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「1971年うまれのぼんやり音楽体験」 第6回 KUWATA BAND

僕にとって生まれて初めてロックコンサート、ライブ体験は中2か中3のときに観たKUWATA BANDだった。1985年、アルバム『KAMAKURA』で僕はサザンオールスターズの大ファンになった。ファンクラブ「SAS応援団」の入会申し込み書を取り寄せたぐらいのハマりようだったのだが、その矢先に活動休止となってしまった。ガッカリしていた僕の目の前に現れたのが、サザンの桑田佳祐、ドラムの松田弘を中心に結成されたロックバンドKUWATA BANDだった。

KUWATA BAND は1986年に全国ツアー「TDK AD SPECIAL KUWATA BAND ROCK CONCERT」で長野県松本社会文化会館にやってきた。ツアー名を覚えていたわけではない。Wikipediaを見たら書いてあったので、きっとそうなんだろうというぼんやりメモリーである。どこでどう情報を仕入れたのかは覚えていないが、僕はチケット発売日の早朝に松本駅近くのデパート「井上百貨店」か「イトーヨーカドー」(どっちか忘れた)に行き、開店前の行列に並んだ。そこにプレイガイドがあったのかどうかは定かではない。確か地下へと向かう階段の踊り場みたいなところで順番にチケットを直接販売していたと思う。僕の順番が来ると、係員のおじさんは「2枚?」と聞いてきた。「1枚です」と返すと、「えっ」みたいな顔をされた。一緒に行く人がいなかったし、誘おうと思う人もいなかったのだ。今でこそ、サザンは「国民的バンド」みたいになっているが、クラスにサザンが好きな友だちになんて1人もいなかった。まして、サザンの期間限定プロジェクト的なKUWATA BANDなんて誰も知らなかった。というよりも、そもそも中学時代にロックコンサートに行ったことがあるクラスメイトはいなかった気がする。自分にとっても、ドキドキな初体験だった。ともかく、僕は初めてのロックコンサートのチケットを手に入れた。

コンサート当日までの間に、KUWATA BAND初のアルバム『NIPPON NO ROCK BAND』が発売されたのだと思う。それまでに買ったシングルレコード「BAN BAN BAN」「MERRY X'MAS IN SUMMER」「スキップ・ビート」はどれも素晴らしく斬新に聴こえる曲で、大満足だった。アルバムも大期待して事前に予約しておいたのだが、発売日に松本市の新星堂に受け取りに行くと、店員のお兄さんがレコードを袋に入れながら、苦笑い気味に「全部、英語だから」と言った。「全部英語?」意味がわからなかったのだが、家に帰って聴いてみたら、そのまんま、全曲英語の曲だった。思いっきり、戸惑った。日本のバンドが英語で歌う理由がよく理解できなかった。「GO GO GO」「I'M A MAN」といった好きな曲もあったものの、アルバム自体はあまり好きになれなかった。英語だから、というよりは、ハードロック的なサウンドが好きになれなかったのかもしれない。それまでレゲエとかファンクとかをシングルでやっていたのに。アルバムの曲はちょっと楽しくない感じがした。もし、このときKUWATA BANDが別のコンセプトで全編日本語のアルバムを作っていたら、まったく違う作品になったのかもしれない。今となってはわからないが、シングル曲の充実度を考えると、新たな名曲も生まれていたような気がする。そんな、なんとなくモヤモヤした気持ちを抱えたまま、生まれて初めてのコンサートの予習として、アルバムを繰り返し聴いた。そして、KUWATA BANDはコンサートでも思いもよらない音楽体験をさせてくれたのだった(つづく)。


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