【考察】涙かんざしと……

※夏劇、発売前SSのネタバレを含みます。

夏劇で登場した玉阪座の古典舞台の一つ、『涙かんざし』。
歴代の比女彦についてまとめた記事でも若干触れたがこの話、実は発売前SSで登場する玉阪座の脚本の内容となぜか共通点が多い。
何かしらの強い関連性が疑われること、1stアニバSSの内容から今後も何らかの形でジャックジャンヌの物語に関わる可能性があることから比較資料を作成しておく。

なお、本記事は発売前SSのみに詳細な解説が登場する「誘宵」という用語、設定の知識があることを前提とする。
今回、補足は行わないので知らない方は下記の過去記事を参照のこと。
※誘宵とは https://note.com/snowblossom_jj/n/n1c4973dba575

以下、まず夏劇→発売前の順でまとめる。
ただし、あくまで要点のみためそれぞれの詳しい内容は各自で確認すること。
なお、今回取り扱うのは玉阪座の舞台のため役は比女、彦表記が正当だが、分かりやすさの観点からユニヴェールのジャンヌ、ジャック表記を採用する。

①     夏劇「涙かんざし」:『涙かんざし』

―主な役(※暫定)―
Aj 娘:女児の誕生が続き男児が切望された武家の四女
Ja 男:娘より五つ年上の屋敷の奉公人で娘に簪を贈る
j 娘の父の知人:男から簪を贈られて恋を知った娘に事情を知らず惚れてしまう
j 娘の父:娘と自分の知人の縁談を進めようと男を追い出す

―あらすじ―
時代は江戸。
ヒロインの娘は奉公人の男に恋をするが、父の知人との縁談が持ち上がり、無理矢理引き裂かれてしまう。
娘は男に一目会おうと父の知人との婚姻前夜(十六夜の夜)に家を飛び出すが、不幸なすれ違いにより想い人が自殺したと誤解する。
その後、娘は誘宵と思しき現象にあって夜の大伊達山に迷い込み、比女彦神社に「来世では夫婦になれるように」という祈りを捧げ、男から贈られた簪を預けて自ら命を絶つ。
娘が亡くなったのと同時刻、何も知らない男が駆け落ちをするために彼女を探し続けるところで舞台の幕は閉じる。

・玉阪座の古典舞台の一つ
・なぜか中小路にある呉服屋の店主が詳しく知っている(理由不明)
・涙なくして見られぬ舞台と有名で、ヒロインと同じように想い人と結ばれない同年代の少女たちが影響を受けて比女彦神社の傍に「来世では結ばれるように」と簪を隠すようになった
・異例の女性の比女彦だった12代目も密かに白金の簪を隠していた(諦めなければならない恋があった?)

②     発売前SS「07 立花希佐 scene04」:『(タイトル不明)』
※公式HPのSPECIALにあるCONCEPT ART & SHORT STORYに掲載中。

―主な役(※暫定)―
Aj 女:誘宵にあうもしくはあいそうな状況になる(?)
Ja 男:奉公先の仕事が呉服屋

(補足)Jaの設定について
SS内では主人公の奉公先の仕事は呉服屋であるとだけ明言されているが、ジャンヌが演じられないスズ(本編の親愛イベ2参照)がその場で演技の話や実演をする描写があるためJa側の設定であると推測できる。

以下、全容が全く不明な状態のため開示されている情報を順に記していく。

・タガネが座学の授業の一環で取り上げた脚本
・古い玉阪歌劇の一つで歴史物
・時代設定は明治だが、スズだけはなぜか江戸と勘違いしていた
・主人公(おそらくJa)の奉公先の仕事は呉服屋で、スズは中小路の店を演技の参考にした
※玉阪の街全体がユニヴェールに協力的な傾向がある、とのこと
・主人公とヒロイン(JaとAj?)の会話に誘宵の単語が登場する
※おおまかなやり取りは以下のようなものらしい(ニュアンスは演者の解釈次第で定まっていない様子)
男「誘宵に外をほっつき歩いてどうした?」
女「なんでもないわ」
・初演は明治で12代目の比女彦が演じた
・人気の舞台だったようだが12代目の早世と共に上演されなくなり、近年になってタガネたちが復活させた

以下、①と②の相違点をまとめていく。
上記の二つの舞台の内容及びその周辺の描写は奇妙な共通点が多い。

・玉阪座の古い舞台であること
・物語に誘宵が関与すること
・Jaにあたる男は奉公人であること
・消えてしまうあるいは消えてしまいそうなのは女側であること
・12代目が何らかの形で関与していること
・舞台の内容に関連する調査でどちらもスズが中小路の呉服屋を訪れていること

ここまで共通項が多い、もっと言えばメタ的な観点から読者が混同してしまいそうな内容の舞台をわざわざ二つ設定して描写しているとは少々考えにくい。
ただし、同一のものとして考える場合、主に以下のような矛盾点が発生してしまう。

・舞台の時代設定が夏劇(涙かんざし)は江戸、発売前SSは明治
・Jaの奉公先が夏劇(涙かんざし)は武家(Ajの家)、発売前SSは呉服屋

これらについてだが、作者側のミス(設定忘れ)の可能性は今後明らかな軌道修正がない限りは一旦除外して考えてみる。
まず、

・各話の時系列は発売前SS(春、新人公演前)→夏劇(夏、話によるが主に夏公演前後の出来事)
※どちらも情報が小出しになっており、全編を通して読むといつの出来事か分かる作りになっている
・発売前SS=春の新人公演前の時点でスズは中小路の呉服屋を訪れている
・夏劇「涙かんざし」で骨董屋の老婆に頼まれてスズは中小路の呉服屋に向かうが、その際に詳細を聞かなくてもすぐにどの店か理解しており、何度か行ったことがあるとの明言がある

以上から発売前SSと夏劇に登場する中小路の呉服屋は同一の店と考えられる。
そして、争点となる先に述べた二つの矛盾についてだが、

・発売前SSに登場する脚本は上演されなくなった舞台をタガネたちが復活させたもの
・中小路の呉服屋の店主はなぜか古典舞台の『涙かんざし』について詳しい(夏劇)
・『涙かんざし』の時代設定は江戸
・発売前SSで中小路の呉服屋に向かったスズはなぜか課題の脚本の時代設定を明治→江戸と勘違いして覚えていた
・主人公(Ja)の奉公先が夏劇の『涙かんざし』では武家、発売前SSの脚本では呉服屋

以上の情報から

夏劇の『涙かんざし』がオリジナルで、それを復活させる際にタガネたちがアレンジを施したものが発売前SSの脚本。
故に二つの間には時代やJaの奉公先などの設定変更が存在する。
そして、その作成に中小路の呉服屋の店主も参加あるいは協力していた。
スズは春に調査に訪れた際にオリジナルの『涙かんざし』の話を若干だが聞いており、情報の混乱がおこってしまった。
また、ぼんやりした知識と記憶であり、物語の核心にも触れていなかったため、夏に訪れた際にはほぼ完全に忘れていた。
※この件について触れられている発売前SS「07 立花希佐 scene04」の中で、スズは
「オレ、こういうのニガテだからさっさと出しちまったよ」
という発言をしており、彼は課題提出後に世長に指摘されて初めて自分が脚本の時代設定を勘違いしていたことに気づいたと分かる(=つまりスズはそれくらい意識していなかった)。

というのが真相ではないだろうか。

なお、12代目に関して気になる点も残っているが、これは1stアニバSSで開示された情報とあわせてまた別途考察することとする。