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「おわりに」 を、はじめに。新著の一部を公開。N=1がスマイルズのキーワードです。

こんにちは。スマイルズのクリエイティブディレクター野崎亙(のざきわたる)です。この度、日経BPさんからスマイルズのクリエイティブやマーケティングの考え方を著した本が10月15日発売されました。

スマイルズとしては6年ぶりの書籍出版となります。
本書の中では、

「スマイルズはマーケティングはしない!」

と言いきっていますが、実際にはクリエイティブという手段を使いながら、スマイルズらしいマーケティングアプローチを試みています。そんなことを自分自身が関わった事例から、直接的には関わっていない事例までご紹介しながらひも解きました。
とはいえ、「はたして何を書いているのかよく分からない」「なんのための本なのか分からない」なんて方もいらっしゃるでしょう。
そこで今回、出版に際しまして、手始めに本書の「おわりに」を公開したいと思います。

はじめに「おわりに」。

本を書いてみて分かったのですが、意外とさまざまなことを勘案するが故に、書きたいことをそのまま書くというのは難しいものなんですね。
実はこの「おわりに」だけが著者に許された自由区(笑)。
本書の本筋と関係あるわけではないのですが、この本を書くに至った自分自身の価値観や思いを記しています。
本書の中で頻出するN=1というキーワードの大切さ。自分基点であることの大切さありたい世の中の姿を書いたつもりです。
是非ご一読いただき、なんだかピン!ときた方はそのまま書店へGOしてください(笑)。

ちなみに本書はページ数(248ページ程度)のわりに文字量がとても多いというご意見をいただきます。また”事例”と”視点”が連発して、言いたいことが満載なので少し疲れるかもしれません。僕は欲張りすぎて色々と詰め込んでしまいましたが、ご購入された方は欲張らず、1日1章ぐらいのペースで読んでいただくのがちょうどいいかもしれません。

それでは、「おわりに」からどうぞ。

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おわりに

僕が大好きな経営者に任天堂の元代表取締役社長の故・岩田聡さんがいます。彼はまだ入社2年目、42歳の若さで任天堂で初めてとなる創業家以外からの代表取締役社長に抜擢されました。
その後「ニンテンドーDS」や「Wii」など革新的なゲームを開発するとともに、2007年にはトヨタ自動車や三菱UFJフィナンシャル・グループに次ぐ日本3位の時価総額(10兆円超)に押し上げた立役者としても有名です。ゲームデベロッパーカンファレンス2005にて彼が聴衆に語ったコトバが未だに心に響いています。

「名刺の上では、私は代表取締役社長です。頭の中では、ゲーム開発者です。でも、心の中では、ゲーマーです」

岩田さんは一人のビジネスパーソンであると同時に一人のクリエイターでもあり、一人の生活者でもありました。だからこそゲーム業界のハイスペック競争の中で劣勢に立たされた中、処理速度や高画素数のグラフィックなど定量的性能に頼ることなく、〝誰でも楽しめるゲーム機〞を媒体として、家族の団だん欒らんをリビングに取り戻すことに成功しました。当時「Wii」とい
うゲーム機を購入した方のリビング設置率は80%を超えていたそうです。このゲーム機はゲームそのものの意味を変えたと論じている人もいるほどです。

現代はGAFAに代表されるように数少ないプレイヤーが情報を支配し、高度にマーケティング化された確率論的市場の中で僕たちは生きています。知らず知らずの間に、行動を誘発させられていることもあるかもしれません。しかしながら、かつて任天堂が、あるいは岩田さんが生み出した「DS」や「Wii」のように、既存の市場論理なんて関係なく誰かの体温をあげてくれる商品やサービスは、けっしてその確率論の中からは生まれないと感じています。結局、岩田さんのような自身のN=1に端を発する強烈な熱量や思い、そして誰もが知る原体験の中にこそ未来の価値と社会の可能性が潜んでいる気がしてなりません。


「Yes and No」

これはスマイルズが文喫をプロデュースした際、僕がクライアントに内緒でエントランスフロアからスキップフロアに上がる階段の裏側にネオン管で制作したアートワークです。運良く気に入っていただき、事なきを得たのではありますが(笑)。

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「Yes or No」ではなく「Yes and No」。

右か左か、どちらか一方にしか正解がない社会ではなく、右があるということは左もありうる社会、すなわち選択肢のある社会こそが実現したい未来だと考えています。多様性と叫ばれながらも気が付けばどんどん選択肢の減っている現在において、それぞれの確固たるモノサシがあることは素晴らしいのだが、だからこそ、その反対の見解を持つ誰かも受け入れることができるはず。「マーケティングこそ最良」、「クリエイティブこそすべてだ」と考えるのはどちらもその人にとっては正解だし、どちらも誰かにとっては不正解。その両者を理解し寛容でありながらも自分なりのモノサシを探求すること。そこにこそ意味があると思うのです。

N=1とはまさに様々な人にとっての選択肢を提示する大いなるきっかけだと思います。この世の中に様々なN=1をきっかけとして事業や活動が生まれ、そのそれぞれの熱量が時としてボクシングの試合のようにぶつかり合い、最後には理解と寛容が育まれること。「自分とは考え方が違うけどそれもアリだね」なんて握手できる社会でありたい。今回この本を書くに至ったのはそんな背景があるからです。偶然にもこの本を手に取った誰かが、自分のN=1を引っ提げてコトを企て始める。そんな方が1人でも生まれてくれば幸いです。

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----- 書籍情報 -----

■タイトル『自分が欲しいものだけ創る!』
スープストックトーキョーを生んだ
『直感と共感』のスマイルズ流マーケティング
■出版社:日経BP
■著:野崎亙 (のざき・わたる)

----- 著者プロフィール -----

野崎亙 株式会社スマイルズ取締役/クリエイティブディレクター

野崎‗20190820

京都大学工学部卒。東京大学大学院卒。2003年、株式会社イデー入社。3年間で新店舗の立上げから新規事業の企画を経験。2006年、株式会社アクシス入社。5年間、デザインコンサルティングという手法で大手メーカー企業などを担当。2011年、スマイルズ入社。全ての事業のブランディングやクリエイティブの統括に加え、入場料のある本屋「文喫」など外部案件のコンサルティング、プロデュースを手掛ける。2019年より、PASS THE BATON事業部の事業部長も兼務。

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