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檸檬ケーキで始まる共有の時間

洋一さん。中央大学法学部に通う大学生。友達の家庭教師。春休みや夏休みで帰省した時にだけ勉強みてくれるんだって。ビートルズが好きでバンドやってて、バイクも好き。いつの間にか友達も、バンドに入りバイクの後ろにも乗せてもらって深夜のツーリングにまで。銀行員の堅い父子家庭の元、家事全般をこなす彼女は高校では1人だけスカート丈を守る風紀委員長。日曜日ごとに一緒に通った図書館では裏口の自販機横でタバコすったりライブの写真では想像もつかないくらいな派手な彼女の強烈なショットを見せられ、地方の田舎の女子高生の私には息継ぎが間に合わないくらいの刺激的な日々。そんな洋一さんから、私に一度だけ手紙が来た。Mをこれからもよろしく!と一言。どういう意味があるのか分からないまま純情女子高生は返事を書いた。何をどう思いついたのか?何の決意表明か?まち針で人差し指をチクッと刺して、血判一つ。狭い田舎の片隅で漠然と抱えていた将来の不安と平凡な毎日の不満に訣別をするかのような返信の仕方。

半月後、、洋一さんはバイク事故で帰らぬ人に。漫画かドラマみたいな展開。友達Mは取り乱すことなく受験にシフトチェンジ。洋一さんと同じ中央大学法学部に見事合格。

お互い、東京で就職。結婚、出産、離婚、不登校、失業、介護、癌闘病、宗教問題、相続問題、いろいろ人並みに乗り越えて45年目の初夏を迎えた。

お互いに。知った毎朝のルーティーン。セブンの檸檬ケーキで始まる1日。

未だに聞けない疑問。

ねぇ洋一さんて実在していたの?

永遠の謎でもいいか。

今の私には、毎朝のおはようの繋がりの方がリアルで大切だから。

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