【小考】ビー玉の行方

※世長のビー玉に関する考察です。
※主に親愛イベ2と月の道しるべのネタバレを含みます。
※取り扱う戯曲の性質上、人によってはショッキングな話があります。
※fusetter(2023.3.25)より再録。


世長の過去に関してはなぜか公式が徹底して情報を伏せている節があるため、あくまで以下は現時点での見解となります。
そのため今後の情報次第で二転三転する可能性があることはご留意ください。

まず前提として、世長の公式公表の戯曲モチーフは『身毒丸』ですが、実際はそれだけでなくその元になった「作者の寺山修司の経験や経歴」、伝説『俊徳丸』『愛護若』とそれらと関連、類似性がある『美女と野獣』や『黄金の驢馬「愛と魂の物語」』などを複雑に組み上げて作られたキャラクターだと私は捉えています。
※参考:世長というキャラの成り立ちについての考察
https://note.com/snowblossom_jj/n/nbece6a583fbd
特に希佐との関係性は『身毒丸』から(おそらく意図的に)削除された『俊徳丸』の俊徳丸と乙姫の純愛と救済がベースのように思えます。
以上をもとに世長のビー玉に関する話を考えると、私は初期から世長推しの方々が口にしていたように「ビー玉を捨てたのは母親説」が現状は一番可能性が高いのではないかと思います。

まず、そもそもとして世長本人が捨てたはずがないと主張している通り、彼は希佐との思い出の品をうっかりなくしたり、間違って手放すような性格をしていません。
であれば、その他の人物がしたことと考えた方が自然です。
そうなると既出の登場人物の中で消去法的に怪しいのは、エピローグでもやたらと冷淡な対応をしていた彼の母親になります。
世長のモチーフである『身毒丸』の義母・撫子など、寺山作品に登場する母あるいは母的存在の多くのモデルとなった寺山修司の実母もそのような行動をとる人間であった記録があります。
寺山修司の自叙伝『誰か故郷を思わざる』の記述を紹介します。

「母はときどき猫かわいがりに私を愛撫したり『少年倶楽部』や『少国民の友』などを買ってくれて、私が嬉しそうにしているのを見てうなずいたりしていた。
しかし、私があまりにも本に熱中しすぎて母と話をしたがらなくなると忽ち本を取上げて、それを竈の火の中に叩きこんでしまうのであった。」
※Kindle 位置No.244

他にも母親から激しい体罰を受けていたこと、彼女が精神的に錯乱した際に殺されかけたこと等も記されています。
寺山修司が大人になってもこうした部分は変わらず、結婚に猛反対して放火未遂まで起こしていたりと、とにかく息子が自分の思う通りに動かないと躾を通り越した行動に出る母親だったようです。
(寺山修司は自分の過去すらも作品の一部としており、その語りに脚色や虚構が混ざっている部分もありますが、彼の実母の気性の激しさや異様さは家族や劇団「天井桟敷」関係者が様々な証言を残しているため事実のようです。)

ただ、ビー玉を捨てたのが母親だった場合、それは「実母」ではなく「義母」である可能性があります。
というのも、ノベライズの『ユニヴェール歌劇学校と月の道しるべ』にて仄めかされている世長の過去や家庭環境が、『身毒丸』の主人公・身毒丸とその作者の寺山修司の過去の(最低でも)二つを組み合わせているように見えるためです。
寺山修司は自身の実母に複雑な愛憎を抱えていたと言われており、『身毒丸』という作品においては主人公・身毒丸を愛した末に火事から庇って亡くなった実母に「愛」が、後から家に入り自らを虐待する義母に(主に)「憎」が振り分けられています。
『ユニヴェール歌劇学校と月の道しるべ』において世長には希佐と出会う以前に家族もしくはそれに近い情を抱く存在がおり、何らかの形でその喪失を経験して深く傷ついていたらしきことが書かれています。
この点が亡くなった実母を深く慕う身毒丸とよく一致するのです。
また、どうにも世長が「義母」というものにあまり良い感情を持っていなさそうな対比が実は劇中劇にも存在します。
長くなるため今回は割愛しますが、春~夏にかけて無理やりジャンヌを演じたことで精神的に不安定化していくこと、秋にメアリーと敵対するフィガロを演じてから才能が開花していくことなども寺山作品の作風を強く意識している節があり、その中に「義母≒自らを縛り付け否定する母なる存在」との対決と決別というテーマがどうにも強く絡んでいるようです。
ちなみにこれは幻の新人公演である『ビスケットとお菓子の家』にも見られる傾向で、かなり初期の段階から変更されずに世長の核として残っている設定に思われます。

さて、若干脱線気味となってしまったため今回の考察はここまでとします。
繰り返しとはなりますが、世長の過去に関しては未だ明かされない部分が多いため、あくまで以上は現時点での見解となります。
それでは、長々と失礼いたしました。