少しの清涼剤
帰宅が遅く、日付を超えました。今日もリハーサルがあり、修理から戻ったばかりの5弦ベースは、わかっていたのですが、やはり駄目でした。この楽器との相性の悪さを考えると、思い入れが深かっただけに胸が痛みます。そうした悲嘆は、我に返ったときに「家」の事を思い出してしまうと、更に深まります。昨晩、リフォームの担当者がこちらへ戻ったとの連絡をくれましたが、それに対する返信の返信がありません。この不誠実に、怒る気持ちは既に湧きませんが、ひたすら気持ちが沈みます。帰宅の途上、運転していてもどうしよもない悔しさに襲われ、これから乗り切るべき山場に挑む気概が霧散してしまうのを他人事のように観察しました。
少しだけ、市販薬の鎮痛剤程度に、気を紛らわすことのできるものがあります。こんなものに、その効力を持たせてしまうほどに、私の精神的なコンディションが低下しているのかもしれません。そして、それは、今さら取り上げるのも恥ずかしいような、「流行り物」に過ぎません。しかしそこに含まれる成分の何かが治癒を促すことは事実です。
昨年のお盆の頃にアップされた動画です。ミュージックビデオ。エルトン・ジョン、デュア・リパ名義のコールド・ハートという楽曲がそれです。これは、エルトンの古い曲のメロディをマッシュアップし、リハーモナイズした「リミックス」ものです。よくこういうことは一世を風靡した米国テレビドラマのグリーでも行われていました。しかし、ここでは新曲と言えるほどに姿を変え、元ネタを知らなくてもアピールできる完成度になっています。とはいえ、手法はレトロ。私たちが若い頃に耳にしたサウンドに近い。イントロのシンセパッドは「頭」でハイハットが「裏」ですが、ベースが鳴るまで逆に聞こえる、なんて手法は我々が作曲するときに何度使った手か。
曲には、何度でも聴きたくなる媚薬成分が配合されていますが、ビデオの気持ち悪さも凄い。これが破壊された私の精神を慰撫します。この世界観。宇宙ありユートピアあり、多層のカルチャーで混濁しています。幸福を描いているのか、それを切望する暗黒を描いているのか不明です。私の目にはカオスに映ります。まるで70年代そのもののような。こんなアニメーションを、よくもきちんと作ったものだと思います。私の知見では理解が及ばない。
シンプルにディスコティックなアレンジは蠱惑的かもしれず、ただこれをリピートして60数分に引き伸ばした動画がアップされています。エンドレスで流したい、塞ぎ込んだ気持ちの人類に私は共感します。ただ、オフィシャルビデオの方が、脳に程良い混乱を与え、苦しみを忘れさせます。今日もさきほどまで4回繰り返し視聴しました。こういう人間達によって総計2億7千万回再生されています。3分半の楽曲ですから約15分のヒーリングタイムでした。当面の間、毎日施してもきっと毒にはならないだろうと思います。
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