損害保険会社

私の前職は前記の通りです。社員であったことも代理店であったこともあります。火災保険、自動車保険、傷害保険を扱う金融庁管轄の上級資格を有していました。勤めていたのはバブル真っ只中。とくに高金利をうたい文句に積立型の傷害保険を多数販売しました。お金を集められるのが当然、という空気の中、「予算」という名で課せられるノルマは月間100万とかでしたから、保険の売り上げ高でそれを達成するのは、実際には極めて困難でした。

未達成が連続すると支社長に圧をかけられ、ブラック企業といった概念のない時代ですから、その無言の意味する、自分に保険をかける、という形で売り上げに貢献しました。自己物件というやつです。保険代理業には自己物件比率が定められており、限度があります。しかしその一杯までかけ、退社時に解約して、結局大損しました。献金ですね。

保険会社とは、絶対損をしないようにできています。そりゃ、自然災害多発などで保険金支払いが爆発的な年があったとしても、相互保険という形で全てが自社で負担するわけではありません。保険金が嵩めば、保険料率の値上げで対処すればいいだけです。昨今、自動車の任意保険が頻繁に見直され、毎年のように保険料が値上げされています。私は、それこそビッグモーターの罪と思います。

今回の中古車販売大手のビッグモーターという会社が数々の不祥事を働いたことの被害者は、直接的には無関係な私たちです。そして思うに、これは確実に損保各社が加担しています。一部報道に、Win-Winの関係であると書かれているのをヘッドラインだけ読みました。そのとおりでしょう。

ビッグモーターは代理店でした。どこかの専属ではなく「乗り合い」という形で複数の損保会社と代理店契約を執り行っており、それは支店の置かれた環境で損保各社の力関係などもあって、どこと強い関係を築いていたかはケースバイケースでしょうけれど、保険商品を販売する役を担う、言ったら損保会社の出先機関でありました。

損保ジャパンは損害賠償請求を行うと報道されています。いや待って、共謀してないことを証明できますかね。保険金の水増し請求は詐欺行為であってビッグモーターに問題があります。保険会社にはアジャスターという職種が居て、損害調査を行います。事故があったらその場に出向いて損害額の見積を出し、保険金の支払い額を、保険の約款にある決め事に従って決定します。

アジャスターは、保険会社にとって経費たる、保険金の支払い額を抑えた方が職務上の正義にはなるけれど、契約者が満足のいく額を支払えば恩を売ることができます。水増し請求を飲んだとて、むしろそのメリットが大きければ目を瞑るくらいのことは朝飯前です。

保険会社の収入は保険料のみですので、1件でも多く保険商品を販売したい。契約を多く取ってくる代理店があれば、裏では優遇をします。本来は保険料に含まれる謝礼分が法的に決まっていますが、やはり優秀な販売店へは相応の待遇というものが待っているのです。最初に、上級の資格、という言葉を用いていますが、個人が代理店を営む場合には、難易度の高い資格を取ることで保険料からのバック率が合法的に上がる仕組みです。裏ではそれ以上のことが行われ、業界では「バーター」と呼ばれます。

自動車販売店や修理工場が保険代理店を兼務するのは常識ですが、あのような大きな組織が水増し請求をしたとして、それを黙認した保険会社があったとしたら、それはもちろん相思相愛で間違いありません。保険会社は他社に流れる保険を自社へ集める競い合いを行っていますから、そうした戦いに勝つための水面下の交渉は実際に行われており、グレーゾーン、あるいはブラックな手法が戦略的に開発されるのは当然のことです。

といった舞台裏を妄想するのは、少しでも業界にいた為ですが、保険会社は保険料支払いが増えた分を、ちゃんと保険料値上げでペイしていますから、懐は痛まないわけで、今回のことで損害賠償請求すると聞いて、私は正直笑ってしまいました。金融庁は、本当に徹底して業界を洗ってほしいと思います。車の方だけじゃなくて保険の方も。

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