ミヤコ蝶々さんと野際陽子さんとゲランちゃん

「朝の連続ドラマ」でミヤコ蝶々さんがスタジオ入りされる時、僕は必ず控室の前で早い時間からお待ちしていた。

控室の「表記」は、「ミヤコ蝶々様」「ゲラン様」である。

ミヤコ蝶々さんの愛犬が「ゲラン」。ミヤコ蝶々さんが現れる前に、ゲランが廊下を勢いよく走って来る。

ミヤコ蝶々さんは控室の「表記」をサッと見て、

「ゲラン、お前の名前もちゃんと書いてくれてはってるで」

ととっても嬉しそう。

もちろん、控室の中には、ゲラン用の「ビーフ・ジャーキー」の用意も怠らない。京橋駅のダイエーで買って来たものだ。

ある時、その「朝ドラ」でミヤコ蝶々さんと野際陽子さんの、台本にして4ページに及ぶ芝居があった。

このシーンの収録は、立ち会った僕にとって、「奇跡の様な収録」になった。

ミヤコ蝶々さんは、「4ページ分の、脚本に書かれた意味合い」は全て間違いなく話される。

しかしながら、ミヤコ蝶々さんは「日向鈴子」という「劇作家」でもあられる。舞台の脚本をたくさん書いておられる。

つまり、ミヤコ蝶々さんは、「喋りながら、自分なりの脚本を頭の中で書かれていた」のである。

なので、「4ページ分の台詞」、喋る順番も変わっているし、喋る言葉もミヤコ蝶々さんなりに変えて喋られる。

そして、そのミヤコ蝶々さんの喋りに対して、野際陽子さんは全く動ずる事無く、全て「受け答え」されたのである。

これは、「奇跡」としか言いようが無い。お二人の「芸の達人が見せた芝居のぶつかり合い」の現場に立ち会えた僕は本当に幸せ者だった。

困ったのが、複数のカメラを切り替えて、収録するスイッチャー。

ミヤコ蝶々さんと野際陽子さんの「台詞の順番」は「カメラ・リハーサル」と「本番」でも変わり続ける。

もう、どのカメラでどの芝居を撮っていいか分からない状態なのである。

結果、どんな「カット割り」になったか、僕は憶えていないが、二人の女優さんの素晴らしいお芝居をスタジオで見られただけで、僕は大興奮し、ドラマに携わっていて良かったなぁーとつくづく思った。

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