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犬の赤ちゃんを見た話

職場の先輩が飼っている犬が出産をした。

産まれたのは4頭、そのうち1頭は産まれて間もなく死んでしまい、またもう1頭は口蓋裂という状態だ。

口蓋裂の子は母犬の乳を上手く飲めないらしく、先輩が職場に連れてきて数時間おきにミルクを与えている。

私は生まれて初めて生後数日の子犬を見た。

先輩の手に包まれた小さな生き物は、目も開いていないのに小さな足を動かし、必死にミルクを飲んでいた。

可愛い。

息を飲むほどの愛おしさと感じたことの無い心臓の動きを感じた。

先輩が「可愛いでしょ〜ちょっと持ってみる?」と私の手に小さな生き物を乗せた。

普段職場で触れている犬とは違うやわらかさにびっくりした。

「可愛い…可愛いです…めちゃくちゃ可愛い…」

と先輩に言うと「母乳出そうになるよね」と言われた。

すみません、そればかりはよく分かりません。

きっと見る人によっては犬?なのか?色は分かるけど毛もあまり生えてなくてうにょうにょしてて口元もなんだか割れてて…ほんとに犬?と感じるだろうなとも思った。

それでも小さくて必死に生きて動いている生き物を愛しいと感じた。

そのとき

「人間の赤ちゃんに対しても同じように可愛いと思えるといいね」

と、私の脳内に冷たい私の声が聞こえた。

さっきとは違う心臓の動きを感じる。

喉がキュッと締まる、息が詰まる。

私は人間の赤ちゃんをあまり可愛いと思えない。

人間の赤ちゃんに対してここまでの胸の弾みを感じたことは一切無い。

どうして、と思った。

どうしてこのうにょうにょとした小さな生き物にはこんなに愛しさを感じるのに

人間の赤ちゃんには感じられないんだろう。

この日一日私はこの気持ちに悩まされた。

未だに先輩が連れてきている子犬を見る度に、この気持ちに苛まされる。

恋人が人間の赤ちゃんを可愛いと感じると、私が子犬を見た時と同じようになるのだろうか。

そうなら、私は本当に人間の赤ちゃんを可愛いと思えないんだ。となった。

苦しい。どうして、私はどうして子犬を可愛いと思えるのに人間の赤ちゃんを可愛いと思えないんだ。

苦しい。

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