撮影の裏側

「スタッフ全員が垣根を越えて、全ての作業を手伝う」

「アメリカ横断ウルトラクイズ」の元・スタッフがそう言っていた。

クイズ会場のセッティング、本番、撤収。限られた少数精鋭のスタッフが助け合って、いろんな事を行わないと、アメリカ大陸での長期ロケはやっていけない。

大阪での「朝ドラ」の現場もそうだった。現場のプロデューサーである僕も率先して手伝う。

五十嵐いづみ主演の朝ドラ「華の宴」。

その日はロケが「押していた」(スケジュールが遅れる事)。

全て「デイシーン(昼間のシーン)」なので、撮影の進行と太陽の沈むのが追っかけっこになっていた。

たくさん干してある「素麺」の前での芝居。そのシーンが終わった。「デイシーン」は移動して、あと1つ。

僕はロケ地の真ん中に立って大きな声で叫んでいた。

「次のシーンに必要なスタッフはすぐ移動を始めて下さい。僕たちでこの現場の跡片付けはしますから」

ロケ隊を出発させた。僕はその場に残って、撮影に使われた大量に「干された素麺」を元通りにし、入念に掃除も行った。

過酷な現場ではプロデューサーがお手本を率先して見せる事も大変大事。

その日のロケが終わり、奈良県の三輪から大阪の局に帰るまで、ロケバスに乗っているスタッフは全員爆睡し、完全に意識を失っていた。連日の撮影の疲れが出ているのだろう。

そのロケバスの中で、僕は目が冴えて起きていた。何故だか、スタッフ全員、愛おしく思えた。

「短縮移動メシ」でロケバスのスタッフ全員が慌ただしく、動くロケバスの車中で弁当を食べる様子は街を歩いている人が目撃したら、異様な風景に映るかも知れない。

しかし、どんなに辛くてもドラマのスタッフは「ドラマ作り」に真摯に向き合っているのである。

「朝ドラ」の時、ヒロインは大概、メイク控室に泊まっていた。朝から晩まで撮影が続き、ホテルに帰っていたのでは「台本を憶える時間」が無い。

衣裳・メイクさんは朝8時、俳優陣が入って来るまでにスタンバイする必要がある。終わっても俳優さんが帰るまでは居なければならない。メイクさんがヒロインとごろ寝して、夜を過ごす事も多かった。

美術さんも、翌日撮るセットが変わる場合、夜を徹してセットの建て直し。

セットが変われば、照明さんは照明器具を吊り変えなくてはならない。

撮影時間以外にも、いろんなセクションがいろんな動きをしているのだ。

だから撮影現場では、スタジオであれ、ロケであれ、「気が付いた人が動く事」が必須になる。

監督は現場の雰囲気を察しつつも、自分の欲しい芝居や映像にはとことん貪欲にこだわらなければならない。

監督の姿をキャスト・スタッフは必ず見ている。

細かい「気遣い」の上にドラマ作りは成り立っている。

先日観た「シン仮面ライダー」のメイキング番組。庵野秀明監督は俳優陣にこう言った。

「僕が君たちに指示を出して演出するくらいなら、僕はこの作品をアニメでやります。実写でやるからには、君たち俳優が考えて出て来た予想外のものを僕は掬い取りたい」

庵野監督はこの時、俳優陣に向かって激怒し、その場を立ち去った。

俳優たちが考えに考えて、殺陣師がアシストして出来た荒削りのアクション。ケガをするのも顧みない一回きりのアクション。

本番!

一回で奇跡的に庵野監督からOKが出た。

過去の『仮面ライダー』をどう打ち破るか?」
正直、庵野監督は悩み続けていた。それを俳優陣とスタッフが苦しみ抜いて出した答えだった。

監督、キャスト、スタッフ、三つ巴になって、それぞれが考え抜くからこそ、観た人に感動を与えるドラマや映画になるんだと思う。

それが面白くて、キャストやスタッフもまた過酷な撮影現場に戻って来るのだろう。

極めて人間的な。

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