買っときゃ良かったな、の話

タイヤ選びは終了しました。次にこの案件が浮上するのは、タイヤの寿命を迎える時か、車両買い替え後のシーズンタイヤを選考する時くらいでしょう。マニュアルトランスミッションの小型軽量車種でありながら2.0Lターボの、タイムラグを感じさせない下からのトルクに助けられ1500回転少々でエコ走行が無理なくできるので使い勝手最高です。5000km程走ってみた感想として、クソ使いにくいナビゲーションと前車追従型ではないクルーズコントロールとか装備面にある少々の不服は、純正オーディオの音の良さとシートヒーター付きのレザーシートのかけ心地良さでちゃらにできます。敢えて難点を指摘するなら、個人的な好みに照らして、もっと重心と視界が低いと楽しいとか、やはり長く乗っていたフランス車のような路面のいなし方が理想だとか、欲を出せば切りがないので考えないことにします。

タイヤのことを調べていて出くわす言葉に「スポーツ走行」というワードがあります。物事を斜めに見る癖のある私からすれば、何それ?と、瞬間いらっとします。公道で「スポーツ」って、飛ばすって意味でしょ?と。法的に制限速度があるなかで、飛ばしたら違反でしょ。制限速度の範囲で、自動車を転がしてスポーツを感じる、多分それは高揚感を得るとか、集中力を要求されるとかの、「ドライバー」が、運動している状況下に準じた内的な状態に置かれていることを指すと思うのだけれど、だとしたらパワーのある車、車体の大きい車では無理っぽい。もちろん、ジムカーナとかサーキット走行とかならわかるけど、大半の人は経験しないと思います。

自分が思う通りに動いてくれることと、その結果として身体に重力を感じつつ、流れる景色と発するノイズによって刺激を受けることなどがあれば、運転が楽しいと思えるし、もしかしてスポーツしているのに近い状態かもしれません。乗り物の動きの良さを体感するのに、後輪駆動であることは望ましいし、マニュアルミッションは必須だと思っています。そして小型軽量であること。法定速度内で楽しむために、あるいは人と競わない場合には。

2020年の8月に、正味1ヵ月の調査の末に決断したミニには、冒頭述べたように大きな不満は無く、最適解を導くことはできたと自負しているにもかかわらず、外に向かって訴えたくなる感情があります。たったひとつの、悔いと言えるものかも知れません。

まったくもってインターネット界のお節介のせいで、Youtubeのお勧め(あるいはweb広告)には、せっかく治まっていたのに、タイヤ選びのお釣りとも言うべき、車情報が散々入ってきます。これほどあからさまに目を付けられて、虎視眈々とカモにしてやろうと狙われる事ってかつてありましたでしょうか。

8月に検討した車種のうち、恐らく他者に相談すればそれにしとけと、口を揃えて言われそうな1台があります。Abarth 124 spiderがそれです。いえ、実際背中を押す人が数人いました。

今朝開いたYoutubeのお勧めトップに土屋圭一さんがホストを務める124の動画が来ていました。


昨年上期に製造中止となっており、8月の時点でも各ディーラーがすでに押さえている商材のみという状況でした。私が前車のVolvoを購入したディーラーが別店舗でFiat / Abarth / Alfaromeoを扱っていて、Fiat500ベースのFF Abarthも候補に入れていましたし、買った店での継続利用には恩恵もあると見て、査定などしてもらっていました。ショウルームには124もあり、それ自体が購入対象となる実車でした。一方、わが家から徒歩圏内にも異なる運営会社による同メーカーのディーラーがあって、訪ねてみると試乗が可能でした。

私はFFの595とFRの124に乗らせていただき、自宅のガレージの出し入れを含む近場の試乗を叶えさせてもらいました。もちろん、そちらのお店でも購入が可能でした。二つの会社の商材は赤と白、一方にはレカロシートが装着されており、見積もりを比較して有利な方と契約すれば9月には124 spiderのオウナーとなっていました。これは新車で同車を所有できる最後のチャンスだったと思います。レアな中古車は高騰していますし、今後も値は下がらないと思われます。

124はマツダ工場が製造しておりますのでロードスターと姉妹関係です。ロードスターは幌の1.5Lと機会開閉式のハードトップの2.0Lの両方をすでに試乗していました。1.5Lは良い車でしたが、エンジンを回して走るタイプですので、狙っている楽しさは理解できますが、いま私が欲しい車種ではありませんでした。一方、2.0Lは余裕があり日常の足からロングドライブまで幅広く使えそうでした。124は1.4Lと小排気量ですが、パワーを絞り出せるチューンが施され、使いたい時に使いたいだけの力を俊敏に得ることができる味付けでした。これら3台を較べて、お金を払う価値があるのは124だと感じました。

自動車製造業界が、動力に化石燃料を用いない方向へシフト、ならびに自動運転化の推進によって、かつてない大きな転換期を迎えている昨今、このような20世紀的な自動車は、それ自体が化石へとなりつつあります。私が若かった頃の「自動車」は潰えてしまう運命にあり、もはやその世界へ足を踏み入れていることを肌で感じずには居られません。昨年は、ノスタルジックな車両を手にすることのできる最後のチャンスだったかもしれません。私は、マニュアルミッションを走らせることができなくなったと思うまで、今のミニを使い続けるつもりで、その後にまだ自動車の所有が必要な場合には、おそらくその時点での最新のものを買うことになると思っています。

前回ディーゼルエンジンのVolvoを買った時も、これが最後かな、と思いました。案の定、Volvoは電動化推進の先鋒となって、いち早く液体燃料を使用するエンジンを搭載する車種を整理する発表をしています(正確な認識とは言えない表記かもしれません、勢いで書いています、すいません)。

私はミュージシャン活動を辞めてはいないので、楽器運搬の用を担う車両の所有は必須です。最適解と書きましたが、ミニはバランス良くその需要を満たしてくれました。アバルトであれロードスターであれ、荷物を積めないことは問題です。Mayones(今年の2月に買ったベースです)のハードケースは巨大で、おそらく助手席に積んで幌を畳むことはできないでしょう(リアトランクに積めるサイズのアンプは実在すると思います)。引っ越した後の、ちょっとした家具を買って帰るのにも用を成さないようでは務まりません。ただそれだけが124 spiderを諦めた理由です。

動画を最後まで見ると、23分前後に興味深いコメントが聞けます。土屋さんはテスターですが、動画主側の男性が、この車両のチューニング担当者によるお勧めを伝えます。アバルトの装着タイヤは205 / 45R17ですが、195/50R16にするともっと楽しくなりますと。動画では17インチにすると、とおっしゃっていますがおそらく言い間違いで、要は現行ロードスターと同じにすることを勧められております(メーカー諸元を見ると16インチです)。

というわけで、さんざん私が主張してきた言質と同じ事がプロフェッショナルから聞けたことで(車種違いは承知の上でワードの一致だけです)膝を打つ嬉しさとともに、後悔が再燃してしまった心のざわめきをここに吐き出して終わりたいと思います。

あ、最後にもうひとつ。ロードスターの周年記念の特別仕様車でオレンジ色に塗られた限定車があります。近隣に所有者がいるらしく、ハードトップのRFと何度かすれ違うんですよね。あれは8月時点ではすでに終了していて、所詮買えませんでしたが、見るたびにいいなぁと思います。時々こうした雑念に囚われることもあるので、物欲のモチベーションは扱いづらいですね。


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