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カフェインの多量摂取で死にかけた話

※当記事は自傷行為を助長する意図はありません

もう、ダメだ。何がなんでも辞めなければ。
731は激怒した。必ず、かの無法地帯と化した服屋を退職し邪智暴虐の店長を自分の人生から除かなければならぬと決意した。
731には社会がわからぬ。731は、高卒のゴミフリーターである。酒を飲み、男と遊んで暮らしてきた。
けれども(自分以外の)クズには人一倍敏感であった。

そんなわけで、勤めていた服屋のバイトを辞めることにした。
エリア内では最大の規模を誇るあの店舗はセクハラと女遊びが趣味である既婚子持ちの男が店長であり
他は店舗内でシフト決定以外は一切の権利を持たない21歳の女性社員と勤続10年以上の御局様×2、朝礼以降声を発することが無く無表情な割に手元のDOLCE&GABBANAの時計だけが悪目立ちして光り輝いている男で構成されていた。

半年くらい無遅刻無欠勤で働き、鍵当番なので当たり前だが38.5℃の発熱の中オープン作業をしたり朝4時に起きて他店舗の棚卸しのヘルプに行ったり普通にセクハラを受けたり交通費が出なかったりしているうちに退職することにした。

奴(店長)とサシで話すだけで気分が重く脂汗が止まらず悪寒が走る。
気分を高揚させる為に選んだものはカフェインの錠剤であった。
「エスタロンモカ」というその薬は2錠でコーヒー3.4杯分のカフェインを含有しているらしく、徹夜必須だった学生時代にクラスで流通していたのを元に存在を知ったのだった。
既に多量摂取が当たり前のものとなっていたので、
とりあえず一箱全部飲んで話し合いに向かった。

「勿体ないと思うけどね」
「ほかの雇用形態とかポジションもあるよ」
「辛いんだね」

精神病院通いというのは仕事を辞める時実に良い言い訳になる。
働きたくて病院に通っていて…でもドクターストップが……とかなんとか殊勝な顔をして言っておけば、上記のように生暖かい言葉をかけられることはあれど「急に困る」「引き継ぎが」などの体のいい引き留めをされることは経験上ない。
世の中の誰も、精神病患者ないしそれに準ずる人間とそれ以上関わったり挙句の果てに変に刺激するようなことを言って被害を被ったりしたくないからだ。
マイノリティ的な要素を隠れ蓑にするのはチンカスのやることだが、時と場所を選べば武器として使ってもいいと私は思う。

なんの話?

ところで例のエスタロンモカは、話がまとまった頃に今更になって顔を出し始めた。
全身にびっしり汗をかいて"実は今日も体調が悪い"と伝えたらバックヤードで少し寝ていいことになり、
休憩に入ったスタッフに怪訝な顔をされながら目を閉じる。

どうにかなるわけがないので、もう大丈夫ですと落ち着いたフリをして帰宅した。
その逆だ。少しも大丈夫じゃない。
筆舌に尽くし難い吐き気と大量に湧いてくる涎を処理しきれず、帰りの電車の中で涎を垂れ流した。
頭がぐわんぐわんして歩く度脳みそが揺れている感じがして気持ちが悪かった。

帰宅してコートも脱がずにベッドに直行した。冷えきった布団が肌に触れて気持ちよかった。
何月だったか忘れたが寒い夜だった。
下痢をしながら嘔吐もし、涎は垂れ流し、目眩が酷く徒歩2秒のトイレに行くのも苦痛で、限界を感じ母親に状況を伝えると心底呆れたという顔で救急車を呼ぶ運びとなった。

下痢や吐き気の数倍辛いのが脚のつりで激痛が走ることで、その時は両脚がつって歩けなくなった。
ふくらはぎの肉が千切れるようなその痛みが数分おきにやってきて、搬送先の病院の美人ナース(!)が発作的に痛くなる度に叫ぶ私を宥めながらマッサージしてくれた。
身体のプロである彼女のマッサージはかなり有効で
痛みをやわらげながらカフェインの多量摂取でこうなったことやバイトの話というこの世で一番聞く価値のない話を聞いてくれていた。
今になって人間力という私があまり好きではない言葉が脳に浮かぶ。

他にも母がOS-1を買ってくれたり点滴をたくさん打ったことで入院はせずに帰ることができた。
でも激痛こそなくても脚は痛み、老人のような速度と歩幅でしか歩けなかった。
母に支えてもらいながらまた布団に入り、服屋は次の日退職した。
ちなみにその当時の恋人にはいつも仕事の入りと終わりにLINEをしていたのだが、その日に限って音沙汰がなかったことを心配した彼にことの経緯を喋りガチ切れされたりもしたが、結局彼も私の介護をさせられていて気の毒だった。

OD、なんの意味があったんだよ。

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