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おれたちにとっての「ラブ」~『名もなき野良犬の輪舞』~


ちまたではおっさんラブ…おっさんずラブ…おっラブ……おっさん?おじさん?いやおにいさん…アッ…達磨一家の…おにいさん…アヘアヘ…が流行っておりますが皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか。私は見ておりませんが林遣都くんが幸せになっていたら嬉しいです。

男と男の関係にさまざまな感情を抱く人間がいるだろう。北方謙三のハードボイルド中国史を読んで生まれ育ち、かのLDHが発した伝説のドラマ映画シリーズハイアンドローに心ときめき、おすすめされた『新しき世界』をはじめとする韓国ノワールによって性癖はハッピーエンドを迎える。わたしである。
血生臭い抗争、拷問、義兄弟や親子の盃、刑務所や裏稼業の組織における異性不在の領域、そこで広がりゆくハードなロマンスがお好きな同好の士は多くいるだろう。
ゆえに、おれのラブはこれだと叫ぼう。

ああ~~~~~~~~感情がメチャクチャになる~~~~~


『不汗党』もとい邦画タイトル『名もなき野良犬の輪舞』である。


おれたちはハッピー恋愛青春映画に唾を吐く生まれながらのメンヘラだ。人の幸福を憎み、自分の不幸を恨んでいた。しかし尊い推しがいれば彼らの幸いを祈りながら、推しが滅んで行くさまに泣きながら勃起する。

そんなおれたちが映画館で上映されるコンテンツに求めるものは何か?大画面で見応えあるスリリングな展開や構図、人と人との繊細な関係、痺れるような音楽…それらと性癖が完全合致すれば言うことはない。いやいやそんな恵まれた作品なかなかある訳がないって…と思っていた。

あるんだなこれが。

この物語にはたくさんの良いかんじの男が出てくるが、特に重要なのはポスターを飾るふたりの男である。かたやヤクザ組織の一員であり、同組織の人々に一目置かれながらも同時に恐れられる、笑い声がやたらと耳に残る虚無で出来た男。かたや組織を壊滅させるために送り込まれた警察組織のスパイであり、傾国じみた美しい面立ちの中に破天荒な狂気が見え隠れする青年。男はこれまでの人生の境遇から、笑顔の下に誰も信用するなという戒めを抱き、青年を利用しようとたくらむも気づけば青年によって心が惑わされていく。いっぽうで青年も、光差す場所から離れて行き、世界のすべてに裏切られるような境遇の中に溺れながらも男を兄貴と慕う。彼らは出会い、喧嘩をし、助け合い、笑い合い、そうして生きていく。


なんかもうメッチャズブズブだ。怖い。


ここまで読んだ貴君らはこう考えるだろう。「あ~そういうの好き~」と。



絶対好きだから!!!!!!!!観ろ!!!!!!!!!!!



この映画は頭からつま先まで愛で出来ている。愛に対して実直な監督と脚本と演出と俳優によってこの映画は完成された。時としてそれは恋愛であり、家族愛であり、兄弟愛であり、友情の愛であり、憎悪の愛であり、お互いの孤独を埋め合う寂しい愛である。彼らの歩む鮮烈なストーリーはまるで極上の青春映画のようでもあり、その美しさに私たちは感嘆しながらも、じわじわと首を絞められていくような閉塞感を覚え、ラストのエンドロールで呆然と涙し、帰宅しながらも二人の事を考えては泣いてしまう。

二人の男がいて、彼らの人生はまったく異なっていたが、彼らは偶然あるいは運命によって、出会うべくして出会う。彼らは性格も生い立ちも何もかもが違うかったが、どうしてか寄り添い、愛することを選び模索した。それはいかなる言語でも言葉にはし難いような感情を抱えて、彼らはお互いを知った。

いつしかお互いはお互いに運命となり、絶対になり、お互いで踊る夜を慈しみながらも、しかしその結末は起こるべくして収束する。ただ一点の悲しみへと。

そんなポエムをまき散らしてしまいそうになるのがこの映画である。私はこの映画を見、ありとあらゆる言葉を忘れ「あー」と「うー」と「ヒョンス」以外の言語を失ったのであった。

これは美しい悲劇であり、美しい喜劇である。限りなく美しい愛である。


日本版予告は非常にネタバレが多い為ネタバレを避けて劇場へ赴きたい人間は公式サイトを開き予告を回避し描かれた映画に纏わるさまざまな情報を読むなどをしてから後に劇場へ行くことをおすすめしたい。しかし予告は大事なので貼っておく。


私は出来ることならば多くの人、あるいは私の性癖が合う人間にこの作品を見てもらいたい。しかし難点がひとつある。配給がクソ。

(公式サイトより)


もうなんかぜんぜん意味がわからない。この世の人類が見るべき映画が、なぜかくも上映劇場が少ないのか。おかしい。あと50000000くらいは必要。

なので、近場に劇場があり、名もなき野良犬の輪舞が上映しているあなたは幸運だ。たぶん良いことがあるだろう。宝くじ当たるとか。見に行こうとしたけど上映館がなかったあなたも、見に行こうとしただけえらい。多分宝くじが当たるだろう。


私はこの物語を観れたことに深い感謝を捧げ、上映してくれた劇場の方角へと頭を下げる。寝る前にはかならず「ヒョンス…」と呟きながら涙を流す。ここ数日の生理現象である。

たとえTVが観れずおっさんずラブが見れなくても、不汗党はおれたちに愛を見せてくれたのだ。それがどれだけ尊いことか、俺たちは理解する。


たとえ悲劇であったとしても、愛は確かに、ここにあるのだ。


映画感想をしようとしたが大分眠く偏った文面になってしまった。この映画のすばらしさは私の言葉では到底語れない。しかし少しでも興味を抱いたら、是非見てほしい。


日々のごはん代や生きていく上での糧になります