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アート・イン・レジデンスが想像を超えて面白かった話

アーティスト・イン・レジデンス、ご存知でしょうか。

今日は、これを「アート×まちづくりね~」などと他人事にとらえていた私が、すっかりその面白みにはまるきっかけとなった、ひとつの事例をご紹介します。大学院修士2年、東京6年目になりました、宮嶋雛衣です。

「アーティスト・イン・レジデンス」とは

みなさんは、どんな解釈を抱いていますか。

・アーティストを一定期間招聘して地域の魅力を掘り起こす施策
・地方自治体が地方創生の文脈で行うことが多い
・起源は海外にあって、神山町の事例が有名

私は上記の程度の理解をもっていました。
少し検索をかけてみても以下の通りで、あまりピンこないです。

 アーティストが一定期間ある土地に滞在し、常時とは異なる文化環境で作品制作やリサーチ活動を行うこと。またはアーティストの滞在制作を支援する事業のこと。略称は「AIR」。…

 AIRの実施目的としては、優れたアーティストの創作・生活支援、地域文化の振興、異なる文化を持つ国や地域とアーティストとの交流、情報や人的ネットワークの促進といった利点が挙げられる。…
(美術手帖ART WIKI)


民泊型体験アート作品

私が興味を惹き付けられたのは、2か月ほど前に知ったひとつの作品、「宿の家」というタイトルの”民泊体験型アート作品”でした。

宿泊者にはチェックイン以降、いくつものミッションが与えられます。リノベーションされた大正時代の平屋民家の中で、ときには近所に出てミッションを遂行する。そんな1泊2日の宿泊体験そのものが、アート作品となっています。

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具体的には、鍵を手に入れるために近所の町工場に挨拶に行ったり、どんな人が宿泊しているのか近所の人に伝わるように、外から見えるショーケースに靴をしまう仕組みになっていたり…など

一般に民泊が敬遠される原因となっている、”周辺住民から宿泊者の顔が見えず不安”という問題意識へのひとつのアプローチとして、アートという手法があることに驚かされました。


「滞在制作」という考え方

滞在制作という言葉、ご存知でしょうか。アート系の人たちの間では共通認識として伝わる用語らしいです。

滞在制作—ある地域に滞在し、その地を題材に、その地で制作し、その地で発表すること。

アート・イン・レジデンスという言葉で表されることもあるようで、たしかにArt in Residenceか、とはなりますが(笑) 地域活性とかいう文脈抜きに、面白い概念だなと。

大切なのは、地域を題材にするということであり、地域を想って作品をつくるということ。

そのためにはまず、地域を知って、自分で解釈を添える必要がある。そして最終的には、作品を通して地域に何かしらはたきかける。この一連の流れに強い興味を抱きました。


墨田区の下町におけるアートの役割

民泊型体験アート「宿の家」が開催されたのは、墨田区にある下町、京島。もともとは江戸の市街地の外にあった町で、1923年の関東大震災を機に一気に住宅が建てられたエリアです。
駅から微妙に遠くて、スカイツリーからも微妙に遠くて、土地建物の権利関係が複雑で、建替えが進みにくかったので、当時の古い建物や商店街、町工場が残っています。

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住んでいる人たちはこれらを古くて汚いと言い、行政は防災上危険だが手のつけようがないと言う。

…古き良き町並みが残るとしたらそれはそれでひとつの方策となるかもしれないが、防災や居住環境面で深刻な問題を抱えるこの地区としては放置するわけにもいかない。かといって財政悪化の自治体としては、税金を使って地主の権利を保護するわけにはいかず、また立ち退き補償金も支払えない。できることは、いま住んでいる借家人が何らかの理由で引っ越すか、死去するのを待って、その土地を事業用地として買い取ることである。しかし、棟割長屋にはいくつもの所帯が入居しており、そのすべてがいなくなるのを待つのはまさに百年河清を待つ心境だろう。…
(三宅理一,木造密集地区に住む──京島の例──密集市街地のジレンマ,2002)

そんな場所を好んで住み着き始めたのが約20年前のアーティストたちでした。彼らは町を面白がり、町にはたらきかけ、町に人を呼び寄せる。京島では世界的なアーティストが近所のおじいちゃん向けに椅子をつくる、なんてことが起きたり、町を舞台とした地域芸術祭を開かれたり、アーティストが運営するカフェが転入者のハブとなっていたりなどしています。このエリアでは、地域内外の人々との関わり口としてアートが機能しているのです。日本におけるアート・イン・レジデンスの先駆的な事例のひとつです。


さいごに

自分と関係ないと思って浅い理解をしていたものごとが、本質に触れることで、尊重できるものごとへ変わる。このプロセスがとても好きで、自分の理解の浅さを反省するとともに、面白みに気がつける経験を持てたことの有難さを実感しています。

前回の記事からしばらく日が空いてしまいましたが、引き続き気ままに、みなさんにお伝えしたいと感じたことを書いていきます。少しでも楽しんでもらえていたら光栄です。またよろしくお願いします。

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