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まだ見ぬ音楽へ 創造・交流・発信拠点としての「外」 -2-

cover photo by Katayama Tatsuki

ジャンルの垣根を超えて

――劇団「地点*」とコラボレーションされたり「中山英之展 , and then」*(2019年)では『岡田邸』*(2019年)の監督、音楽を担当されたりと、様々な活動をされていると思うのですが、どのような経緯で他のアーティストとコラボレーションするに至ったのでしょうか。もともとみなさんの中にやってみたい、という気持ちがあったのでしょうか。

古谷野:最初はECD*さんだよね。
野口:ECDさんとやるイベント*のチャンスをもらって、それで初めてコラボしたんだよね。
古谷野:それが自分たちにとってかなり刺激になって。空間現代は空間現代の曲を演奏して、ECDさんはそれに自分の曲をラップする。空間現代は、さっき言ったように3人で作っているから「中心」がない。だから逆に余地みたいなのは残されていると思うんだけど、コラボレーションになると中心が生まれたり、でもやっぱりなくなったり。そういう面白い状況がうまれる。いっしょに曲を作って、アンサンブルをあらかじめ作る、そしてそれを発表するという形式ではなく、同時にぶつけ合うイメージでやろうという。違う秩序を持った2組が同時に演奏する、みたいなコンセプトでコラボができないかなあという発想が当時あったんですよね。それでECDさんともやったし、自分たちのレコ発 で呼んだsim*というバンドとか。
古谷野:飴屋法水*さんとかね。

野口:飴屋さんとの場合はぶつけ合うという感じとも違う形になったけど。コラボするときはそういうやり方でやるのが面白いんじゃないかというのがECDさんのときから始まっていて。空間現代は空間現代をやっているけれど、共演者も共演者で、共演者がやるべきことを同時にやっているという。あまり馴れ合わないというか。あっちがこれやったから、こっちがこういう反応をするということではなく、あくまでぶつけるという。さっき言っていたバンド内でドラムがギターと違う曲を演奏しているみたいなことにも興味があった時代だったので、コラボ相手がいると、お互いが異物感のままぶつかるという構図が作りやすくて、それが面白かったんですよね。

野口:地点に関して言うと、最初はいっしょにやるという発想ではなくて、自分たちの主催する企画に、「地点に出てもらいたい」、「なにかパフォーマンスをしてもらいたい」とオファーを出したんですよ。そしたらそれは断られて。
古谷野:日程が合わず。
野口:でも、地点としては「バンドマンからメール来たぞ!?」という感じで結構覚えてくれていたみたいで。断られてから何ヶ月後かに、京都でライブをすることになって、折角だから招待状を送ろうと。そうしたら、劇団員全員で観に来てくれて。それで「なんかいっしょにやる?」と言ってもらって、「え、いいんですか!?」みたいな(笑)。そこから始まったんですよね。その後、地点から誘いがあって、それで『ファッツァー』*(2013年)という作品をアンダースロー*で作ることになりました。

古谷野:この2010年あたりは、バンドとかライブを観るのがしんどい時期で。
野口:そういう時期だったね。逆に、演劇を観まくるみたいな時期だった。
古谷野:佐々木さんも意識的に演劇を観出した時期で、ブログでいろいろ紹介していた。それで観に行った地点はすごく衝撃的で、何を言ってるのか全然わからない…。でもかっこいい、と。物語としては頭から最後まで何かがわかったみたいなことはないけれど、「なんじゃこりゃ」という状態。それで何の考えもなしに「対バンしたい」みたいな。とにかく衝撃を受けたので、ファンレターを送るみたいなことをやって(笑)。飴屋さんにも、最初のアルバムのレコ発の時に「是非出ていただきたいんですけど…」という手紙を書いて。

野口:飴屋さんのときは何かやってくれませんかということでお願いしたら、飴屋さんも「だったらいっしょにやる?」みたいな。
古谷野:『4.48サイコシス』*(2009年)がヤバかったんですよ。それでぜひレコ発で何かやっていただきたいです、と。
野口:地点の場合はわかりやすく、作品を作る上で生演奏してくれとオファーをいただいたという。中山英之さんの展覧会に関しても、オファーをいただいて。
古谷野:中山さんが設計したお宅が「外」のすぐ近くにあって、その家主の岡田栄造さんがその映像を作るという話で、空間現代のことを気にかけてくれていて。空間現代と何かいっしょにやったらいいんじゃないか、ということでオファーしてくれた感じですね。

――実際にコラボしてみてどうでしたか。
古谷野:以前大橋可也*さんと何作品かつくったとき、ダンスのための音楽を作っていたんですけど、ダンスは台詞が無いから、ある意味、こっちがバーッとやってもやれちゃう。地点はよりその負荷が強くて。演劇ってお客さんが台詞を聞けないといけないじゃないですか。初めてアンダースローに行って稽古したときに、演出家の三浦さんが「音でけえな」って(笑)。
野口:「台詞聞こえねえな」って(笑)。
古谷野:「一言もしゃべれないじゃん」みたいな感じになって(笑)。じゃあ、音をもっと抜いて、間をどんどん開けていこうと。こっちにも自分たちのライブではありえない負荷が曲作りに反映されていて、それはすごく面白いことだなという感じはありましたね。いつもコラボレーションのために作った曲をライブでもやればいいのにと言われたり、自分たちでも思ったりするんですけど、それは全然できないんですよね。
――そのときにしか聴けないんですね。
古谷野:そうですね。その人たち、その作品ありきで作っているものだとなかなか汎用性を高められないというか。
野口:まったく自分たちと違う秩序や考え方を持っている人たちと何か一つのことをやるのはすごく勉強になりますね。地点といっしょに、今までとは違う形のコラボレーションで作るとなったときに、演劇はこうあるべきだとか、こういう展開で演出していかないと次のシーンに進めないとか、ものを作るにあたっての角度や心がけ、姿勢みたいなものが、今までの自分たちとは全然違っていて、そこには大きく影響を受けました。ライブは曲を何曲もやる場所としか考えていなかったんですけど、演劇ではお客さんが一つの時間の流れを見ているわけだから。音楽だって本当はそうなんだけれども、当時の空間現代は、やる曲はその日の気分で、もちろん選曲の善し悪しは気にしながらではあったけれども、一つの時間だという考え方をあまり持って演奏していなかったので。その発想を持ち始めた頃に地点といっしょにやって、とても勉強になりましたね。このシーンでこういう発話がなされていないと、次のシーンに移ることができないというのは、自分たちのライブを作るときにも活かされています。ある曲を演奏していて、突然違う曲に移ったって、それは全然意味がわからない。でも、次の曲の断片を今の曲に少しずつ入れていって、それが広がって、次の曲に行きました、だとなんか良い感じで次の曲に移れたね、次のシーンに行けたね、という感覚。そういった創作上の感覚は勉強になりましたね。ジャンルは違うけれどもなんか感動するなあということはあるので、畑の違う人たちとの交流は、その感動って何なんだろうと考えるきっかけにもなります。

*地点:日本の劇団。2005年に、東京から京都に移転。2006年、『るつぼ』でカイロ国際実験演劇祭ベスト・セノグラフィー賞を受賞。代表・演出家を務める三浦基は、2007年、「地点によるチェーホフ四大戯曲連続上演」の第三作にあたる『桜の園』で文化庁芸術祭新人賞を受賞、また2008年度京都市芸術文化特別奨励制度奨励者に選出された。2013年、ブレヒトの戯曲『ファッツァー』で空間現代とコラボレーション。共作第2弾として、2015年にはマヤコフスキーの戯曲『ミステリヤ・ブッフ』を上演。
*「中山英之展 , and then」:2019年、東京TOTOギャラリー・間にて開催された建築家・中山英之の個展。
*『岡田邸』:「中山英之展 , and then」にて上映された短編映画。空間現代は岡田栄造とともに監督を務め、また音楽を担当した。
*ECD:日本のラッパー、エッセイスト。1987年に音楽活動を開始。ヒップホップ・イベント「CHECK YOUR MIKE」(1989年)、「さんピンCAMP」(1996年)を主催するなど、日本のヒップホップ・シーンを牽引。2018年、がんにより他界。
*ECDさんとやるイベント:2010年の「早稲田祭Live」のこと。空間現代は、がん闘病中のECDを支援するため、「早稲田祭Live」コラボイベントの音源を収録したドネーションアルバム『Live at Waseda 2010』を制作している。
*sim:大島輝之、大谷能生、植村昌弘の3人からなるバンド。
*飴屋法水:日本の演出家。1961年山梨県生まれ。唐十郎主宰「状況劇場」を経て、1984年に自身の劇団「東京グランギニョル」を結成、独特の演出で注目を浴びる。パフォーマーとして空間現代、ECDとも共演。2014年、「ブルーシート」で第58回岸田國士戯曲賞を受賞、2018年、『彼の娘』で第31回三島由紀夫賞候補になる。
*『ファッツァー』:ベルトルト・ブレヒト作、三浦基演出。空間現代と地点の初コラボレーション作品。京都だけでなくモスクワ、北京でも上演。
*アンダースロー:2013年京都市左京区にオープンした地点のアトリエ。
*『4.48サイコシス』:サラ・ケイン作、飴屋法水演出。
*大橋可也:振付家。大橋可也&ダンサーズ代表・芸術監督。1967年、山口県生まれ。「和栗由紀夫+好善社」で舞踏振付法を学んだ後、1999年、大橋可也&ダンサーズを結成。2013年、舞踊批評家協会新人賞を受賞。同年、空間現代と大橋可也&ダンサーズのコラボレーション作品として『ライノ』を上演。

空間現代 Kukangendai
 野口 順哉 Junya Noguchi
 古谷野 慶輔 Keisuke Koyano
 山田 英晶 Hideaki Yamada


インタビュー・構成:鈴木 奈々
本記事は立命館大学映像学部川村ゼミ編集「関西×アート 芸術文化を支える人たち Vol.10」(2019年発行)に掲載されたものを一部修正したものです。

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