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「1971年うまれのぼんやり音楽体験」 第3回 とんねるず

本当は佐野元春について書こうとしたのだが、考えているうちに佐野元春を知るきっかけの1つにとんねるずの存在があったことを思い出した。ほぼ毎日、中学校からの帰宅後に『夕やけニャンニャン』を見ていた僕は、自然にとんねるずのことを好きになっていた。自分が音楽好きになった時期に、テレビではとんねるずが一番勢いのあるお笑いタレントだったのだ。ちなみに、当時は「お笑い芸人」なる呼び方はまったくなかった。「漫才師」か「落語家」「お笑いタレント」としか呼ばれてなかったはず。

その中で最も売れてるコンビ、とんねるずの1stアルバム『成増』は発売日に買った。木梨憲武が歌うソロ曲「振り向けば自転車屋」は今聴いても名曲だし、石橋貴明のソロ曲「母子家庭のバラード」には、面白い歌詞に笑いつつも、「ああ、貴さんってそうなんだ」と少しセンチメンタルな気分にもなった。そんな感傷に浸ってアルバムB面が終わったまま放置していると、「いつまでも聴いてんじゃねえよ!」とか怒鳴られるというサプライズが仕込まれていたことは、セリフはぼんやりながらもいまだにその瞬間にビクッとなったことだけは昨日のことのように思い出せる。

さて、何故そんなとんねるずをきっかけにして佐野元春のことを知ったのか。それは、とんねるずの2ndアルバム『仏滅そだち』の中にある。3曲目の石橋ソロ曲「Shikato」は、曲調、アレンジ、歌詞、どれをとっても思いっきり当時の佐野元春の世界観を模倣しているのだ。さらに、あの独特のしゃくりあげるような歌い回しを、石橋が完コピしている。まだ珍しかったラップパートも、見事というしかない完ぺきな出来でやってのけている。

しかも曲が本気でかっこいい。なんなら本家に逆カバーしてもらいたいぐらいに。おそらく、この曲を聴いたときの僕はまだ佐野元春の曲を知らなかったはず。ではなぜこの曲を聴いて佐野元春だと思ったのかというと、歌詞に〈僕は佐野元春じゃない〉と出てくるからだ。なるほど、この歌い方は佐野元春という、「ザ・ベストテン」でも「夜のヒットスタジオ」にも出ないロック・ミュージシャンの真似なんだな、と気が付いた。そういえば、1stの「振り向けば自転車屋」では木梨が松山千春の物真似で歌っていた。やっぱり、ミュージシャンから別のミュージシャンの曲を知るということが、10代の頃には多かったんだなあ。とんねるずも、立派なミュージシャンだったのだ。


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