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chelmicoのワンマンライブに出た

いまノリに乗ってるラップデュオ、chelmicoが1月24日に恵比寿LIQUIDROOMで行ったワンマンライブ『パティ黄門ツアー2019』。その2週間ほど前に真海子から一通のLINEが届いた。

「うちらのワンマン出ない?MCしてほしいんだけど」

chelmicoのワンマンにトンツカタン森本がMCとして出る…?

あまり音楽ライブに行ったことない僕でもアーティストのワンマンに芸人がMCとして出てくるなんて前代未聞だということはわかる。そしてなんと言っても恵比寿LIQUIDROOMという1000人キャパの会場のゲストに『トンツカタン森本』はさすがに弱すぎる。トンツカタン森本をゲストに呼んでちょうどいいのは『中野Vスタジオ(キャパ50)』だ。

しかしどうやらchelmicoの2人だけではなく、スタッフ陣も僕のブッキングに前向きでいてくれているらしい。まともな大人たちがそう言ってくれてるならきっと勝算があるに違いない。そう確信した僕はこのありがたいお話を受けさせていただくことにした。ちなみにどういう内容でMCをする予定なのか聞くと

「内容はなにも決まってない!」

chelmico陣営にまともな大人なんていなかった。 その後急ピッチで話し合いを進めた結果、ライブの中盤に挟まれる『chelmicoへの質問コーナー』という企画のMCとして登場することになった。

本番当日、楽屋に張り出されたセットリストを見ると

午後
ずるいね
MC トンツカタン森本

と書いてあった。この『午後』と『ずるいね』は数あるchelmicoの曲の中でもトップクラスにしっとりとしたナンバーだ。つまり、会場をエモい雰囲気にしたあとにトンツカタン森本が登場することになる。すぐさまchelmicoのマネージャーに「この流れで僕が出ていいんですか!?」と確認すると

「逆に森本くんのあとにしっとりした曲が続いたら変でしょ?」

その時は「なるほど。確かにそうですね」と納得したが、今思うとそもそもセットリストに『トンツカタン森本』という文字が書いてあること自体が変なのである。

そんなこんなであっという間に開演時間を迎え、ワンマンライブが幕を開けた。僕は出番まで客席の後ろのほうでライブの模様を見させてもらっていたのだが、始まった瞬間からお客さんのボルテージは最高潮。2人のラップが盛り上がりにどんどん拍車をかけていく姿はとてもかっこよくて頼もしかったのと同時に

「え…このあとトンツカタン森本が出るの?いらなくない?」

という思いが膨らんでいった。そこから文字通り滝のように脇汗をかきはじめ、あまり2人の歌声が耳に入ってこなくなった。あわよくば盛り上がりすぎてchelmicoの2人が僕の存在を忘れてくれないかと願った。

気付けばもう『午後』が始まってしまい、僕は舞台袖に移動した。やはりここから会場は2人の歌声をしっかりと聴き入るモードに入っていた。

「このあとみんなトンツカタン森本の声を聞く羽目になるのか…」

妙な罪悪感に苛まれていたらいよいよ『ずるいね』も終わり、MCタイムに突入した。舞台袖でマネージャーさんにマイクを渡してもらい、レイチェルが僕を呼び込んでくれた。

「今日はなんとゲストが来てくれてます!!もし知らなくても盛り上がってね!!トンツカタン森本ーー!!」

「うおーー!!!!」

彼女の巧みな話術により、ノーリアクションという最悪の事態を回避することができた。みんなの『気遣いの叫び』はとても心強かった。

肝心のコーナーはというと、みんなから事前に募った質問のクオリティがどれも異常に高く、読むだけで会場中が笑ってくれる『ごっつぁんウケ』をいただきまくった。今後大喜利を答える仕事が来たらいったんchelmicoファンに相談しようと思うくらい全部おもしろかった。

最初の不安もなんのその、お客さんがあたたかく迎え入れてくれたおかげで質問コーナーも大盛り上がりで終了し、引き続きchelmicoのライブに戻った。

最後の曲を歌い終え、清々しい表情で楽屋に戻るchelmicoとDJのパーシーさん。しかしそこは音楽ライブ。まだまだ興奮さめやらぬお客さんたちから

「チェールミコ!チェールミコ!」

アンコールが始まった。1000人によるchelmicoコールは圧巻で、こんなにも求められている彼女たちの人気っぷりに感動していると、どこからともなく

「もーりもと!もーりもと!」

まさかの『森本アンコール』が始まった。一瞬自分でも「もりもとってなんだ?」と思ってしまうほど理解できない状況だった。マネージャーさんもニヤニヤしながら「出ちゃえ出ちゃえ〜」と言うのでなにも考えずとりあえず舞台に出ていってみたら

「うおおおー!!!!!!!!」 

なぜかその日一番の大歓声で迎えられた。本当になんでだよ。

慌ててマイクも持たずに出てきてしまったためなにかを喋ることもできず、そしてそのあまりの非現実的な光景に僕は思わず

無言で僕のレパートリーにあった『一番かっこいいポーズ』をしてしまった。これが当時はめちゃくちゃウケたという認識だったのだが、客席にいた芸人仲間からあれは『1000人分の失笑』だったということを教えてもらった。失笑もあの規模になると爆笑に聞こえてしまうらしい。

その後はもちろんchelmicoがアンコールに応え数曲披露してワンマンライブは最高の形で幕を閉じた。終演後はなぜか

chelmico
トンツカタン森本
DJパーシーさん

という並びで関係者あいさつに参加した。関係者のみなさんも「なぜこの失笑男が??」と思っていただろう。僕も僕で『楽曲提供顔』をしてなんとか乗り切って一日を終えた。

後日、とんでもなく貴重な体験をさせてもらったことのお礼のLINEを真海子に送ると

「いつか武道館でMCだね」

と冗談めいて返信してきた。でも、今のchelmicoならそう遠くない未来に実現してしまうのではないかと思う。僕も今から浴びるのが楽しみだ、

1万5000人の失笑を。

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