Sailing Wonder

Better Daysからリリースされた渡辺香津美さんのソロ8作目は、Mermaid BoulevardがGentle Thoughtsを迎えて行われたセッション同様、Manhattan Blazeという集団とコラボレーションしています。Kazumu Boxのライナーを見ると、増尾好秋さんを筆頭にリズムセクションを担うグループのように書かれています。しかし巻末の松下佳男さんの解説ではホーン・セクションのグループであるとおっしゃっていて、実体がよくわかりませんでした。

というわけで検索してみるとBetter Daysより79年にリリースがありました。"Venus Eyes"というタイトルで、メンバーは(付き合わせて検討していないのでアバウトですが)Village in Bubblesと同様のようです。というより、ホーン・セクション、ストリングス・セクションを加えた総勢30名にもなるようなプロジェクトであるらしいです。ベーシストのAlex Blakeは前年の"Lonesome Cat"にも参加しています。そして増尾好秋さんがメンバーです。

先日、14歳だった私のバイブルとなったアルバムを5枚挙げた中に、絶対に加えなければならない1枚を落としていました。まさに失念とはこのことです。日本コロンビアによるBetter Daysの、おそらく1年後塵を拝する形でスタートしたキングレコードのElectric Birdレーベルの第一作となる、増尾好秋さんの"Sailing Wonder"でした。

Village in Bubblesに増尾さんが参加していることを知るのが40数年後になってしまいましたが、Sailing Wonderはリリースされたときから即入手し、長く愛聴しています。高校入学後に、私はまたしてもベースを弾かないかという誘いから、今度は比較的積極的にベース弾きへの転向を決めて自身の楽器も手に入れます。そうして組んだバンドで何をやるかとなったときに、私からの要望は"Sailing Wonder"(タイトル曲)を演奏することでした。学内でライブを行う時、この曲のイントロにはSE用に売っているレコードから抜き取った波の音を流しました。少々激しい高浪は曲調に合いませんでしたが、リクエストした本人にとっては無くてはならぬ演出だったのです。

この曲は、収録されている他曲とメンバーが異なり、ベースにGordon Edwards、ピアノにRichard Teeが参加しており、もちろん作品丸ごと大好きだったのですが、格別に味わいが有ったと思います。そのサウンドが無ければ、そこまで特別では無かったかもしれません。増尾さんのコンサートは、できるだけ足を向けていました。ふと現在の情報を見ると、今秋の土曜日にも都内ライブハウスでギグがあるようですが、残念ながら伺えません。

"Sailing Wonder"は1977年6月25日から11月15日にかけて、NYのElectric Lady Studioにて録音され、1978年の発売。香津美さんはOlive's StepとMermaid Boulevardの2作を録音していた期間です。同年12月にはLonesome Catのために渡米していますが、次作Village in Bubblesは78年8月22日から29日まで録音を行っており、Manhattan Blazeによる"Venus Eyes"は78年10月、同じくSound Ideas Studioを使用しています。この期間における、増尾さんと香津美さんの協業が、当時の新鋭によるNYサウンドであり、リートの共演はLAサウンド、坂本さんとのコラボはTOKYOサウンドと、変幻自在でありながら、それら全てのクォリティが突出した高次元にあって、円熟した完成度を誇っているのが、振り返れば奇跡としか言いようがありません。

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