見出し画像

まだ見ぬ音楽へ 創造・交流・発信拠点としての「外」 -3-

cover photo by Shun Ishizuka

“京都”にスペースを持つこと

――2016年に「外」をオープンされましたが、どのような経緯だったのでしょうか。
野口:これまでの話の続きなんですが、地点とのコラボレーションが大きな転換点でした。さっき言ったように、ものづくりの姿勢も含めていろいろ影響を受けたのですが、彼らは自分たちの場所「アンダースロー」を持っている、そしてそこで稽古もできる、本番も打てる、そういうスペースを自分たちも持てれば、という思いで、スペースを持ったらもっと良いものを作れるんじゃないかと思い始めた。スペースを持ったら時間をかけることができる。
山田:そのころ僕だけサラリーマンで2年間大阪にいて、2人は東京。だからライブのときに僕が東京に帰ってライブをやるという。
古谷野:ライブの直前に練習してライブするみたいな。だから曲作りの時間があまり取れなくて。
山田:それがちょうど地点の『ファッツァー』を作っているときとだいたいいっしょの時期で。
古谷野:地点の稽古の時間のかけかたとか、こんな夢のような時間があるんだみたいな。
山田:一方こっちはまったく時間ないみたいな状態だったから。それで自分たちのスペースがあって、こういう時間の使い方ができるのはいいよね、と。
古谷野:何でもできるじゃん!みたいな。
野口:時間の使い方ということで言うと、地点は、会社にしていて劇団員に給料を出していて、だからバイトする時間はないけど、その代わり、毎日のように稽古をしている。職業として劇団をやっている。それにすごく刺激を受けました。それで僕らも時間の確保と場所の取得というのをどうやったら良いのかを考え出して、それで京都に来たということですね。

――“京都”という場所を選んだ理由はありますか。
野口:いくつかあって、一つ目は地点がいるということですよね。もう一つは僕の仕事の事情とか、プライベートな事情とか、全部含めて考えたときに、京都という場所がいちばんこう…。
古谷野:良いぞ!みたいな(笑)。
野口:最初は僕の複合的な理由もあって2人に提案したところから始まりました。京都で場所を持って会社にして。
古谷野:地点とツアーでモスクワに行っているときに野口さんからその話があって、「マジか、京都か」みたいな(笑)。
山田:地点と一緒に作品を作っていたときに結構京都に滞在していたので、住んでいた東京を除いて言えば、他の都市より「なんか知ってる」みたいな。まあ今考えたら全然知ってるうちに入らないけど(笑)。
古谷野:うん、入らない(笑)。でも「地点もなんか生きていけてるからいけんじゃない?」みたいな(笑)。
山田:地点も東京から引っ越してきたから。もともと東京で青年団*という大きい劇団に所属していた人たちが独立して京都に移ってくる、みたいな。
古谷野:商業ベースでやっているわけではなくて、場所を持って作品も作って、それをあの人数でチームとしてやっているというのがすごく希望に感じられたというか。自分たちの場合は場所を持ったら、自分たちのライブもそうだし、これまで東京で一緒にやってきたアーティストとか、関西のアーティストとか、面白いと思える人たちを紹介していくこともできるんじゃないかなという思いがあって。
山田:そこが地点と違うところかな。地点は基本的にはアンダースローでは自分たちの作品しかやらないようにしているからね。

――実際に京都に拠点を移してみて何か変化はありましたか。逆に全く変わらないこととか。
古谷野:楽器触る時間はめちゃ増えたね。
山田:ほぼ毎日いっしょにいるからね。東京にいたときはバンド以外の時間はそれぞれあって、という感じだったから。だから、いっしょにいて3人で楽器に触る時間も必然的に増える、圧倒的に。あとは当たり前だけれど、ここでイベントをやったら3人とも同じライブやパフォーマンスを観ているわけで、一緒にその経験を経た上でそれで次の日、じゃあ練習するか、作曲するかみたいなことになる。そういう流れが以前とはまったく違いますよね。

野口:いろいろな人と交流するようにもなりましたね。「外」に出てもらうアーティストもそうですし、会社にしたことで銀行マンとも話さなきゃいけないし、あとは助成金の申請で国際交流基金とか、ファンドの人とのやり取りも増えたし、とにかくいろいろな人と関わるようになりましたね。
古谷野:変わらないことで言うと、京都に来てから京都の音楽シーンとの関わり方というのは東京にいたときとあまり変わっていないような気がします。京都のシーンにコミットしているとか京都のシーンを作っているという感覚はあまりない。
野口:よそ者だよね。
古谷野:そうですね。でも東京にいたときからそうなんですよ。何かのシーンに属するとか、このバンドの人たちと仲良いよね、みたいなのはなくやってきたので。京都に来てもそれはあまり変わらないですね。
野口:やっていることは大幅には変わってないけど、密度とか回数とかが明らかに変わったという感覚ですかね。今でも「外」以外のライブにも出ますし、ここだけじゃなくて違うハコでも企画をするし、そういう意味では全然変わらないけど、毎月のライブの回数が増えたという感じですね。

山田:あとは海外のアーティストが日本ツアーで京都に来るときにここでやったりするんですよね。それで僕らが海外に行ってツアーをやるとなったときに、そういう人と連絡をとって、海外でライブができるようになった。そういう交流のパターンも、やっぱり場所があるかないかでは違うのではないかと思います。ここで企画してライブやって、観て、僕らが対バンして、その後、いっしょに飯を食って、「外」に泊まって、次の日、京都駅まで送って、See you again!みたいな感じ。それで、向こうに行ってNice to see you again!みたいな感じでつながっていく。これは相当違うね。
野口:今まではまずなかったよね。海外の人との交流は。
山田:新しいレコードもそういった流れでできたので、つながりが増えたり密度が濃くなったりというのは、京都に移ったというよりも、場所を持ったことが理由かなと思います。
野口:京都という土地柄もあるよね。やっぱり海外の人は京都でライブやりたいだろうし。
山田:海外の人は京都好きだね。
古谷野:ライブがなくても寄りたいぐらいだし、ライブやれたらより最高みたいな(笑)。そういうオファーもやっぱりあるし。
野口:そういう話が来やすい場所ではあると思います。
古谷野:KEX*とかKYOTOGRAPHIEもあるし、「地点」もいるし。京都は確かに海外の人から人気ありますよね。
野口:やっぱり他の都市より文化芸術に力を入れているなと。京都市には芸術文化特別奨励制度*というものがあるんですけれど、今年奨励賞をいただいて。“バンド”に京都市がそういった賞を与えて補助金まで出すというのは正直無理だろうなと思っていたんですけど、今年それをいただいたというのは、京都市の懐のデカさを感じるところでもあって。そういう意味でも、京都を拠点に選んで良かったなと思えましたね。

空間現代と「外」のこれから

――5月に約7年ぶりのオリジナルアルバムとなる『Palm』*をリリースされましたが、今後の空間現代、また「外」についての展望はありますか。

野口:アルバムはとにかくいろんな人に聴いてもらえたらな、と思います。そのアルバムがまたきっかけになってライブにも来てほしいなと。
古谷野:今やっているライブと半年後にやっているライブでは何かが変わっている可能性があるので、今観て欲しいなと。
山田:演劇だと、作品ごとに違うという印象があるじゃないですか。Aという作品とBという作品は違うから、Aを観て半年後にBを観に行く。僕らの場合は基本的に「ライブをやります」ということだから、お客さんからしたら半年後も同じことをしている印象かもしれませんが…。
古谷野:楽器も衣装も変わらないし。
野口:衣装はいっしょというか、決まってない(笑)。
山田:場所はいっしょだし。でも結構変わるんですよね、僕らの場合は。
古谷野:かなり変わるね。「外」ができてから変化のサイクルはどんどん短くなっているような気がするな。
山田:そうそう。だから同じ「ライブ」と言っても結構違う印象であろうと思うから、今観てほしいし、次に観に来たら「違うな」という感触になるはず。そうやって新しい出来事をこっちはどんどん作るし、観る人もどんどん新しいものを観ていくという。
古谷野:お客さんによっても違うと思うし。
山田:そう。だからいろんな人に来てほしい。同じ場所で何回もやってるじゃないですか、そうするとお客さんによって反応が違うなというのがよりわかりやすくなるんですよね。お客さんの「今日はこうだな」みたいな反応には、こっちも影響を受けているので。だからいろんな人に来てもらって、毎回違うな、みたいな感じがサイクルとしてあって、お客さんもこっちもどんどん新しくなっていく。新しいというか毎回違うことになっていく。そうなっていけたら良いなと。
古谷野:僕らのライブ以外も「外」でやっているプログラムは、良いぞと自信を持ってやっているものなので、まったく名前を知らなくても、何か引っかかるものがあったら来てほしいなという気持ちはありますね。毎回自分たちにとっても新鮮で。自分でブッキングしていても新鮮さに驚くことしかないです。やっぱりなかなか知らないものを観に行くというのは難しいけれど、そういうものへの入口になれたら良いなと思います。クラブはちょっと怖いけど、「外」でやるんだったら行ってみようかなとかね。

*青年団:日本の劇団。1982年、平田オリザを中心に東京で結成された。
*KEX:KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭のこと。2010年より開催されている舞台芸術祭。世界各地の作品が京都市内の劇場にて上演される。
*芸術文化特別奨励制度:京都市が芸術文化の創造・振興を目的として2000年度より実施している制度。空間現代は2019年度奨励者に選出された。
*『Palm』:2019年5月、Stephen O'Malley主宰Ideologic Organよりリリース。オリジナルアルバムとしては『空間現代2』以来、約7年ぶりの新作。

「外」にて
2019年7月11日

空間現代 Kukangendai
 野口 順哉 Junya Noguchi
 古谷野 慶輔 Keisuke Koyano
 山田 英晶 Hideaki Yamada


インタビュー・構成:鈴木 奈々
本記事は立命館大学映像学部川村ゼミ編集「関西×アート 芸術文化を支える人たち Vol.10」(2019年発行)に掲載されたものを一部修正したものです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?