アマゾン川でバタフライ

「It,s swimming time!(さあ、泳ごうぜ〜!)」
船長がラジカセで陽気な音楽をかけて叫んだ。

遊覧船の上で観光客が一斉に服を脱ぐ。男も女も。服の下に着込んだ水着姿になって、次々と川に飛び込む。

普通の川ではない。河口から数千キロ、川幅四キロ以上あるアマゾン川のど真ん中。ミルクティー色をした水面をみんなグイグイ泳ぐ。水着を用意していない僕(クルーズを手配してくれた旅行代理店の人は水着着用とは言ってなかった)は飛び込めない。泳いでる人たちがピラニアに襲われないか、ヒヤヒヤするばかり。これがアマゾン川8時間クルーズ最後のイベント。

アマゾン川中流の町マナウスは、リオやサンパウロと違って、治安はすこぶる良い。

クルーズを終え、マナウスの港に帰還。

港のすぐ横には「魚市場」。少し魚の腐った臭いがする。マナウスは暖かい町。その中に地元漁師たちが利用するカウンターだけの小さな食堂があった。好奇心に突き動かれて、勇気を出してカウンターに座る。メニューはポルトガル語。指でメニューを指しながら、当たり外れの無いスープをオーダー。

出て来たトマトスープ。アマゾン川で獲れた魚の殼を大量にたっぷり煮込んで出汁を取る。それをトマトで味付けしたスープは今まで生きてきた中で、予想も出来ない最高の味がした。

その夜、無性に日本食が食べたくなり、マナウスの日本食レストランへ。

北島三郎、島倉千代子、石川さゆり、アマゾンの空の下、スピーカーから演歌が次々と流れて来る。茄子の田楽などをおつまみにしながら酒を飲む。

僕は海外を旅する時、必ず一回は日本食レストランに立ち寄る。

水だき鍋の白菜がレタスだった事もあるし、握り寿司から外国人板前のオーデコロンの匂いがした事もあった。でも、必ず行く。

異国の地で酔いしれていると、日本で生活している時とはまた違い、演歌が心に沁みる。自分が日本人だという事を実感する。日本と、地球の真反対にあるブラジル。そこで飲む酒、流れてくる演歌はとても相性がいい。日本からも同じ星が見えているのかなぁーと思いながら、かなり酔うまで酒を飲み続ける。一人酒も良いものだ。

どこの国へ行っても、夜、僕は酔っ払っている。よく誰かに襲われなかったものだ。背が高くて身体が大きい僕が酔って暴れたら怖いなぁーと思われていたのかも。

そんな僕も2015年に断酒した。不思議な事に、それ以来酒を飲もうという気持ちにならない。体重も20キロ以上痩せたから、健康の事を考えると結果として良かったのかも知れない。

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