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深夜のコンビニ

今夜、春から抱えていた心の荷を一つ下ろすことができた。

ひと仕事終えた後、渋谷でピアニストの仲間たちと食事の約束があり、束の間のひと時を経て、終電間際の電車で帰路についた。

帰りの電車で、早速次の課題に取り掛かり、駅から家に帰るまでも頭の中はフル回転で新しい事業のことを考えていた。

少し喉が渇いたな、と思い、さっき通り過ぎたコンビニへ足を引き返した。

時刻は真夜中0時を過ぎていた。

コンビニに入った時、「いらっしゃいませ」とレジの方から女性の声がしたが、目をやっても女性の店員はレジ中央のショーケースに隠れて見えなかった。

さて、こんな夜はお酒でも飲むか、と思ったが、すぐにその考えは捨て去った。

いやいや、ここ最近頑張ったんだから、たまには自分を大切にして、栄養ドリンクを飲もうじゃないか、と考え直した。

というのも、最近の食事は、身体に悪いものしか食べておらず、自分の身体を大切にできていなかった。

どれにしようかと迷い、「疲労回復」と大きく書かれた栄養ドリンクを手に取った。

ああ、こうやって自分のためにお金を使い、自分の身体を労るのはいつぶりだろう、と思った。

そして、とても幸せな気持ちになった。

すると、お酒は心に刹那の開放感を与えるだけで、身体に酷だからやめたほうがいいな、と最近の自分では考え得なかったことまで浮かんできた。

そうだ、今夜はとことん自分に良いことをしてあげよう。

そう思った僕は、ホットアイマスクを探した。

中々見つからなかったが、なんとか棚の下の方から見つけ、ゆずとラベンダーの香りを見比べた結果、ゆずを選んだ。

栄養ドリンクとホットアイマスクを手に、レジへ差し掛かったとき、レジの端のシンクで洗い物をしている白髪の50〜60代の女性店員が目に映った。

その瞬間、僕は自分を恥じた。

こんな深夜にコンビニで働いて必死に生きている、母よりも少し年上の女性がいて、そんな彼女のおかげで僕は今こうしてコンビニを利用することができている。

彼女は、歳を重ねても、家で引きこもって腐ることもなく、コンビニで深夜に一生懸命に働いている。

生き方に貴賎はあるが、仕事に貴賎はない、という言葉を浪人していた時になるほどな、と思いメモしていたが、僕は彼女の仕事している姿を少し眺めて、自分もまだまだ頑張らねば、と身も心も引き締まった。

そして、僕は今夜自分を大切にするように、彼女にも自分を大切にして欲しいと思った。

レジに向かう前に、さっき手に取った栄養ドリンクの棚からもう一本手にとって、こちらに背を向けて洗い物をする女性店員に、

「すみません、レジお願いします!」

と声をかけた。

振り向いた彼女は慌てて、一つ一つの商品のバーコードを読み込みながら、明るく優しい声で、

「レジ袋は入りますか?」

と尋ねてきたので、

「いえ、結構です」

と答えた。

「477円です」

と金額を告げられたので、僕は自動レジでお金を精算した。

そして、まずホットアイマスクと栄養ドリンク一本を鞄に詰めた。

もう一本の栄養ドリンクに手をかけた時、彼女が

「ありがとうございましたー!」

と言ったタイミングで、

「これ、よかったら飲んでください」

と、前に差し出した。

一瞬驚いた表情を見せた後、彼女の表情が自然にほころび、素の笑顔で、

「えっ、ありがとうございます!」

と嬉しそうな顔を見せてくれた。

「深夜にお疲れ様です。無理せず頑張ってください。」

僕も嬉しくて、笑顔になった。

もう一度お礼を言う女性店員に会釈しながら僕はコンビニを後にした。

歩きながら、自分のために買った栄養ドリンクを飲んだ。

僕は、どうしてあんなことをしたのだろうか。

それは、彼女のためとかではなく、自分のためなんだと思った。

きっと、僕は見知らぬ人の笑顔に癒されたかったのかもしれない。

誰かに自分を良い人に見せたかったのかもしれない。

女性店員を思いやって、とかではなく、自分のためにこんな行動をしたのだ。

結果的に、お互いが幸せな気持ちになったなら良いな、と思った。

僕は、とても嬉しい気持ちだった。

きっと、いつものようにお酒を買っていたら、僕はあのような行動に出ていなかっただろう。

自分を大切にしたことで、他人も大切にすることができるようになった。

深夜のコンビニでは、今も日本全国で沢山の人が働いている。

コンビニだけでなく、街では昼も夜も、いつも誰かが働いて生きている。

それがどんな仕事であれ、どれだけ収入が少なかろうが、その全てが素晴らしい。

その全てがこの社会を作り上げている。

僕は、改めて普段街ゆく人や、出会ったこともないどこかで生きている人々に対して、感謝の気持ちが芽生えるとともに、僕も僕ができる最大限の力で、多くの人を幸せにしたいなと思った。

それは、綺麗事なんかじゃなく、僕が手がけたことで人が幸せになれば、一番僕が幸せを感じられるからだ。

ピアノスクールPIANARTを開校し、これから日本一のピアノスクールにすべく僕は沢山のアイデアと戦略を実行し、多くの人の幸せを作り、そして、何より自分が幸せになるよう、自分を大切にして生き、そして、他人も大切にして生きていきたい。

もっともっと、やりたいことがある。

もっともっと、僕はできるんだ。

まだまだこんなもんじゃないぞ。

見ててくれ。



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