです。

ロンバルディア起源説

ロンバルディア起源説では、ミラノのドゥオーモ建物古文書館に保管されているカタロニア商会の元帳(1395-1398)に起源を求めるています。ジェノヴァ説と同様に、左右対称的な勘定形式を重視しながら、さらにより厳密に、組織的な記入型式が重要であるとしています。ただし、カタロニア商会の元帳よりも30年前に作られた、同様の形式によるベルギーの史料がある事などから、疑問がある説のようです。

ヴェネチア起源説

ヴェネツィアの国立古文書館に保管されているソランツォ兄弟の新元帳(1406-1434)に起源を求めるものです。ルカ・パチョーリが最古の会計書でヴェネチアの複式簿記について言及していることなどから、完成度の高い簿記が行われていたと考えられていました。ただし、史料が他の説よりも遅い時代のものになることから、史料から直接起源であることは言えないようです。とはあいえ、他の地域とは異なる特徴を持っていることから、全く否定されるわけでもないようです。

複数起源説

ほぼ同時期に複式簿記が生成した、とする説です。これまでは、一都市から派生する一都市起源説が信じられていました。そうではなくて、各地でそれぞれに複式簿記が行われて行って、それが交流を通じて同時期に発展していったという考え方です。各地で、異なる言葉が使われたりなど、地域差があるから、このような考えがとられています。

まとめ

現在では、複数起源説が多数説となっているようです。


参考文献

『近代会計史入門』
『近代会計成立史』
『中世イタリア複式簿記成立史』

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?