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原点回帰 + 新しい世界 =???

研究を終えて校舎を出ると、すでに外が暗くなっている。季節は移り変わってゆく。
夏が大好きな私にとっては、どんどん日が短くなっていくことに抵抗しかないのだが、この時期になるともうすぐ一年が終わるなぁっていう感じ(ん、「一年」の数え方には個人差がありそうだな…)。ありがたいことに寒さが適度に私の動きを早めてくれるから、テキパキと活動できる(苦手な朝以外は…笑)。

流石に慣れてきたチューリッヒでの生活も、実はもう半分しか残っていないことに気がつく。早い…そして時間がない!!!数週間前までこの上ないほど焦っていた将来についても、なんとか来学期の予定が決まったことで落ち着いた。考えすぎても仕方がないし、なるようになるもんだ!もともと気まぐれなタイプなんだから、その時その瞬間の感覚を信じて生きていこうってね。

すでに半分過ぎ去ったこの留学生活の目的、そう、それは… 研究!(旅行じゃないんです、一応ね汗)
物理学だけを専攻にするって決めてから約一年。去年の夏の水滴の研究(一応high speed fluid dynamicsっていうかっこよく言うこともできる笑)を終えても、研究に対して正直ピンと来ていないというか、仕事として研究をするって感覚が自分の中でハッキリとしないままで、もっと長期で研究をしてみたいと思ったのがきっかけで今の研究に至る。勿論水滴の研究は楽しかったが、自分の専門になる分野ではないって思ってしまったし、その一つの経験だけで将来をジャッジできるものではないと思ったことも大きい。自分は卒業後にどんなことをしたいのか。答えを見つけるのは難しいし、もしかしたらどんなに時間をかけても上手く明確にできるものでもないのかもしれないけど、好きかどうかはやってみないとわからないじゃん?っていうスタンス。今の所は。

だから環境を変えて色々試してみているのだが、結局何をやっても楽しいと思ってしまう!だから余計にわからなくなる。でも、それってこの上ないほど幸せなことなのではないのか!? 選択肢はたくさんあって、自分が否定しない限り、進むことができる道は沢山あるのだ。正解なんてなくて、どんなに他人から賞賛される道を選んでも(無論褒められるのは嬉しいが)、結果的に自分が肯定できるかどうかが重要で、これでよかったって思えるようにするのは自分次第で、でもそれは後からわかるもので…

そんな風に何か決めるどころか、前よりも迷子になった状態のまま学部三年生になった私は、今までと全く違う環境でセメスターリサーチをする機会をいただいた。今回はこの研究についてざっくりとまとめてみようと思う。

何の研究をしているの?

誰に聞かれるかによるけど、どういう説明をすれば良いのかいつも迷ってしまう。最近自己紹介する機会が多くあって、きちんと日本語で説明が出来ないことに気がついてしまったから、まずは整理をしながら書き起こしてみる。

とっても大まかにいうと、宇宙線と素粒子の研究。
宇宙線(宇宙船じゃなくて!笑)は宇宙から実はいっぱい飛んできてる自然放射線のことをいう。地球にもたくさん届いていて、常に私たちの間をすり抜けている。これらの宇宙線を地上にある望遠鏡たちが観測している。その中でもチェレンコフ望遠鏡アレイ(CTA)は、次世代を担う期待の星、超高エネルギーガンマ線天文台だ。このCTAは地上に届く微弱な光を観測することができる。高エネルギー現象を調べて宇宙のことをもっと解明していくことが目的の国際的プロジェクト。例えば、暗黒エネルギーだったりブラックホールだったりね。この大きなプロジェクトの小さな小さな一部の研究をさせてもらってる。
宇宙線は地球に向かってきて(この時は一次宇宙線と呼ばれる)、大気に突入する時に原子核と衝突して二次宇宙線となって地上に届く。その中でも荷電粒子(電子とか陽子とか電荷をもつ粒子のこと)の7、8割はミュー粒子なのである。ミュー粒子はレプトンに分類される素粒子だ。さっきCTAが光を観測すると言ったが、これはチェレンコフ光と呼ばれる青い光のことである。チェレンコフ光は荷電粒子の速度がその物質中の光速度より速い時に起きる現象で、何かと話題のニュートリノなどもミューオンと一緒に光を発生させる。スーパーカミオカンデでニュートリノが地下深くで観測されているのは地表と比べてミューオンの数が減少するから。でこれらの光は、実際に観測されたイメージ上では、チェレンコフ角度に伴って円錐型に放出されたことでリング状となって現れる。このミュー粒子のリングを分析するアルゴリズムを研究、開発するのが私の研究内容。簡単にいうと、このリングのデータを正確に分析するためのシステム作りみたいな感じだ(ざっくり笑)。その観測結果から素粒子の飛来方向などがわかったりしていって、宇宙線の起源などを解明していく鍵になる。ミュー粒子は扱いやすいデータのため、今のCTA開発段階においては色んな調整だったりに使われることになる。

どうしてこの研究を選んだの?

回り道をしてもやっぱり行き着くのは、宇宙=ワクワクだから。
私と物理の、全ての原点だから。宇宙から飛んでくる放射線の研究って!そんな研究できるチャンスがあるのかと思ったら落ち着かなくて寝れなかった夜があったなぁ(あれって今年の初めか!)。CERNのLHCのCMS実験の研究(こちらも高エネルギーの粒子について)っていう選択肢もあって、どうしてもネームバリューに負けそうになったんだけど、やっぱり宇宙が関係してるって私にとっては大事なことで、どちらにしろ高エネルギー素粒子についてならより宇宙に近い方を選ぼうって。色々物理の中にも分野があって迷うけど、こうやって昔より少し進んだポイントで原点回帰できて素直に嬉しい。

そして、原点に加えて、自分にとって未知の世界だったこと。
素粒子物理の世界はまだ余り触れたことがなくて、純粋に知りたいな、もっと勉強してみたいなっていう興味。うちの大学だと素粒子物理の授業がほとんどないから、外に出ていく理由としては十分すぎた。実際来てみたら未知の世界というよりは、自分が本当に無知すぎるだけなんだけども。

とりあえず感覚的な意味でも、内容的なことでも、私の望んでいたもののハイブリッドって感じの研究プロジェクトだったのだ。奇跡の出会いだったのかもしれない、と思ってる笑

実際に研究やってみてどう?

よく考えてみると望んでいた経験そのものなんだと思う。実際に朝から夕方まで、働いてるって感覚で毎日研究をしている。新しいことを日々学んでる。夏のインターンの経験のおかげで、パソコンと向かい合ってコーディングしてばかりの日々を違和感なく過ごしている。一つのことに長期戦で集中してる(合間にドイツ語取ったり物理のレクチャー聞いたりもしているけど)。周りの人々はこれを何年も職業としている人たちなのだ。そんな物理博士たちを毎日間近で見て、思うことが色々ある。その一つに将来のビジョンっていうここに来た目的も含まれている。私は大学院という選択肢を当たり前に進む道だって少し前までは思っていた。でも今は、進学せずに働くっていう選択肢が自分の目の前に見えるようになった。研究をするのは楽しい。ただどうしても、自分がその生活を近い将来仕事として毎日している姿がうまく想像できない。今は面倒を見てくれているポスドクの方がいるけども、私が逆の立場になることも全く考えられない。でも、今現在は楽しい日常を送っているし、終わった後にどう感じるかは未知数。だからやりきった後にちゃんと考えたいと思ってる。

ポジティブな内容を書いてきたが、毎日良いことばかりではない。当たり前だけど波があるし、本当に情けなくて自分の出来なさに自然と涙が溢れでることもある。出会う周りの方々の経歴や実力に圧倒されて、尋常じゃない劣等感が襲ってきたり、自信や自尊心を喪失する瞬間が度々ある。やる気が出ない時だってあるし、眠くて集中できないこともある。それでも全部まとめて自分の強さにプラスになって行くんだ。というか、そうしていきたい。


少し長くなってしまったが、毎日充実しているからこそ考える時間がなかったりするので、こうやって時間を取ることは大切。現在進行形すぎてto be continued.って内容が多かったかもしれないが、これはこれで今しか書けないことなんじゃないかな。

胸張ってセメスターを笑顔で終われるように、残り半分はもう少し努力して過ごしていこうと思う。


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