見出し画像

史上最悪の遭難事故が発生したトムラウシ山をトレースした話。


※ 上記以外の人物は私ではありません。


2019年7月、日本百名山に数えられる名峰北海道大雪山系トムラウシ山へ行ってきました。この山は約10年前に悲惨な遭難事故が発生した山でもあり、今でもトムラウシ山遭難事故は史上最悪の遭難事故として語られています。

行動遭難事故を起こしたパーティの行程はこちらです。ほぼ同じルートを辿っています。

【1日目 歩行距離:約12.4km】
・旭岳ロープウェイ姿見平駅 - 旭岳 - 間宮岳 - 北海岳 - 白雲岳避難小屋 - 白雲岳 - 白雲岳避難小屋
【2日目 歩行距離:約16.3km】
・白雲岳避難小屋 - 高根ヶ原 - 忠別岳 - 五色岳 - 化雲岳 - ヒサゴ沼避難小屋
【3日目 約16km】
・ヒサゴ沼避難小屋 - 日本庭園 - 北沼 - トムラウシ山 - 南沼 - トムラウシ公園 - 前トム平 - トムラウシ温泉


1日目

旭岳ロープウェイ姿見平駅の全景。雲ひとつない快晴です。

画像1


7月ですが北海道には雪渓が残ります。正面が旭岳。今日はあの山を越えた先へ行かなければなりません。

画像2


だいぶ近づきました。「シュー、シュー、シュー」と火山ガスが漏れる音が聞こえます。

画像3


このまま一気に旭岳へ到着です。

画像4


休憩は10分ほど。登頂してから間もなく道がない雪渓を下ります。
この天候の変化を見てほしいのですが、山の天気は一瞬にして視界ゼロになります。経験がなければこの時点で遭難するおそれもあります。

画像5


しかしながら、下り切ると、一面のお花畑。複雑な表情を魅せてくれる大自然は文句なく美しい。

画像6


こういうルートで旭岳の裏側を下山しています。

画像7



しばらく歩くと有毒温泉へ到着します。本当に毒々しい硫化水素が湧いているそうです。遭難したパーティも見た景色です。間宮岳の近くです。

画像8


有毒温泉を抜けると、ここからは生命溢れる花畑が続きます。

画像9
画像10
画像11
画像12
画像14
画像15


しばらく歩いてようやく分岐へ。道しるべを頼りに壮大な大地を進んでいきます。

画像14


途中、白雲岳へ登頂。戻って、1日目の幕営地である白雲岳避難小屋へ。既にテントが複数張られていました。
ここはキツネが出るのでテントの外に物を置いてはいけません。

画像16


水を汲みに行くと、ほら、キタキツネに遭遇。キタキツネならいいですが、ここはヒグマの生息地でもあります。

遭難事故があった当日は激しい雨だったと記録されています。
地形から推測すると、一瞬で濁流になる部分も多くあり、山行を続けるかはガイドの判断が重要となります。

画像17


この後、夕食にはチキンライスを作り、持ってきたワインで疲れを癒しつつ雄大な景色と月を眺めながら就寝しました。

画像18

2日目

朝の斜陽が届かないうちに幕営所へ別れを告げます。
白雲岳避難小屋は静かに佇んでいました。

画像19


1時間ほど歩いて目的地のトムラウシ山(矢印のところ)がようやく見えました。
2日目は遭難者が遭難したヒサゴ沼避難小屋からさらに奥の南沼キャンプ指定地を目指します。

画像20


先達が石を積み上げて配置したケルンを見ながら、かすかに見えるトムラウシ山を目指します。

画像21


忠別岳の手前にある忠別沼。

当日は快晴だが、10年前に辿った遭難者も悪天候の中、ここを通過している。

画像22
画像23
画像24
画像25


忠別岳へ到着。快晴です。
10年前はここも豪雨だったかと思うと、残念でなりません。

画像26


忠別岳を過ぎると、また花畑が出てきます。
10年前と同じ時期ですが、こうも違うのかと考えてしまいます。
白い花は「チングルマ」という花で、私が好きな花です。

画像27
画像28
画像29


忠別岳から神遊びの庭を過ぎて、いよいよ核心のポイントです。
分岐地点がヒサゴのコルです。左に進むとヒサゴ沼避難小屋があります。
当時、この時点で風速20~25メートルあったそうで、身を隠す場所がないため転倒する者が後を絶たなかったそうです。

画像30


木道が続く場所はロックガーデンと言われる地域です。日本庭園の様相があります。だれも手入れをしていないと思われるのですが、ここまで日本を感じさせる造形美はまさに秘境と言って過言でないと実感しました。

遭難したパーティは、悲しくも悪天候の中を突き進んでしまいます。

遭難当時は、大雨で溢れた水が大きな川となり押し寄せていたそうです。それは幅約2メートル、水深は膝ぐらいまでと記録されています。パーティは川の中に立った一人のガイドと、もう一人のガイドの助けを借り何とか渡りきったそうです。

ですが、ずぶ濡れとなった身体はこの後、低体温症になります。ある者は「寒い寒い」と奇声を発したそうです。またある者は嘔吐し始めたと記録されています。

画像31


実際のロックガーデンです。
ドライな環境ですが、視界もこの状態です。大雨となれば歩行は困難ですし、遭難必至です。岩稜帯を抜けても霧に包まれた世界です。

画像32
画像33


地図とコンパスを頼りに進むと、多くの犠牲者を出した北沼湖畔へ到着します。

画像34
画像35


7月ですが、北沼湖畔はまるで氷河のような景色でした。
ここが標高2,000m付近とは思えない情景です。

画像36


北沼湖畔を歩き、ようやく2日目の幕営地、南沼キャンプ指定地へ到着しました。

画像37

3日目

早朝から目的のトムラウシ山へアタックします。
時間はありますが、遭難者が目指していたトムラウシ温泉国民宿舎東大雪荘まで下山しなければなりません。道しるべを頼りに登山開始です。

画像38


広い雲海が1日をワクワクさせてくれます。

画像39


3日目にして念願のトムラウシ山へ登頂。
辿り着けなかった人への複雑な想いがこみ上げてきました。

画像40


下山すると、新得登山会の皆さんが、仮設トイレ建設の仕上げに入っていました。「おーい、空きの札が見えるかー!?」と言われ、「もうちょっと上がいいよ!」と言って、札の位置を決めたのは私です。

南沼キャンプ場は以前から登山客の山トイレ問題が深刻な地域でしたが、こういった取り組みによって改善されてきています。ですが、まだまだ登山者のマナーが必要なのは言うまでもありません。

画像41


その後、一気に下山し、東大雪山荘まで無事辿り着いたのでした。
浴衣の鹿模様がとても印象的でした。

画像42
画像43

初めて降り立った北海道。
予想以上に素晴らしい土地でした。
百名山がまだ残っているため、もう一度、北海道を訪れると思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?