圧倒的脚本力不足「ポッピンQ」感想 第6回
こんにちは、雪だるまです。今回はポッピンQの感想です。公開当初はあまりに客が入らなさ過ぎて「知名度低すぎる」「みんな見にきて!」的なつぶやきがtwitterで多くみられましたが、ぶっちゃけ爆死すべくしてした映画だと思います。そのあたり、感想述べていきます。(ネタバレあり)
伝えたい要素が多すぎる
この映画、ざっくりまとめると「ヒロインたちが異世界に行って、ダンスの力で時の歪みを直そう」的な話である。
物語の途中には時を歪ませようとする悪役も登場する。そのために主人公たちが変身して戦うという要素もある。また、主人公たちはそれぞれ過去に何かしらのトラウマがあり、それを克服するという成長要素も描こうとしている。
ダンス、異世界、戦闘、成長…。1本の映画として描くとしては少々、構成要素が多すぎるように思う。そのせいか色々無理矢理に感じる部分も多い。
キャラが描けていない脚本
タイトルにもあるとおり、この作品最大の欠点は脚本にあると思う。話の流れが少し分かりにくく、キャラ描写が足りない。
もちろんこれらが出来ていないのは、先程言った構成要素の多さのせいもある。だが、それを考慮しても脚本の整理ができてないと思う。
まず最初に気になったのは各ヒロインが異世界(正確には平行世界という表現が近い)である「時の谷」に行くところ。主人公の伊純が駅の改札機をくぐるとそこは時の谷。そこで同位体であるポコンと出会う。時の谷を散策していくうちに、この世界にはキグルミという謎の敵によって平和が脅かされていることを知る。そして伊純とポコンはキグルミに追われているところを、同じく現実世界から来た蒼、小夏、あさひに助けてもらう。出会ったのではない、助けてもらったのだ。
映像で連続で観ていると一連の流れは違和感がある。伊純はついさっき異世界に来て、キグルミの存在を認識したばかりなのに他の3人はキグルミの存在を既に認識しており、3人で協力してキグルミを退治している。ここで視聴者は疑問に思う。「この3人はいつ時の谷に来たんだ?」と。このあたりの時系列については最後まで説明されていない。
重箱の隅をつつくような指摘と言われればそれまでだし、実際そうだと思う。だがこう思ってしまうのは、この作品は視聴者が説明してほしい部分や掘り下げてほしい部分を掘り下げてくれないからだ。それがこの作品の最大の欠点であると思う。
物語の途中ででてくるレノという少年が黒幕っぽい感じで出てきたかと思えば途中で消えて後は一切出てこないし、時のカケラ関連の話も思った以上に複雑そうなのに説明が少なすぎる。
もっとも説明不足に感じるのは伊純の過去についてだ。この作品ではヒロインたちがダンスや旅を通じて人間的成長をしていくという描写があるわけだが、5人全員の成長を描くというより、伊純が人間的に成長し、それを見た他の4人か感化されて成長していくという描き方をしている。映画という短い尺の中ではそういう描き方は仕方ないのかもしれないが、肝心の伊純の過去に関する描写が陸上の大会の回想シーンしかない。大会で自己ベストをきれなかった上、同級生のナナに負け2着になり「ケガがなければ勝ってた」と言ってしまうという回想。だが、これだけでは伊純が何を後悔しているのか分かりにくい。自己ベストをきれなかったことなのか、1着になった友達に素直におめでとうと言えなかったことなのか、その両方なのか。そのあたりがはっきりしないまま話は進んでいく。だから、物語の重要な要素の割に感動も共感もできない。
ご都合主義が多い
要素が多いことが原因なのかご都合主義的な展開も多い。典型的なのは時の塔の裏口に繋がる橋から侵入するシーンだ。12秒以内に渡りきらないとだめ、橋は脆いから能力は使えない、1人渡りきれば緊急用の橋が架かるから大丈夫…。これは橋というより伊純のトラウマ克服装置と言ったほうが正しい。バラバラになる橋を全力で走るシーンも「こういうシーンが撮りたかったんだろうな…」とどこか俯瞰的に見てしまう。
他にもさっき知り合ったばかりのはずの4人が次のカットでは協力して踊りの練習をしたりと無理やりなところも多い。
駄作と言い切るのは難しい作品
今までこの作品のことを散々に言ってきたが、この作品が本当に駄作なのかと言われればちょっと断定するのは難しい。ちゃんといい部分もある。
例えばキャラデザ。作品の女の子がみんな可愛いのはもちろん、時の谷の住人や衣装も可愛い。特に衣装は小さい女の子がいかにも着たくなりそうな良いデザインだと思う。
作画も東映アニメーションということもあって全体的に安定しているし、何よりダンスのCGはいい。ダンスのクオリティはもちろん、ラストのポッピン族が観客になって5人で踊るシーンは目を奪われる出来だ。
また、ボロカスに言っといて何だが脚本でも唯一評価できるところがある。最後の最後でヒロイン達の当初の目標であった「ダンスで世界を救う」という目的をしっかり完遂させたことだ。今までありとあらゆる要素を中途半端に描いていたが、ヒロイン達の練習シーンや互いにアドバイスしあうシーンなどのダンス関連のシーンは他に比べればちゃんと描いていた。だから最後の5人でダンスを踊るシーンはなんだかんだで盛り上がる。本作では、そこは評価できるポイントだと思う。
単作としては厳しい評価かも
正直知名度とか関係なくコケるべくしてコケた作品だと思う。色々やろうとして失敗した感じは否めない。だが全てが駄目かといわれるとそんなことはなく、ちゃんといい部分もある。本作はそんな作品だ。だからハマる人はハマる。失敗作だが、どこか期待感は感じさせる。
ちなみに本作は伊純達の高校での生活を描いた続編が制作中らしい。本作の最後に予告が流れたが予告だけ見ればかなり面白そうなのだ。もしポッピンQを見たい人は続編と合わせてイッキ見することをおすすめする。単体で楽しむのは正直難しいだろう。どうしても単体で楽しみたい人は、話の内容をあまり考えずにヒロイン達のキャラデザとダンスを楽しむことに徹することをおすすめする。