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それぞれのmixi

約1年半前から『おこたしゃべり』という生配信を同期の芸人である鳥山とやっている。ほぼ毎日近所の激安カラオケに集まって1時間ほどふたりでダラダラとしゃべる様子を全世界に垂れ流し、まるで仕事を終えたような顔をしてお会計をしてそのまま解散するという『狂気の生活』をずっと続けている。

1ヶ月ほど前のある日の配信でmixiの話になり、鳥山がその場でひさしぶりにログインしてみると彼が高校時代に書いていた日記がわんさか出てきた。そのこっぱずかしい内容を僕が読み上げる様がかなり好評だったため、「これはライブでやるべきだ」とすぐに会場を抑え、あれよあれよという間にイベント開催が決まった。ただ鳥山のmixiを読むだけのライブにも関わらずチケットは速攻で売り切れた。配信してる側が狂気なら、それを見てる側も狂気。僕らの配信はただの『狂気の集合場所』だったのだ。

みんなの期待に応えるため、僕は鳥山が書き残した80以上もの日記を何度も読み返し、断腸の思いで10個に絞った。この厳しい予選を突破したファイナリストたちはどれもヘビー級の文章が綴られており、自信を持って世に送り出せるクオリティだった。

そして迎えた本番当日。コントでもなかなか着る機会のないスーツを身にまとって舞台に上がった。軽い趣旨説明を終え、本日の主役である鳥山大先生に登場していただき、いよいよ日記の朗読が始まった。

本人に確認を取ったところ、「あの日読んだ日記はフリー素材」という『ベンティサイズ』のような器の大きさで許可をいただいたので僕が特に気に入っている日記を紹介したいと思う。

まずは先生の記念すべきひとつ目の日記から。ちなみにこの『ひとつ目の日記』の読みは「ひとつめのにっき」ではなく「でんせつのはじまり」である。

何がいいって、今の鳥山では考えられない口調と絵文字使いだということだ。僕の予想だとこれは『異性も見ている』ということを意識しまくった結果の産物だと思う。ひとりの男子高校生の甘酸っぱいリアルがこれでもかというくらい詰まっている。ライブでもこの日記の朗読から始まったのだが、間違いなくこのトップバッターのおかげで僕もお客さんも『わくわくスタート』することができた。

続いてはこちらの日記。

これはもう『情報の暴力』である。果たして先生が本当に伝えたかったことはなんなのか。勉強の面倒くささ?フリスビーの楽しさ?TSUTAYAの品揃え?いとこの結婚のめでたさ?僕の頭の中を巡るちゃちな考えを先生はあざ笑うかのように最後の文章で一蹴してくれる。僕たちの日常はいつだって喜怒哀楽の連続だ。でも待ってほしい。そんなことより「てかやっぱコブクロヤバいね〜」なのである。これを読んだ時、僕の心の中の蕾が花開いた気がした。

そしてお次がこちら。

先生は音楽を聴くとき、歌詞に強く感銘を受けるタイプのお方だ。ゆずの名曲『夏色』の歌詞を引用して先生が綴った言葉は「かなり良いよね」のみ。かつてこれほどストレートな感想があっただろうか。まるで心臓に直接語りかけられているようだ。僕たちは大人になるにつれてシンプルな感情表現を怖がり、無理やり捻じ曲げて伝えることが多くなってしまった。でもそれらはすべて元を正せば「良いものは良い」、「好きなものは好き」というところにたどり着く。忘れかけていた大事な気持ちを先生はいつだって思い出させてくれる。

最後にこちら。

これはライブで大きな波紋を呼んだ作品である。高校生がひょんなことから31歳独身の早稲田大学院生とこんにゃくを切ったのたが、それ以外の情報がひとつもなく、ただ面白かったという感想しか残していない。彼らは一体どのようにして出会い、なんのためにこんにゃくを切ったのか。先生に聞いても「まったく覚えていない」の一点張りだった。果たしてこの『逆石川五右衛門集団』の目的はなんだったのか。こういった思いがけないミステリー要素があるのも先生が生み出す作品の魅力のひとつである。

このように朗読して振り返っているとあっという間に終演時間が近づいてしまった。僕がそろそろ締めようかと思っていると鳥山がらおもむろに口を開いた。

「僕もひとつ読みたいものがあるんです」

そしてスクリーンに映し出されたのは僕が書いていたmixiの日記。そんなバカな。僕はmixiのパスワードを忘れてしまい、どんなにがんばってもログインできなかったのだ。慌てる僕に鳥山はこう続けた。

「森本のマイミクなら日記が見れるということで、あなたのマイミクのひとりであるジョージ(小中高の同級生)に連絡を取ったら簡単にIDとパスワードを教えてくれました」

それを聞いた僕は「ジョージぃぃぃぃぃ!!!!!」と、『ライアーゲームで敗北が決まったプレイヤー』くらい叫んだ。

そして読まれた日記がこちらである。

なんなんだこれは。一言一句つまらなすぎる。鳥山の日記と違って『完全にウケを狙っている』ので余計タチが悪い。当然のようにツッコミを関西弁にしているし、もはやなにかしらの法に触れているのではないかと思うくらい悪質だ。

そしてその流れで来月に鳥山が僕の日記を読み続ける『mixi〜リベンジ〜』と称したライブが開催されることが発表された。その瞬間からずっとどうにかして集客をゼロにする方法はないか必死で考えている。なかなかいい案が思い浮かばないので、気分転換に音楽でも聴きながら考えることにした。

あれ?

てかやっぱりコブクロヤバいね〜

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