Humpback engineeringのThor's boxについて少し の2

昨晩録って出しの音源を2本アップしました。これでDI/ベースプリアンプのテストとして6本になりました。ごく私的な、もっぱら焦点としている使用目的に照らしてのテスト環境ですから、多くの方にとって参考になるかどうかはわかりません。ただ、このbolog主の興味の対象がそういったエリアにあることを知って頂ければ、こちらの文章も、そこに言い足りていないことも含め、少し深みのある伝わり方になればいいなという思いがあります。

プロ機といったもの、正確にそのカテゴリーを示すのは難しいですが、製造メーカーの規模から、大多数のユーザーに失敗させない配慮の行き届いた仕様がもたらす妥協を排除する意味での、細心の注意を払って製作される機器を指していると言うこともできます。

「音の良さ」という言葉にも、本来規定が成されるべきですが、私は見通しの良さがその指標の一つと思っています。私がオーディオ製品の優劣を判断する場合、誤解を恐れずに簡略化すれば「今まで聞こえなかった音が聞こえてくる」点を挙げさせて頂きます。例えば、バックグランドコーラスは女性ばかりだと思っていたのに、男性も混ざっていたな、ということがわかったり、1940年代のビッグバンドの録音(マイク1本での収録だとか)からベースラインを拾えることだったりします。その時のボーカリストの表情が見えてくるとか。もっと言えば、アコースティックギターの音がマイクを立てたものか、ピエゾPUを装着したライン録音か、みたいな。よく聴いたソースであっても、新たな発見があること、その感動をもって「いい音だなぁ」と呟くことが多くなります。

演奏の現場、録音の現場においても同様ではありますが、奏者としての立場から、「弾きやすい」と実感できるかどうか、これも「音の良さ」を言う場合の一指標となります。また楽器自体については、求めていた音色が得られた時、夢想したものの具現化を実感できた時に、それが「良い音」となってしまいます。

何が大切かというと、私が「音がいい」と申したものが、誰の耳にも同様の評価となるかはまるで不明であることです。無責任なようですが、人の評価を見る時に、肝に銘じています。誰かが「いい音」と言った物が、自分にとっても最良であることは、むしろ稀(まれ)なことが多いくらいです。

プロ機は、そうした意味で、目標がピンポイントであり、製作者の耳が最良を決めています。そこを信頼するかどうか。導入したら、それを手にして自分も追認できるかどうか、というプロセスで評価は完成します。

Thor's Boxの試奏環境について追記を行います

民生機であり、価格的にもビギナー向きといえるヤマハAG06というミキサーのch1、ch2は、両者ともマイク入力を前提としています。ゲイン調整ノブはありますが、それをミニマムにした状態でも、多くの、特に民生用のマイクロフォンが使いやすくなるよう、またエレキギターなどを直接挿して使用できるよう、元々のゲインは高めに設定されています。仕様表のリンクを貼っておきます
https://jp.yamaha.com/files/download/other_assets/4/333134/ag06_enforja_ts_a0.pdf

これを見ますと、私の使用したch2(ch1も共通)は26dBのパッドをonにした状態でゲインをミニマムにすると0dBu(775.0 mV)となっていますので、やはりパッドを入れることが、プロ機を利用する際の前提となります(デフォルトのパッドオフが、逆に26dBブーストされている設定と言えます)。むしろラインインに入れるべきですが、この機種の3/4ch、5/6ch(いずれもステレオ仕様)にはアンバランス入力しかありません(ちなみにですが、キーボードを入れる際にライン入力も"Low"ゲイン側にスイッチを入れる必要があります)。AG06はバスパワーのDACにミキサー機能を搭載している便利な品ですが、このような仕様から言えるのは、全然「製作」向けではありませんね。

というわけで、そもそもマッチングは文字通り「アンバランス」なものでした(ステレオトランスボックスをリスニングオーディオ環境に持ち込もうとした時と同じです)。この件に関して戸田さんにお問い合わせしたところ、あちらでもヤマハの仕様書を見て頂いた上で、まず一旦歪んでしまったことに対して、機材(DI)には問題がありませんという回答をいただいています。マイク入力には対応しておらず、ラインドライバーと思ってくださいとのことでした。

その後にTwitterで呟かれておりましたが、おそらくこれを受けてのご発言と推測します。スイッチひとつ付けただけで音質が劣化してしまうことがあり、それを確認した以上は(気持ち的に)付けることができない、と心中を明かしておられました。よく理解できます。

いわゆるプロ機というものは、一昔前は楽器店への卸の流通に乗っておらず、よく聞かれたのは「特機扱い」という言葉で、メーカーから定価で買う、みたいなことが多く、それだけに知る人ぞ知る、であり、満足な取説も付属せず、知識のある者だけが扱える、そうでない者にはむしろ危険、みたいなジャンルでした。MDR-CD900STも、その代表でしたね。

思い出しついでに検索してみると
『本機は業務使用を目的とした、プロフェッショナル仕様のヘッドホンの為、無償修理期間は設定せず、すべて有償での修理とさせていただいております。』の一文が!
https://www.sony.jp/headphone/products/MDR-CD900ST/

現代はインターネット、SNSなどのインフラ整備の成果で、BtoCも容易になると共に、プロ機がいきなり初心者の手元にも届くようになりました。そこでは正しい使用法を理解していることが前提となっており、知識の不足や、周辺機器とのミスマッチングを原因として、その性能が発揮されないケースがあります。まさに、私のテスト環境がそうだったことを本日記載させて頂きます。

言語化した音質評価はあくまで主観的なものですので、簡便に済まそうと思います。奏者の観点から言えば、弾き易く、リスナーの観点から言えば、より微細な音色変化を聞き取ることができます(特に全音域の中のかなり低い方で顕著)。というわけで、これを要約すれば「音いい」となります。昨晩、私がSound CloudのリンクをTwitterで呟いたところに書き添えた言葉の意味は、そういうことです。

現時点でwebページに表示が無い(ショッピングできない)状態であるのは、生産が追いついていないためだそうです。おそらく他のヒット商品の製作やら、また何か凄い製品の開発に追われていることでしょう。また、電源入力が前面にレイアウトされているのは、エフェクターボードに組み込んで使用した時の利便性が考えられているそうです。なるほどアンプへ信号を送る「パラアウト」が一段上の挿しやすい場所に設置されています。裏へ回すことも可能とは伺いましたが、そのようなカスタムも含め、当面受注を見合わせているとのことでした。早くお返ししないとと思いつつ、もう何種類かのサウンドデモを録れたらいいなと考えています。素晴らしい製品をありがとうございました。

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