おかえり

まさか、帰ってくるとは思っていなかった。

たてみんさんから、大型新人がいる、という話を聞いていたものの、そういうことなの!?という感じだった。

きらら姫。
通称すいさん。

すいかの国に帰ったけど、ごはん作ることと洗濯すること以外何もすることがなくて、帰ってきたらしい。

すいさんは、突然、アカウントを消していなくなった。ご飯当番だったのに来なかった。かなこさんが、インスタグラムのストーリーに「私が出勤していなかったら安心してください」と書いていた。かなこさんがご飯を作っていた。

いなくなってガッカリしていた。すいさんがいない穴を直近はかなこさんとみみ氏が埋めたんじゃなかったかと思う。

メイド喫茶・コンカフェで、とんだ人が戻ってくることはまずない。卒業して戻ってくることはあるけれども。とんで同じ店に戻ってきたのは、僕は初めて見たのではないだろうか。

たてみんさんも果南さんもやさしいなぁ、と思う。僕なら戻さない。それは厳しすぎるだろうか。若いから、過ちもあるだろう。僕だって、たくさん間違って、のたうち回って生きてきた。それらを、許されて、赦されて、今がある。

小学校の時に、小刀を盗んだことがある。別に悪いことをしようということではなかった。あまり覚えてはいないが、ちょっと、秘密に持って帰っていった、という感じで、引き出しに隠した。
すぐに親に見つかって、リビングにさらしてあった。怒られた、というより、淡々と叱られた。学校に持って行って、先生に謝って返した。怒られなかったが、それが逆に堪えたことをなんとなく覚えている。

そもそも、とんでしまうことが過ちなのかは考えないといけないところではあるのだが。
せつなさんは、10年くらい在籍していた店をとんだ。でも、カフェの店からカウンターの店に変わり、元々知っていたキャストもだんだんいなくなって、最後は自然消滅していった。
あれは、仕方なかったのかな、と思う。きっと、卒業するなら元の店が良かったのではないだろうか。ういさんやアンナさんのように。

なんにせよ、戻ってきてくれて嬉しかった。また会えるとは思っていなかった。とんだ人が戻ってきたことはほぼないから。他店に転生することはあるけれど、僕には探すのが難しいし、もはやメイド喫茶・コンカフェを卒業したのだから、そこに会いに行くこともできないのだ。

だから、戻ってきてくれて嬉しかった。ほんの少しの時間だけど、無理矢理会いに行くくらいには嬉しかった。いつもより、テンションが高かったと思う。いろんなことを言ってやろうと思っていたけど、なんか、全部忘れてしまった。何をしゃべったかあまり覚えていない。興奮状態であった。たてみんさんの本名を「森野たぬき」にするか「狸小路立美」にするか悩んだ気がする。

おかえり。

どこかで、元気にしているのだろうか。
心配をしていた。

謎の大型新人の正体が分かって、電車に飛び乗る。
言いたいことが山のようにあった気がする。様々にシミュレーションという名の妄想を繰り広げる。どの妄想も、決まって、最後は彼女を抱きしめる。喜びに感極まって、彼女を抱きしめる。

家出した娘が帰ってきたように。
やさしい抱擁を。

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