contact~表現者と社会~ vol.2 上杉周大
さまざまなジャンルで自分を表現している人たちとの対話集「contact~表現者と社会~」。第2回のお相手は、上杉周大(THE TON-UP MOTORS)。2016年にバンド活動休止後も、「ブギウギ専務」などタレント活動と並行しながら楽曲制作、ライブを続けてきた上杉。先行き不安な世の中で、その歌声はより一層力強く、聴く者の心に寄り添ってくれる。それは彼がこれまで体現してきたソウルフルな音楽の真骨頂ともいえるが、コロナ禍以降から今日に至るまで、どんな想いを込めて曲を作り歌ってきたのだろうか。
「ストレンジャー・シングス」にめちゃくちゃハマってます
――今日はお休みでしたか?
上杉:そうです。昼過ぎにスタジオに行って家に帰ってから、ソファーで横になってNetflixで「ストレンジャー・シングス 未知の世界」を観てました。
――そういえば、「ストレンジャー・シングス」の時計をInstagramに載せてませんでした?
上杉:(腕にはめた時計を見せてくれながら)これです。「TIMEX(タイメックス)」と「ストレンジャー・シングス」のコラボなんですよ。「これは!」と思って即ポチりました。
――Netflixはよく観てるんですか?
上杉:よく観てます。僕はすごく出不精なんですよ。とはいえ家に1人でいると寂しくなる面倒臭い奴なんですけど(笑)。結構みんなそうだと思うんですけど、音楽をやっていたり何かを表現している人って、どこかで常に感動していることが原動力になっているというか。感動って言うと仰々しいですけど、 「ああ、こんな世界があるんだな」みたいなことに触れるために、家にいるときには映画やドラマを観ていることが多いですね。
――それが今はNetflix?
上杉:そうです。良くないですよねえ。
――いや、良くなくないですよ(笑)。
上杉:いやでも、良くないっすよ(笑)。あの映像、音ですべてを与えられすぎちゃうから、あれに慣れると良くないって言いますよね。本とか文字から想像しなくなるというか。でも、観ちゃうんですよ。
――「ストレンジャー・シングス」はどこにハマってるんですか。
上杉:80年代の「グーニーズ」「グレムリン」「エイリアン」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」とかの良いところを全部ギュッとした感じです。だから、超能力とかが出てくるんですけど、それもサイコキネシスというか、限りなく80年代な感じなんですよ。
――スプーン曲げちゃうような?
上杉:それはちょっと違うんですけど(笑)。だから僕よりちょっと上の世代の人が観ると、もう1回少年に戻ってワクワクする感じだと思います。すげえワクワクします、観てると。
――へえ~!まさに自分の世代なんで観てみます。でも、こういう話って知ったときに既にシーズンが進んでいると挫折しちゃうんですよね。
上杉:わかります。でも、「ストレンジャー・シングス」については遡って観たくなりますよ。先月ぐらいにシーズン4が始まったんですけど、コロナ禍の影響で半分までリリースされて7月頭ぐらいからシーズン4の後半が始まるそうなんです。僕は観だして途中で止まるとソワソワしちゃうんで、まだ観ないで寝かせてます。
――なるほど、それでとりあえず時計を買って待っているという。
上杉:そうです(笑)。めちゃくちゃハマっちゃうんですよね。それしか見えなくなっちゃう。
ミュージカル一座で日本中を旅したいとか思ってました(笑)
――昔からそうなんですか?
上杉:子どもの頃からそうなんですけど、旅とかに行って素晴らしい景色を見ると「おお~」って感動はするんですけど、泣くほど感動するってよっぽどじゃないとないなって。でも、映画とか本って色んな効果で泣かせにきているというか。僕は絵を見た経験がそんなに豊富なわけじゃないんですけど、ふとしたときに見た絵にすごく引き込まれることってあるじゃないですか?自然も素晴らしいんですけど、人が創ったものに子どもの頃から「うわ~!」って感動するんですよね。だから舞台とか、ミュージカルもすごく好きで。それこそ、大学の最初の頃なんかはTSUTAYAでミュージカルのDVDを6本ぐらい借りて毎晩観てました。
――へえ~!ちょっと意外な気がします。
上杉:大好きなんですよ。それこそ、ジーン・ケリーとかフレッド・アステアが出ている作品とか。いつの間にかちょっとだけ薄れてきてますけど、その頃はTHE TON-UP MOTORSをもうやっていて、音楽をやるんだけど、ゆくゆくは平行してミュージカル一座で日本中を旅したいとか思ってました(笑)。それぐらい、ミュージカルが好きだったんです。
――自分で演じたいという気持ちがあったんですか?
上杉:演じたい気持ちもありましたし、歌をただ歌とするんじゃなくて、そこにタップダンスが入ったりするのが好きなんです。僕がバンド時代にステージでやっていた開脚パフォーマンスって、あれはジェームス・ブラウンの影響もあるんですけど、じつはミュージカルダンサーの「ニコラス・ブラザーズ」というコンビがいて、その人たちの影響が大きいんですよ。YouTubeで動画を観てもらったらわかるんですけど、3mぐらい上から開脚したままピョーンって飛び降りてピタって着地するんですよ。40年代という時代が時代だったので、彼らは黒人だったが故に一般的なヒーローにはなれなかったんですよね。でも僕はそのパフォーマンスを観て、「うわっすげー!」ってなってました。僕が開脚パフォーマンスをするようになったのは、完全にニコラス・ブラザーズを観てからなんです。札幌時代は、それをやりたくてステージにトランポリンを持ち込んだりしてたので。
――ライブにですか!?
上杉:「意味がわからない」って反対されました(笑)。それでトランポリンはやめましたけど。あとはタンバリンにゴムみたいなものを付けて投げ飛ばして戻してキャッチするとか。それをやるとお客さんが喜ぶんですけど、どんどんそういうのを見るお客さんが増えている感じがあって。「このバンド、タンバリン飛ばすんだぜ!?」って客席から聴こえたりして(笑)。それぐらいから止めました。
――見せたいのはそこじゃないんだ、と(笑)。
上杉:いろいろやりましたね。誰もやっていないことをやるっていうのが、認知される一番の近道かなと思っていたので。
――自分が感動してきたのが、誰もやっていないことをやってる人たちだったということですね。
上杉:そうですね。今、TikTokとかいろいろあって、「見たことがないもの」って限りなく少なくなってるじゃないですか?だからやっぱり、ステージ上は非現実的であった方がいいだろうし。そうなったときに「誰も見たことないもの」ってなんだろうなって。例えば火を吹いたらシンプルにみんな「うわっ!」ってなるだろうな、でもライブハウスは出禁になるだろうなとか(笑)。そういうことをよく考えてましたね。
やっぱり、お客さんの声は聴きたい
――先日、久々にライブを拝見しましたけど(5/28下北沢CLUB Que〈上杉周大(THE TON-UP MOTORS) × 伊東ミキオ ~ふたりのビッグショー~〉)、コロナ禍以降のライブってどう思ってステージに立ってますか。
上杉:僕のライブなんかもそうですけど、コール&レスポンスというか、もともと「ここをお客さんに歌ってもらうんだ」って、曲を作る段階で思ってることも多いんです。やっぱり、演者ってライブのお客さんの声援に乗せられる相乗効果ってあるし、「それがライブの醍醐味だったのに」という人は多いですよね。
――観ている方からすると、例えば「バカ笑い大将」でも声を出せなくても盛り上がれるなっていう気持ちにはなったんですけど、ステージに立っている側からすると全然違いますか。
上杉:やっぱり、お客さんの声は聴きたいし、ライブは生々しいものだと思っていて。僕は結構お客さんの顔を見る方なので、今お客さんがどういう表情をしているかとか、「あの人、ここで涙を流してる」「あの人はここで拳を上げるんだ」とか、ステージ上でそういうことがすごくつぶさにわかるんですよ。その様子を見て、「じゃあ、次にこういう話をしてみようか」って、流動的にやるんです。今はそれがないのが寂しいですよね。
――ブルースのカバーもやっていましたけど、洋楽の曲って何を歌ってるんだろう?って意味を調べたりします?
上杉:わりと調べますね。ライナーノーツを読むのが好きだったので。ブルースとかソウルって戦いの歌だし、その上で平和的な歌なので。そういう音楽が昔からすごく自分に響いたんです。
絶対的に弱い人の味方でありたいと思うんですよね
――この前にライブを観たときに、上杉さんはそういう部分を絶対に持っているミュージシャンだなって改めて思いました。ライブでも歌ったTHE TON-UP MOTORSの「無名のうた」とか、「人の価値は職業なんかじゃないぜ」を聴くと、やっぱりロック・シンガーだしブルースマンだと思うんですよ。
上杉:ありがとうございます。やっぱり、絶対的に弱い人の味方でありたいと思うんですよね。僕がやる音楽はそうあるべきだと思っているんです。
――2月ぐらいに、Instagramでウクライナ問題について書いていましたよね。それを見て共感した人も多かったと思います。「Instagramはプライベートでやってるので」と書いてはいましたけど、ああいうことをストレートに書くアーティストってあんまりいないと思うんです。
上杉:なんでしょうね。日本のエンタメ業界って、どうしても「政治的な思想を持ち込むのはよろしくない」みたいなところがあって。じゃあ、政治的っていうのはどういうことを指すのって言ったら、例えば政党がどうのこうのとかだったら、思うところはあっても言わないですけど、「戦争反対」ということすら政治的なメッセージだって言われたら、じゃあ言うのをやめよう、とは僕は思わないんですよ。
――生きている人みんなが平和に暮らしたいと思っているから、そう言いたいだけですもんね。自分もそうなんですけど、別に言っても良いことを言っちゃいけないように思っているのかもしれないですね。とくにミュージシャンで人に知られているとなるとなおさら。
上杉:そうですよね。
SNSとの関わり方
――上杉さんがやってるSNSって、音楽の事や出演しているテレビ番組のことを書いていることが多いですし、特に変な人に絡んでくるような感じはなさそうですよね。
上杉:ないですね、恐らく。ただ仕事柄、どうしたって叩かれる的にされやすいというのもあって、例えば自分が「こういう人がいた」って言ったことに対して、「そういうヤツ嫌い」って僕が的になることで、同じマインドの人たちに同意を求める人がいるというか。わかります?
――なんとなく、わかります。
上杉:でもまあ、SNSで絡んでくるような人を信用していないので。だからそこに対するストレスはそんなにないですね。昔、曲を書いて「めちゃくちゃ良い曲ができた!」って、近所のバーで飲んでいたときに、「良い曲が書けた後の酒と煙草って本当に美味い!」ってツイートしたら、「煙草という体に害しかないものを肯定する人だとは思いませんでした。ファンを辞めさせていただきます」っていう人がいて。
――ええっ!?
上杉:「あ、SNSってそういうものなんだな」って、僕はそのときにSNSとの向き合い方がわかりました。それは、たまたま「煙草は体に良くない」って言いたい人の手頃な的に自分がなったんじゃないかなって思います。でも、SNSって良い側面もめちゃくちゃ多いじゃないですか?
――そうですね。そこが悩ましいところで。
上杉:今の世間への認知のされ方とか、デビューの仕方とかは大きく変わってるし。僕の世代だとまだ戸惑いがあって、一気にバズったものほど、長続きしないんじゃないかって思っちゃうんで。SNSって「こいつ何者なんだろう?」って顔が見えない分、みんなその真相に近づきたいと思うんです。ただ、実体が見えたとたんに飽きちゃったりするんじゃないかなって。でも、今の若い子たちはそういうところを上手に使ってるんだろうなって思います。
――SNSを通して人が何かやっていることなんかを見ると、嫉妬することもあると思うんですけど、上杉さんはそういう気持ちになることあります?
上杉:あります、あります。これはドロッとした感情ですけど、例えば自分に近いことをやっているミュージシャンがボコッと売れたり話題になったときは、「クソー!」って思います。それはすごく思いますよ。やっぱり悔しいですし。嫉妬心というよりは、「悔しい」という気持ちが大きいと思います。
――こういうお仕事をされている以上、それは当然ありますよね。
上杉:そうですね。ただ、どういう事柄であれ、若いときよりは認められるようになりました。昔は「なんでこんな奴が!」みたいな気持ちになりましたけど、それは色んな理由があって世に出ているでしょうし、「俺も負けてらんねえな」という、どちらかというとポジティブな気持ちを感じるようになりましたね。
――Amazonのレビューとか、ご自分の作品について書かれてることって見ます?
上杉:あんまり見ないです。本当はそういうのも見た方がいいのかもしれないですけど、世に出したものは、例えそのときに迷いながら出していたとしても、胸を張るって決めているので。
――じゃあ、それがどう評価されていてもいい?
上杉:はい。変なことを書かれてたら嫌ですけど(笑)。でも、そういうことを書く人はなんであれ文句を言いたい人だと思うので。そこは全然気にしていないですね。
世間の人が迷っているときほど、何かを届けなくちゃいけない
――コロナのことも徐々に収束に向かっている感じですし、上杉さんも今後はライブ活動を精力的にやっていきそうですね。
上杉:コロナがいつ収束するという保証もないし、今だからこそ、「あのときはああいうことをやってたな」という動きをしておかないとダメだなって。コロナだけじゃなくて、色々な社会情勢に思うところはあるんですけど、音楽って人の心を軽くしたり、「ああ、こういう風にしたら良いんだな」というきっかけとか入口であるべきだと僕は思うんです。こういう風に世間の人が迷っているときほど、形はどうあれ、配信であれ、何かを届けなくちゃいけないなというのは、今まで以上にすごく考えましたね。だから、下北沢Queでこの前弾き語りをやったのも、定期的にもう1回ちゃんとやっていこうと決めてやっているので。震災のときも、一番大事なのは衣食住で、音楽なんか必要ないんじゃないかって思ったけど、僕は音楽に色んなところで救われてきたので。絶対必要だと思っている人はいると思いました。だからより、「今こういうことをやりたい」ということを事務所側にも話して、配信やライブをやってるんです。
――基本的に、弾き語りスタイルでやっていく方針ですか?
上杉:本当は、バンドの方が好きなんですけどね。ただ、バンドをやるとなるとミュージシャンを雇わないといけないですし、ノーギャラでもやるよって言う方もいますけど、僕はそれはやりたくなくて。ミュージシャンが食べていくのは大変なことは知っているので、ちゃんとギャラはお渡ししたいですし。ただそうなると本数は限られてくるので、本当の意味でちゃんと1人でもステージに立てる男になろうと思ってます。
――曲って、いつどんな風に生まれてくるのでしょう。
上杉:僕は、そんなにコンスタントに曲を書く方じゃなくて、しばらく書いてなかったと思ったら、いきなりめちゃくちゃ書いたりとか、わりと不定期です。去年書いたのが20曲ぐらいで、結構書いた方だと思います。コロナ禍になって、自分はありがたいことにアルバイトとかせずに生活できているので、家にいてNetflixとかを観るような時間もある中で、ちゃんと自分がそこで曲を生んでいないと、定期的に不安になるんですよね。「俺、なんのために生きてるんだろう?」って(笑)。ライブもめっちゃ好きなんですけど、じつは僕は音楽を生み出して「これは良い曲ができたな!」っていうときが、一番嬉しいんです。部屋でその曲を流して、本当に小躍りしてるぐらい。自分の曲で、めちゃくちゃ踊ったりしてます。それぐらいハッピーな気持ちになりますね。すっごい幸せです(笑)。
――その曲たちの中には、ドラマや映画を観て感動したことなんかも、直接的ではないにせよ入っているんですね。「俺もあんな作品で人を感動させたい!」っていう。
上杉:それはあると思います。それは、そこに何気なく飾ってある絵もそうですし、電車に乗って感じたことなんかもそうですし。そういう何かが蓄積してできているんですよね。それこそ、インタビューっていうものもそうだと思うんです。ミュージシャンとか表現する人って、こういう風に話していくことで頭の中が整理されていくんですよ。
――それは、よく言われます。
上杉:ですよね?さっきの曲の話もそうですけど、こうやって話していることで、「あ、俺そうなんだな」と思って、それがきっかけで曲を書いてみようと思ったりするんですよね。
――そうなんですね。曲って何かしら感情が動くときに生まれてくるんじゃないかと思うんですけど、悲しいことや苦しいことに触れて感情が動くという意味では、この2、3年というのは、言ってしまえば「曲が生まれやすい期間」だったんですかね?
上杉:うん、僕はそうでしたね。ただ、そっちに寄りすぎてしまうのも良くないなって。先ほども言いましたけど、「音楽で人の心を軽くしたい、寄り添いたい、弱者の味方でいたい」という気持ちがあって。少し忘れていたことを思い出させてしまうのも音楽ですし、そっちに寄りすぎてもなとは思いつつ、かなり……。でも、それは僕に限らずみんなそうなんじゃないですかね?答えはないからこそ、音楽ってそういうものに役立つと思うんです。「これってどうなの!?」っていうモヤっとしたところにきっかけを与えるのが音楽だと思うので。
――リスナー側も、音楽を聴いて「ああ、そうかそういう感じ方もあるのか」とか、何かの気付きが得られることも多いと思うんですよね。
上杉:ああ~、そうですか?そういう、何かのきっかけになってくれるのは嬉しいですね。
「インタビュー」について思うこと
――インタビューでよくあることなんですけど、曲や歌詞の意味を問いかけたとして、「それはどう受け止めてもらっても聴く人の自由です」ということをよく言われるんですよ。それはもちろんそうだと思うんですけど、でもやっぱり音楽を通して伝えたいことって絶対あるんじゃないかなって思ったのも、今回こういう企画をはじめたきっかけなんです。
上杉:それはすごくわかります。歌詞があって日本語で歌っている以上、そこに伝えたいものを込めていて、或いはそこに3通りの受け取り方がありますっていう音楽だった場合、インタビューで「じゃあこの歌は何を伝えたいんですか」って訊かれたときに、「そこを言葉で言うのはナンセンスなんだよ」っていうことってあるじゃないですか?
――はい、そうですね。
上杉:僕は、それってちょっとカッコつけてるなって思うんですよね。だけど、自分が憧れていた先輩たちもそういうことを言うし。でも、その音楽の原動力になっているものぐらいは、お伝えできると思うんですよね。
――その上で、受け取り方は自由っていうことですよね。
上杉:そうです。料理で言えば、「これは和洋中、どれですか?」って訊かれたら、「これは和食です」ぐらいは言うという(笑)。その上で感じてくださいよっていうことですね。
――やっぱり、それを言うことで決めつけられたくはないという気持ちがあるとは思うんですけど。
上杉:インタビューになったとたんにカッコつける人は多いと思いますよ(笑)。太文字を残したいというか。そう思って肩を回して取材現場に来ちゃうと、もうダメですね。誰かの言葉しか言わなくなっちゃう。
――逆にこちらも、「こう言ってほしい」みたいに型にはめようとしてしまうこともあるので、良くないんですけどね。結局、人と人との会話なので、むずかしいですね。だから、こうして話すことで頭の中が整理されて気付くこともあるっていうのは、お話する甲斐もありますし、励みになります。
上杉:それはもう、みんな間違いないと思いますよ。僕は、ミュージシャンもやりつつ、テレビの仕事とかもずっと長いこと二足の草鞋でやっているので。音楽のステージとテレビって、かなり真逆なところがあるので、だからこそフラットに喋れるんじゃないかなと思います。
ミュージシャン、タレント、役者
――上杉さんって、初めて会った人に「何をやっている方なんですか?」って訊かれたらなんて答えてます?
上杉:一時期は、「テレビにも出てるけど、もともとミュージシャンなんです」って言ってたんですよ。でも、現場によっては「タレントさんですよね」って言われることもあるし、そこに「いや、本当はミュージシャンなんですよ」とは言わないですし、タレントもミュージシャンのどっちも自分なので、今は相手に合わせています。
――映画(2015年公開「新選組オブ・ザ・デッド」)で役者もやってましたよね?
上杉:あれは面白かったですね。音楽で詞と曲を書くって0から1を生むことですけど、ステージに立つといかにカッコつけずに嘘をつかずに、いかにさらけ出せるかがロックなライブだと思っているんです。でも役者って、自分をさらけ出して0から1を創るんじゃなくて、自分を秘めながらどれだけ「1」になれるかなんですよ。だから、本当に真逆というか、すごく楽しい経験でした。
――そこには少し、自分も入れているわけですか。
上杉:自分を入れるというより、自分の解釈で演じる感じで当時は臨んでました。でも、結果的にそれは間違いだったなとすごく思うんですよ。「この役柄はこういう人なんだろうな。ということは俺だったらこうなるな」というものを1枚乗せてたんです。本来、それもあるべきじゃないんだろうなって、今は思います。というのも、あの映画を観た友だちにズバッと言われたんですよ。「おまえ、自分がやりたい演技ばっかやってんじゃん」って。
――その人は、俳優さんなんですか?
上杉:いや、高校の同級生です。僕、すぐ人に怒られるんですよ(笑)。
――僕も何か怒らないといけない気がしてきました(笑)。
上杉:いいです、いいです(笑)。基本的には怒られたくないので。その友だちには、「自分がしたい演技なんて、役者として舞台に立つならやっちゃダメだろ」って言われました。それは確かにそうだなって。
「ブギウギ専務」は、本気で嫌がってるおっさんを観てるから楽しいんでしょうね(笑)
――テレビタレントとしても、何か注意されたこともあります?
上杉:あります。ただ、テレビは極力作らないで、自分のまんまでやってますね。嫌なものは嫌だって言うし。本当に思っていることをちょっと過剰に言うとか、そういう感じです。傷つくことは本当に傷つきますし、やりたくないことは本当にやりたくないし。
――やりたくないことを求められることって、結構あるんですか。
上杉:ありますよ。「ブギウギ専務」はほとんどそうですから。
――ははははは(笑)。
上杉:「俺、やだよ~!」って、本気で嫌がってるおっさんを観てるから楽しいんでしょうね(笑)。
――本気で嫌がってる姿を人に喜んでもらえるって、すごい人徳じゃないですか。
上杉:人徳であると同時に、「俺、何歳までそういうキャラなんだろう?」って思いますけど(笑)。
――「ブギウギ専務」のロケで感じたことが曲になっていたりします?
上杉:具体的にあのときのあれがこの曲なんです、というのは挙げられないですけど、でもやっぱりいろんな人と触れ合って、「だからあの時期のこの曲を書いたんだな」っていうことはあります。あと、北海道に仕事で帰るときに新千歳空港から快速エアポートっていう電車に乗るんですけど、それに乗ると景色が一気に変わるので、そのときにいろいろ思ったりはします。
「これは良い曲書けたなー!」と思う曲
――今まで書いた曲で、これは特に会心の出来だっていう曲を挙げてもらうことってできますか。もちろん全部愛着があるとは思いますけど。
上杉:「ノーザントレイン271」(EP『Hey!!people,』収録)という曲があるんですよ。これは新千歳空港から札幌に向かう快速エアポートが「721系」で、それをもじっていて。その電車の中で思いついて、電車のリズムをイメージして書いた曲なんです。僕の中で「これはやってやったぞ」という曲なんですけど、ファンの人には全然人気ないですね(笑)。
――そうなんですか?
上杉:すごいブルースなんで。自分がやりたいことをやった感じです。あと、「さらば!怠け者」(『KEEP ON STANDING!!』)も好きです。でもやっぱり、自分がやりたいことと、上杉周大あるいはTHE TON-UP MOTORSに歌ってほしい曲、求められる曲って違うんですよね。だから、「これは良い曲書けたなー!」と思う曲って、箸にも棒にも掛からないというか(笑)。
――そんなことはないと思いますけど(笑)。逆に、求められていることを書こうと思った曲もあるってことですか?
上杉:それもあります。この前のライブでも歌いましたけど、「バカ笑い大将」(『SOUL is DYNAMITE』収録)って、どうしてあんなに、みんな好きなんだろう?って最初わからなかったんですよ。
――ライブでお客さんと一緒に盛り上がれる曲を作ろうと思ったんじゃないんですか?
上杉:いや、何も考えてなかったです。今まで史上、一番作曲に時間をかけてないですね。あれは札幌にいたときに書いたんですけど、深夜のスタジオでリハーサルがあったときに、書こうと思っていた曲があるなと思って書いて、スタジオに「こういう感じ」って持って行ったら、メンバーが「ああ、いいじゃんいいじゃん」って言うんで、歌詞をつけてあっという間に完成した曲なんですよ。
――その曲が、今まさにこの時代にフィットした曲になってますよね。
上杉:確かに。戦争のこととかが歌詞に出てきて。あと、これもライブで歌いましたけど、「イエス!ソウルミュージック」(ソロ1stアルバム『You Are The MAN!!』収録)を書いたときは、今でこそ日常茶飯事みたいになっちゃってますけど、北朝鮮がミサイルを撃ったことがセンセーショナルで、それをきっかけに平和のことを思って書いた曲なんです。「バカ笑い大将」のときは、何故ああいう「戦争」っていう強いワードを使ったのかはわからないんですけど。でもやっぱり世界も世の中もコントロールできないし、今後何があるかわからないけど、〈俺たちはいまを生きていく 俺たちの時代を生きていく〉っていう思いがあったんでしょうね。
ありもしないものは歌わないということは、最初から思ってます
――そう考えると、時代が変わっても世の中は根本的に変わってないのかもしれないですね。
上杉:そうですね。歌いたいことも変わってないのかもしれないです。比喩的に何かを書くことはあるんですけど、「とこしえの闇を駆け上がり 時の扉を叩き」みたいな歌詞はあんまり書かないというか(笑)。
――(笑)。
上杉:直接的すぎると強いなと思うので、ちょっと遠回りにすることはありますけど、ありもしないものは歌わないということは、最初から思ってますね。それと、聴きやすくしたいとは思うけど、BGMになるぐらい弱い歌を歌いたくないというのはあるんです。僕もたくさんの人に聴いてもらいたいし、もっともっと高いところに登りたいというのは常に思っているんですけど、多くの人に支持されて、多くの人がいいねって言うものは、上手に薄めていると思うんですよ。そこの加減が僕はわからないんですよね。濃いものは濃いままで行った方がカッコイイだろうって思うし。だからそれを薄めて広げるつもりもないですし。むずかしい話ですけどね。
――やっぱり、聴いてきた音楽がマイノリティというか、100人全員に支持されるような音楽を聴いて音楽を始めたわけじゃないというところが大きいんじゃないでしょうか。
上杉:ああ、そうですね。
――「この曲は俺のためだけに歌ってくれてる」みたいに思える音楽が好きだから、そうなってるんじゃないかと思います。
上杉:なるほど。さっきの話じゃないですけど、今頭の中が整理されました。「ああ、俺はやっぱりそうなんだな」って。
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