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107:ゴルフ産業白書の秘密に迫る②

何が分かるのか

 2023年8月3日(金)午前6時39分、私が個人で契約しているシェアオフィス「ひばり堂」にて白書の文章を掲載する前のウオーミングアップ(脳味噌の活性化)も兼ねて2章目の文章を書いてみたい。

 「ゴルフ産業白書」は基本的に毎年資料を購入頂いている「固定客(企業)」の構成比が高い。比率で言うと90%くらいが固定の企業で構成されているのではないか。勿論景気やゴルフ産業の景況などによってその年その年の購入企業数(私にとっては売上数)は変動する。例えば2020年から2022年にかけては皆様ご存じの通りゴルフ産業に「コロナバブル」と言われる追い風が吹いて日本のゴルフ産業は思わぬ好況に沸いた訳だけど、その年の白書は特別な施策(例えば広告宣伝費を投じての広告出稿やプロモーション活動)を行っていないにも関わらず過去の平均値と比べて20%程度冊数が伸びたりした。
 言わば「ゴルフ産業の景況を図る指標」みたいな面もあったりする。

 以上のような特性を有する資料なので、内容を知っている人はその中身(コンテンツ)をよく知っている。章立ても基本的に大きく変わることはないので、エキスパート的な人になると「あのデータはあのへんのページに載っているな」という感じでペラっと資料をめくれば欲しいデータが即見つかる、という感じ。

 逆に、資料を購入したことがない人(企業)や見たことがない人にとって白書は「何が掲載されているのか分からない、謎に高い本」であり続けるということ。唯一のプロモーション施策として発刊前に「DM」を作成して送付するのだけれど、現在送付先は「過去に当社の資料を購入したことがある企業」に基本限定されており、新規顧客を獲得する効果はあまり高くないのが実情(以前はネット等に掲載されている企業情報をリスト化し、のべつまくなしにDMを送りまくっていた時代もあったのだけれど、送られた企業からのクレームが多かったこと、コンプライアンス遵守の観点から今はそうしたやり方は厳しく禁止されている)

 つまり「ゴルフ産業白書」に限らず当社のマーケットレポート(資料)は、新規顧客を獲得するための戦略戦術が極めて脆弱な一面を有しているということが言える。マーケティング戦略の基本のキであるAIDMAに置き換えてみると、一番最初のステップである「Attention」の時点でもう躓いちゃっている感じw。

 そんな訳で「白書を紹介する記事を書いてみよう」と思い立った訳だけど、白書購入で「何が分かるのか」について紹介してみたいと思う。大雑把に言うと分かるのは以下の4点に集約されると言っていいんじゃないかと思う。

  1. ゴルフ用品市場の今の「全体像」が分かる

  2. 競合企業と自社の「立ち位置」が分かる

  3. ゴルフ用品市場の「近未来」が分かる

  4. ゴルフ用品市場、ゴルフ産業の「課題」が分かる

.1ゴルフ用品市場の今の「全体像」が分かる

 これは非常にシンプルな話で「国内ゴルフ用品市場規模」がデータとして掲載されていますよ、という話。今の世の中、歩いてどこかに行くにしても車でどこか行くにしても「地図」を使わない人は殆ど存在しないのではないかと思う。つまり「地図を見て自分が今いる位置と目的とする位置を確認する作業を日常的に行っている」ということ。ビジネスも同じで「自分が仕事として関わっている産業の全体像(市場規模)」を定量的に把握していないとその先に進むことはできない。ゴルフ産業白書はゴルフ用品業界にとっての「地図」的な役割を担っている、と自分は考えている。

 ちなみにその「地図の尺度」即ち「市場規模の算出方法」であるが、ゴルフ産業白書では「メーカー売上高ベース」にて算出している。つまり、「ゴルフ用品関連各メーカーがその年(年度)に売上を計上した数と金額の積算値」が市場規模になっている、ということ。以前は「メーカー“出荷”ベース」という言い方をしていたが、近年はメーカー直販(小売店や卸売業者を介さずダイレクトに消費者に販売すること)構成比が上昇していることから呼称を変更し「卸売販売分と直販分の合算値」を集計し規模化している。


2.競合企業と自社の「立ち位置」が分かる

 これもシンプルな話で「各メーカーの年(年度)毎の売上実績や予測値がカテゴリーごとに掲載されていますよ」ということ。恐らく、これがこの資料最大の「価値」として購入企業様には認識されているのではないかと思う。具体的なステップは以下の通りである。

・メーカー各社に「売上高調査」を実施。以前は調査票を印刷した上で対象企業に郵送する「郵送留置法」を採用していたが、現在はほぼ100%「メールによる電子調査票(エクセルベースの調査票)送信」に切り替えが完了している
・回答頂いた調査票を当社システムに入力
・それらデータの積算値を最大の根拠に全体の市場規模を算出

 こう書くととても簡単そうに見えるかもしれないが、実はこの作業が一番ややこしいというか「機械的にできない」という点で非常に難しい。上述したように調査自体は「メーカー各社の年度ごとの売上高調査に基づく規模算出」なのだけれど、例えばあるメーカー(それも市場における影響力の大きいメーカー)が年度末ギリギリに決算対策として膨大な量の売上を計上したとする。言うまでもなくその売上は純然たる「年度内の売上」であり事実であるのだけれど、その売上(出荷)というものは市場(小売市場)においては「翌年の需要に影響を及ぼすもの」となる。要するに私としては「確かに年度内の売上としてカウントされたものだけれども、その年の市場規模算定対象として扱っていいの?(翌年の市場規模にカウントすべきじゃね?)」という悩みの種となるのである。
 そんな時に非常に役立つのが、当社小売店実売動向調査「YPSゴルフデータ」である。同データは国内約1,100店舗のゴルフ用品小売店の実売データ(POSを中心とした実売情報)を集計、分析したもので、カテゴリーによって差はあるものの概ね市場カバー率70%弱程度の整合性・客観性の高いデータである。各メーカーに回答頂いた「売上データ」と小売市場における「実売データ」を照合することで、上述したような「異常値」を検出し可能な限り「市場の実態に即した市場規模の算出」を行えるよう心掛けている。

 上述のような調査ロジックを知った業界関係者から度々上がる質問が「本当に各社正直な数字を答えているんですか?」というもの。つまり「中には自分の会社を良く見せたいために“ゲタを履かせた数字”を回答しているところもあるんじゃないですか?」ということ。確かに、私が白書の編集責任者となった初期の頃にはそうした会社も何社かあったのは事実。しかしながらそうした数字を回答しても、上述したように「YPSゴルフデータ」を用いてその数字を検証することでそれは炙り出されてしまうし(そうした企業に対して「ゲタ履かせているでしょう?」と確認を取りながら数字の修正を行うのは本当に大変だった・・・・・・)、回答した企業の多くが白書の購入企業(お客様)であることから「そんな数字の積み上げで間違った市場規模を算出してしまったら、結果的に資料を購入頂く皆様の“見誤り”に繋がってしまうんですよ」ということを地道に説いてきたことで、現在はそうした事案はほぼゼロになっている。このあたりは日本全体で「コンプライアンス遵守」のメンタリティが強くなっていることも関係しているのだとは思うけれど。

 よく上がるもう一つの質問が「全部の企業が素直に回答してくれるんですか?」というもの。これについては守秘義務的な内容が絡んでくるためにあまり正直に書くことはできないのだけれど「ありとあらゆる手段を尽くして、可能な限り精度の高いメーカー売上高情報を入手」することにより、市場規模算出の精度向上を図っている。中には「資料に自社の情報を掲載するのは勘弁してほしいけれど、精度の高い市場規模算出のために調査には協力するよ」という企業も数社存在する。

 つまり、ゴルフ産業白書はメーカーを中心としたゴルフ産業関連企業の理解と協力を以て成り立っている資料、ということになる。

 ここまでで結構なボリュームになってしまったので3番目以降は次に回すとして、最後に「2023年版ゴルフ産業白書」のコンテンツ(章構成)を紹介して今回は終わりにしたい。


Ⅰ. ゴルフ用品市場概況
 1. スポーツ用品市場の現状と今後
 2. スポーツ用品小売市場の現状と今後
 3. ゴルフ用品市場
 4. 用品別市場規模
 5. 性別市場規模推移
 6. 用品別輸出入の推移

Ⅱ. 用品別市場動向
 1.  ウッド 
 2.  ハイブリッド       
 3.  アイアン                       
 4.  パター                        
 5.  ゴルフボール                      
 6.  ゴルフシューズ                     
 7.  キャディバッグ、その他バッグ・カバー類                  
 8.  ゴルフグローブ
 9.  ゴルフウエア
 10.  パーツ(シャフト、グリップ)
 11. その他ゴルフ用品

Ⅲ. ゴルフ用品関連企業の事業内容
 1. 主要メーカー個表
 2. 主要小売店個表

Ⅳ. ゴルフ用品関連企業の事業性分析
 1.  業種別事業性比較
 2.  業種内企業別事業性比較
 3.  企業別経営分析  

Ⅴ. 中古クラブビジネスの現状と今後
 1. 中古ゴルフクラブ市場動向
 2. 主要企業の動向
 3. 今後の展望と市場予測

Ⅵ. ゴルフ小売市場動向分析
 1. ゴルフ小売流通研究
 2. チャネル別小売市場規模推計

Ⅶ. ゴルフ用品関連データ
 1. ゴルフ人口(2035年将来予測)
 2. ゴルフ場数・ゴルフ場利用者数推移
 3. ゴルフ場・ゴルフ練習場経営関連データ

Ⅷ. 【特集】
2023年7月調査実施「コロナ参入、リタイアゴルファー実態調査2023(第4弾)」の一部を掲載予定



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