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パントマイムの習得のコツ その2 #17

前回の記事で書かせて頂いた習得のコツ無意識→意識の続きです。
パントマイム習得のコツとして、先ずは普段無意識に見ているものや、している行動などを、今度は意識的に再現し、無対象にて(実在する物や道具を使わず)表現しようとしてみることが有効であると書かせて頂きました。

本日はそのネクストステージ
意識から無意識へのアプローチについてお話させていただきます

無意識下での出来事

パントマイムの習得のコツとして無意識にやっていることを意識することで、現実に無対象のものを生み出す訓練をするとお話しました。

しかし、舞台上で何者かになって表現をしているときは演技をしている状態です。現実世界では無意識に行っている、靴を履くという動作や、ドアを空けるという動作に意識を払ってしまうと、その動作を再現しようとしているフィジカルの側面が演技の表層に現れてしまいます。

恋人が亡くなったというシーンで、二人暮らした自室に戻るというシーンがあったとして。その最中に、ドアは右手でドアノブを握り、左手で面に触れ、ドアノブをひねってから、押し開く。なんてことを考えるわけありません。

茫然自失としたまま、うつむき、ガランとした空間をみつめ、想い出の品をみつけて、その時の想い出にまた悲しみの感情が溢れて、、という心の動きが次々と起こるでしょう。その際に、無対象の中で、タンスや棚の配置、ドアの開閉の仕組みなどを意識することはありません。

事前のリハや圧倒的没入によって、その空間の家具の配置や、重さ、質感など、実在するかのように体感した状態にあるのであれば、そこに存在するだけでリアルがお客さんにも伝わるのです。

意識から無意識へ

つまり、稽古の末に、演目のリハーサルに入ったならば、無意識→意識から、意識→無意識に戻さなくてはならないのです。

最初は段取りとして、立ち位置や照明の当たる場所、曲のきっかけとなる動きを詰める等、意識的に空間やシーンを創っていきます。しかし、人に見られながらのリハーサルに入っていったならば、その辺りのテクニカルなことは意識の端に追いやり、物語の世界に集中し入り込まなければなりません。意識的に作った部分を全て無意識下で行えるようにするのです。

テクニック作品をやっているときも、ダンスの振付を覚えるように、先ずは動きとして、徹底的に反復練習を行い、意識的に全ての動作のカウントや角度などをチェックします。

しかし、何度も同じように動けるようになってきたのなら、そこから、物語としてそのテクニックを行うシチュエーションを演じる段階に入るのです。壁があるなら壁との関係性において、戸惑ったり怒ったり。右往左往するその人物の演技に一気に意識の大半を移し替えるのです。

演技をしている状態とは

パントマイムとは表現であり演劇的なものです。基本的に振り付けのみで成立するものではありません。

演技している時というのは集中してその空間に存在している状態にあります。舞台という虚構の空間において、現実から離れた世界の別の現実を生きている様な状態と言えばイメージ出来るでしょうか。

脚本内容において、非日常をリアルに演じる。
例えば、目の前の恋人が病に倒れ、看病の甲斐なく亡くなったとしたなら、人はどのような状態になると思いますか?

普通は取り乱し、悲しみにくれ、絶望感に苛まれ、茫然自失となりそうですよね。とてもじゃないけど正気ではいられません。
しかし、舞台上の物語であれば、亡くなったということが現実においては演技であり、そのシーンが終わったら普通に立ち上がって、舞台裏に移動することは誰もが分かっています。

それでも、演目中に「ああ、この人は死んでいるように振る舞っているけれども、演技なんだよな〜」なんて思おうものなら、こちらの芝居に熱がこもるはずがない。

なので、どこかで冷静に今の舞台上を客観視している視点はあっても、集中力と没入によって、本気で何年も連れ添った恋人が亡くなった時の感情を生み出し、その瞬間だけはその虚構の世界にリアルに生きる。これが演じるということではないでしょうか。

演技をするというのはものすごく集中力が必要な行為であり、他に多くのことを考えてしまうと、今現在観客に伝えたい虚構の世界の感情よりも、リアルの世界でリアルに感じていることが表層に出てきてしまいます。

意識的に構成する、演技とテクニック(振り付け)と音楽(音ハメやカウント)をそれぞれ無意識下へと移し替え、今目の前で起きている出来事、自分の心の動きにより集中して演目に取り組むことが、人前で披露するレベルになった時には必要となってくる、習得のコツと言えるのではないでしょうか。

無意識→意識→無意識の順序

即興性のある作品をやるときは、最初から無意識状態でシーンの表現に注力します。お客さんの目の前で、景色を探っている動きは見せられないからですね。

過去に膨大な時間をテクニック練習に費やしていれば、全く知らない動作以外は必要な所作が体に染み付いて動けるようになるものです。そのためには基礎練習が大切で、無意識では出来ないことを意識的に扱えるようにする練習時間が必要です。

基礎を疎かにせず、地道な反復練習が結局は一番の近道。
先ずは無意識→意識の段階を徹底的にやりましょう。そして、その先に舞台や現場に立つ日が来たときには、是非無意識のレベルに戻すというところまでやってみて下さい。ここで虚構を嘘としないだけの技術が身についていたならば、観たお客さんは心打たれることに違いありません。

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