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イラストの著作権と使用範囲のこと

イラストを直接受注するにあたって、しっかり確認しておきたいことのひとつがやはり著作権です。依頼者と制作者の双方にとって大切な、権利とリスク回避の話なのですが、両者で捉え方のすれ違いも多いような気がします。個人的な運用方針とイラストレーターとしての心情も含めて、なるべくわかりやすいよう自分なりに詳細に書いてみたいと思います。(※見出しはホームページ用に用意しているイラスト)

イラストは著作権譲渡が普通?

昨今、手軽なオンラインの受注サイトも増えているのでこのあたりから誤解が多い気がしていますが、著作権は作者に残る・使用権を依頼主が得る、のがデフォルトです。

ですが、依頼側が「それでは自由に使えないのでは?」という不安を抱かれるのもよくわかります。特に現在はSNSや動画などコンテンツが多角化しているので、あっちでもこっちでも同時に使いたいというほうがむしろ普通だと思います。

いちイラストレーターとしても、作品はぜひ存分に使って頂けたほうが嬉しいと考えていますので、わたしは基本的に同一のプロジェクト・コンテンツ内であれば使用制限は設けません。チラシ・サイト・動画・SNSのアイコンなど目的が変わらなければご自由に使っていただきたいと考えています。

(※グッズ化などの物販関連は規模により検討する場合がありますのでご確認をお願いします。販売ではなく配布のノベルティなどは基本OKです)

ただし納品データの規格や解像度等にもかかわりますので、予定している使用範囲は事前にすべてお知らせくださいね。

もちろん、著作権譲渡が必須となる案件(キャラクターデザインやフランチャイズ展開用等)の場合は譲渡を含めた契約をさせていただきます。


「著作者人格権の不行使を約束させないとあとで問題になる」?

著作者人格権」について検索すると、上記のように書いている法律事務所の記事が出てきてしまったりして……イラストレーターとしては疑心暗鬼を煽るようで、やめていただきたいなあと思うのですが。

著作者人格権は、著作権を譲渡したとしても作者に残る権利です。わたしがこれを保持することによって防ぎたいことは2つだけです。

①イラストそのものへの無許可の修正・改変(これを一切可とすると切り貼りのコラージュじみた改変まで可能になってしまうため)

②まったく別の文脈で使われてしまうこと(例:Aサービス用に作成したものが無関係の雑誌D内で使われてしまう等)

ほんとうに、これだけです。

逆に、これが可能になってしまうとえらいことだ、というのはお分かりいただけるのではないかと思います。せっかく作ったキャラクターが首だけほかの衣装に挿げ替えられてすっかり別のキャラクターになってしまうとか、企業のためのイラストが技法書教材になってしまうとか、そんな無茶苦茶まで許可してしまうわけにはいかないからです。

著作者人格権は使用者サイドに不自由を強いるために主張するようなものではないということを是非知っていただければと思います。そんな誤解は悲しいです。

イラストはオリジナリティが高いけれど転用リスクも高いという特殊な側面があると思っていますので、ロゴデザインなどと比べてもそのあたりにより注意が必要ではないかと考えています。


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「でもイラストそのものの変更が必要になったとき不便が生じるのでは……?」

依頼側としてはここが一番気になるところではないかと思いますが、基本的にはシンプルな話で、そんなときにはまず作者にご相談ください。プロであるならば制作者責任で対応することが常識です。

おそらく、件の法律事務所さんの記事も「あとからちょっと変更して使いたい、という話のたびに抵抗されたり高額な請求をされてしまうかもしれないですよ~」という意味合いでおっしゃっているのだと思いますが、常識の範囲の追加や変更作業でそんなことをすれば、イラストレーターとしてもう次のお仕事はいただけないですよね(苦笑)。ですから、こちらからすれば非常~~~に考えにくい話なのです。

実際、納品もお支払いも完了したあとで、「やむを得ない事情で修正が必要になってしまって……」というご連絡をいただくこともありますが、かんたんな作業であればそのまま対応させていただきます。別バージョンがほしいといった内容も、初手からの大幅な描き直しには至らないレベルのものであれば時間ベースの作業賃のみで対応します。

作品を我が子に例えるのは好きではないのですが、自作に他人が手を入れると本当に悲惨なことになる可能性が大きいので、せっかく発注して・コストをかけていただいたことを無駄にしないためにも、自分の制作物の出来る範囲のことは自分にやらせていただきたいのです。特に、わたしの場合はテイストまで熟考した一枚絵の仕事などが多いため、別のひとにやってもらったほうが安上がりなんてことは金額面でもクオリティ面でもないと思います。

(わたしよりも技術が上の人に頼めばクオリティはむしろ上がるかもしれませんが、金額面では高くついてしまいますよね……)

もちろん、ご相談いただいたうえでわたしの技術で対応できないような内容であれば他の方にお任せすることも快諾しますし必要なデータもお渡しします。当初ちょっとしたカットで作成したキャラクターが大成長してしまったので著作権がほしいです!といううれしいお話になれば、その段階であらたに権利譲渡契約をさせていただきたいと思います。


それでも万が一のイラスト運用リスク回避のために

ここまで読んでも残ってしまうであろうリスクとして、作者が作業環境を失ったり、作者と突然連絡が取れなくなってしまうことが考えられると思っています。特にわたしはオンラインで仕事をすべて完結させることを基本として考えていますので、この不安は残りますよね。

そのため、あくまで個人的に決めたことですが、わたしの場合は

「万が一、志水やこがイラストレーター業を継続不可能となる、あるいはサイトを閉鎖するなど従来の一切の連絡がとれない状態になった場合には制作物の著作権はそれぞれのご依頼者様に移行するものと定めます」

というお約束をすることにしました。

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こんな感じでホームページに載せる予定です。作者としても、作品が不慮の事態で生かされなくなってしまうことなんて望んでいませんので、これで安心です。(※特別作家性を売りにしていない職業イラストレーターとしてのひとつの選択ですので、重ねて言いますがあくまでも個人的なものです。この前提で、時代も流れていくことを考慮すると、もともと財産的価値寿命はそこまであるものではないと判断しています。)


「権利問題」なんていうとどうしても殺伐とした空気が漂いますが、まずもってイラスト描きは自分のイラストが常識的な範囲で活躍の場を広げることを喜びこそすれ、はじめから反対するなんてことはまず無いと思うのです。

前提として、最低限プロとしての信頼が土台になる話ではありますので、これからも丁寧にしっかりと実績を積んでいきたいと思っています。そして、この文章で少しでも契約の不安や認識のすれ違いが軽減されればうれしく思います。

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