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ひとつぼしポラリス解説

こんにちは。HIROFUMI ENDOです。久しぶりのNOTEです。
今回は僕がまちだガールズ・クワイアの2ndアルバム「オリオン座流星群」に書いた「ひとつぼしポラリス」についてお話ししたいと思います。

名盤「オリオン座流星群」が発売されて3か月が経ち、また先日4/13の渋谷での素晴らしいアルバム再現ワンマンライブ「町ガ 銀河進出への道Ep.3 〜オリオン座流星群観測〜」も大盛況のうちに終わったタイミングでそろそろ良いのではないかと判断いたしました。

作者が曲を解説するとなるとある種の固定観念が植えつけられてしまい、これまで聴いて来られた方々の想像力が削がれてしまうかもしれないので、スポイラー・ネタバレがお嫌いな方はここから先はお読みにならないよう何卒お願いいたします。


楽曲提供への経緯について

まちだ・ガールズクワイアのプロデューサー石田ショーキチ氏から楽曲提供をお願いされたのは昨年2021年の3月に遡ります。他のアーティストに楽曲を提供するというのは実は初めてのことで嬉しくて二つ返事でOKし曲の制作がスタートしたわけです。
そこで元々半分くらいできていた楽曲をまとめたものを提出したところ「他のも聴かせてほしい」ということで新たに作ったもう1曲を提出しましたがこれも良い感触が得られず。その間約2週間。スノモー以来久しぶりに感じた焦り。
どうしても石田氏が思い描いているものを確かめたくきちんと顔を合わせながら話したくてビデオチャットで氏と会談を行いました。
氏から語られたキーワードは「宇宙」「穏やかな日本の原風景」「アイドルアイドルしているものではないもの」「タイトルと曲調の織りなす世界」「遠藤さんらしいものを」…
まずは僕が制作当初から考えていたいわゆる「アイドル」への曲を書くという固定観念が間違っていたのです。もちろん完成したアルバムには良い意味でのアイドル然とした曲も含まれていますが、きっと氏の頭の中には初期段階から様々な曲調を網羅したコンセプトアルバムを作るという意志が明確にあったのでしょう。そして、氏の言葉の端々から表情を通して感じられた氏のアルバム制作に対する本気さに心打たれ、素直に「自分らしい曲を作る」という気持ちにたどり着いたのでした。そこからは僕も本気で楽曲制作に取り組むことになるのでした。この時の氏の叱咤激励の言葉には感謝しかありません。

作詞について

「自分らしい曲を作る」というコンセプトが固まり「穏やかな日本の原風景」というキーワードからやはり自分の生まれ育った女川がモチーフとなりました。そして「宇宙」というキーワード。そこで思い描いたのは「命」と「夢」というキーワードとそこから紡ぎ出される物語です。

2011年3月11日に起きた東日本大震災や2021年3月当時猛威を振るっていた例の感染症ではたくさんの人たちが亡くなりました。それ以外にも災害や戦争、事故などでたくさんの命が一瞬のうちに奪われてしまう出来事が毎日のように繰り返されています。
46億年の地球の歴史の中では人類の歴史というのはたった20万年ほどで46億年を1年に置き換えると人類の誕生は12月31日の午後11時37分で本当に産まれたばかりだということがわかります。そんなほんの一瞬のことのような人類の歴史の中で人の生死という私たちにとって大きな出来事を、太古の昔から不動の星であるポラリスはどう見てきたのだろう?そういった問いかけが作詞の発端になったのです。

「海空の切れ目から山の背伝って祈り捧ぐ」
「崎山に萠ゆる花その身を焦がしてひとしきり咲く」
「薄紅色の花びら舞ってずっと氷河期の終わりから繰り返す」
「白亜の海に沈む兵船風を失った帆柱はどこを向く」

この部分の歌詞は全て女川の地域医療センターの駐車場にある「輝望の丘(きぼうのおか)」から望むことができる女川湾の風景を描写したものです。

ちなみに「輝望の丘」からの風景を歌にしたのはこれが最初ではなく、私のアルバム「HIROFUMI CALENDAR」にも6月の歌「シエスタの丘」があります。

この仙台在住絵かきのnor.さんデザインによるジャケットも女川湾モチーフなのです。

女川町輝望の丘からの女川湾の眺め

「崎山」というのは写真の水平線の左の岬の上先端にある「崎山展望公園」のことです。今は震災によるがけ崩れの危険性があるため閉鎖されてしまいましたが、毎年春になると桜の花が一斉に咲き花見の場所として人気のスポットだったのです。遠くから見ても緑と青と薄紅色のコントラストは見事というほかありません。

崎山展望公園を眺める。満開時は岬の上先端一面が薄紅色に染まる。

「白亜の海に沈む兵船」というのは実際に太平洋戦争末期での戦闘で女川湾に沈んでいる戦艦のことです。

今現在震災の影響で立ち入り禁止になっても岬の桜たちはきっと氷河期の終わりから沈降や隆起を繰り返しリアス海岸を形成しながら暖かくなれば精一杯その花を咲かせて来たのだろうし、その後白亜紀に形成されたであろう湾の中には大変な戦火によって沈められた戦艦が海に抱かれるようにその一部として沈黙している。そういった長い長い歴史の中で起きた事象は地球の自然の歴史の中ではほんの一瞬にしか過ぎず何があろうともおかまいなしに季節が来ればまた繰り返すという永劫の時の流れだけが存在するのだということを表現したかったのです。

「幾星霜の重ねた願い瞬くような浅い夢ならずっと消えないで」
「幾星霜の果てない夢を囁くような淡い夢ならずっと見ていたい」

そんな長い長い地球の歴史の中でのほんの一瞬の人類の歴史、そこで起こる様々な事象というものは儚い「夢」という形容で語ることができるのかもしれません。しかし今こうしてこの地球上に生きている私たち人類は確かに存在していて精一杯それぞれの命の火を燃やしています。たとえそれが「儚い夢」であっても構わない。「自分という存在はたしかにあって、与えられた年月を日々精一杯生きて行きたい。」という願いの表れです。切なくはあっても自分としてはとても前向きな気持ちを表したつもりです。

そのような歌詞の中でも
「遠い昔から繋いできた君の思いが紡がれる」
という部分には実は私からまちだガールズ・クワイアのメンバー一人一人に対する未来へのエールを込めたつもりなのです。そして私からクワイアのメンバーに向けたメッセージが、彼女たちに歌われ楽曲になることで今度はそのメッセージが聴いてくれている方々に対するメッセージへと変換していくということを願いました。こういった試みが出来ることは楽曲提供した作家冥利に尽きることでまさに「繋いで紡がれる」思い、そして願いなのです。

作曲・編曲について

曲に関しては「自分らしく」ということを念頭に置きましたがキーボードの前に座りああだこうだ弾いていくうちにそこはどうしてもメロディー・歌モノの心の師匠である大滝詠一氏の様々な楽曲が頭を駆け巡り影響がそこかしこに現れています。また、2021年3月といえば町田ナイアガラ楽団による「Sing A LONG VACATION featuring 石田ショーキチ」ライブがまほろ座で行われた頃。それなら私は!と大滝氏の1984年のアルバム「EACH TIME」へのオマージュで行こう!と固く決意したのでした。

お聴きいただければ分かる通りこの名盤「EACH TIME」は1981年の名盤「A Long Vacation」から3年後にリリースされたアルバムで今現在でも大滝氏の最後のオリジナルアルバムであり、前のアルバムと同路線で作られたメロディアスでドリーミーなアルバムですがより円熟味が増し、各曲のそこかしこにテンポチェンジ・転調などのギミックが散りばめられたものになっています。
ですので「ひとつぼしポラリス」では装飾の多いコードやサビでの転調がそこかしこに使われています。また、カスタネットやウィンドチャイム、トライアングルなどの学校の音楽室にもある様々なパーカッション類が随所に使われているのも氏の影響ですね。また松本隆氏の歌詞についても諦念感をより深めたような切ない歌詞がいっぱいでここからも影響を多分に受けました。

またその流れから大滝詠一氏がその当時書いた歌謡曲である
「熱き心に」小林旭(1985年)

「冬のリヴィエラ」森進一(1982年)

音像的な参考として細野晴臣氏のその当時の歌謡曲仕事である
「紐育物語」森進一(1983年)

などなども参考にいたしました。もちろんメロディーのということでは決してなく、音像的なものです。デモを車の中で聴きながら歌い、頭の中で大滝さんが歌っているのを想像しながら節回しを考えていくということもしました。また、アレンジとしては上記のものと大好きな矢野顕子さんの「David」(1986年)も多大な影響があります。というよりいつか必ずオマージュしたいと思っていたので夢が叶いましたね笑。大滝さんと矢野さんの合体です笑。

先ほども書きましたがメロディーについては大滝さんが歌っていることを想像しながら考えましたが全くのオリジナルです。あくまでも自分が歌いやすいように節回しなども調節しながら出来上がったのでした。が、それと同時にメロディーに普遍性を持たせるということについても気をつけました。

このような形で「自分らしい」ということを想定して自由に作った楽曲ですが、なぜそのようにできたかというと、まちだガールズ・クワイアの2019年リリースの名曲「銀河ステーション」をすでに聴いて感銘を受けていた私は、「きっと彼女たちならどんな曲調でも歌いこなし、自分たちの歌として昇華してくれるだろう」という並々ならぬ自信があったからです。その自信は今、もちろん確信としてここにあり続けています。ここまでの作品として完成させてくれた彼女たちの才能に感謝しかありません。

まとめとこれから

4/13に渋谷で行われたアルバム再現ライブでの彼女たちの圧巻のパフォーマンスにはただただ言葉を失うばかりでした。歌・コーラス・ダンスの三位一体となったひとつの「オリオン座流星群」という世界観を自分たちの力で作り上げた彼女たちに敬意を表するとともに賞賛を送り、これからも応援し続けて行くことをここに表明したいと思います。

「オリオン座流星群」はコンセプトアルバムなので1曲めの「星めぐりの歌」から最終曲「オリオンのベルト」まで通して聴くことでよりその世界観が楽しめるものと思います。ぜひ1枚通して聴くことをオススメいたします。

そしてこれから機会を見て私バージョンの「ひとつぼしポラリス」も公開できればと思っております。ぜひお楽しみに!

お読みいただき、ありがとうございました。
それでは。また。

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