桂三枝さん

かつて、年末に「笑って総決算!」(関西ローカル)という番組があった司会は桂三枝(現・文枝)さん。年末の特番で、放送時間は2時間半。

解答席、吉本芸人始めタレントさん達が、いろんな形で出題されるクイズに答えていき、優勝チームが豪華な賞品をもらえるというもの。

まずは三枝さんの事務所に御挨拶に行く。

実は僕、入社してすぐ付いた番組が「三枝の恋人ラブマッチ」(関西ローカル)と言って、当時流行っていた男女若者のお見合い番組だった。

この番組のリハーサル。本番前に男女を会わせる訳にはいかないので、男性のリハーサルの時は女性たち、女性のリハーサルの時は男性たちをADの僕たちが代わりになってやった。

リハーサルの司会はパンチパーマで「その筋の人」にしか見えないIチーフ・プロデューサーがやる。

素人の女性たちの時のリハーサル相手は僕たちAD。

Iチーフ・プロデューサーが訊く。
「あなたはデートする時、彼女をどこに連れて行きますか?」

「陽が沈む海岸」
「恋愛映画を観に行きます」
「絵画展に誘います」

この番組の収録は2本録りなので、2週間に一度。

Iチーフ・プロデューサーもこのやり取りに飽きて来たのだろう。

やがて「当たり前のデート場所」を言うADを凄い剣幕で怒鳴りつける様になっていた。

ADである僕たちは2週間、必死で今までに言っていない「デート場所」を考える。

「長野の空気がきれいな白樺並木の中で」とか。

CPからカミナリが落ちないか、ヒヤヒヤものの番組収録だった。

話が脱線した。三枝さんとの仕事は「三枝の恋人ラブマッチ」以来である。もちろん、三枝さんは憶えていないだろうが。

三枝さんにラフなクイズ案、番組構成案を見せて、意見を聞く。

放送時間2時間半の長丁場。最初にお会いしてからも、マネージャーを通して、頻繁にやり取りして、番組内容を固めていく。

タレントを使ったロケ。僕はタレントをロケで使うのが初めてで、正直自信が無かった。

僕は人見知り。
生身の人間である吉本のタレントにどう指示を与えるのか?
絶望的な気持ちでいっぱいになっていた。

会社に残って遅くまで、考えに考えたが、「オチ」のある、いいアイデアは思いつかない。ロケは明日に迫っていた。

番組の構成作家・儀賀さんに電話する。彼は三枝さんのブレーンで、僕はこの仕事で初めて知り合った。

儀賀さんは2時間程で、ロケ台本を書いてFAXしてくれた。優しい。

山ほどあるクイズのロケも何とか終わり、ミナミの吉本会館の中にあるテレビスタジオで、三枝さん司会の「笑って総決算!」の収録が始まる。

吉本のハイヒール・モモコさん始め、芸人さんも出ているので、三枝さんとのやり取りで、本番は大いに盛り上がる。

今まで、「局」の技術さん、照明さん、美術さんと番組を作って来た。

ディレクター単独で吉本に乗り込むのはどこか新鮮で気持ちいい。

三枝さんの司会は最高だ。収録時間、3時間半、番組はエンディングを迎えていた。

優勝チームのハイヒール・モモコさんが透明な電話ボックスに入り、中で大量に飛び交う千円札。掴んだだけ、貰える。それが賞金。

収録が終わり、VTRを持って会社に帰ると、僕はグッタリしていた。目を瞑ると再び目を開ける事が出来ない。それ位、疲れ果てていた。

編集室にこもって、番組の編集が始まった。

そこに、桂三枝さん本人からの電話。

「田中角栄が亡くなったので、番組のいちばん最初にそのニュース映像を入れて欲しい」との事。

1年を「総決算」する番組、年内の最新情報もあった方が良いという三枝さんの思いなのである。

事前の打ち合わせの細かさ、本番は自由自在に出演者を操る技、思いついた事は番組が編集段階になっていても入れて欲しいと言う粘り強さ。僕は桂三枝に真のプロの姿を見た。

テレビ界のプロという存在を。

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