乙女ゲーム『ピオフィオーレの晩鐘』が我が家にやって来た。

ノベルゲームというジャンルに苦手意識がある。

文章を読むこと。ボタンを押して「先に進む」こと。
さらには、台詞を読み上げるキャラクターボイスに耳を傾けること。
これらを並列に処理することには一定の「器用さ」が求められる。

そう思っていた。

2021年はそんな私が2つのノベルゲームにハマる、記念すべき年となった。

1つは『After…』という旧きギャルゲーである。


私は『After…』が展開するエピソードの一つ、実妹ヒロイン「高鷲渚」と主人公「祐一」による実兄妹恋愛劇を通じ、プレイヤーたる私と高鷲兄弟が道を違える鮮烈なゲーム体験を味わった。私と高鷲兄弟による解釈違いという事件は、「途中まで自分を祐一だと思い込んでいた私」にとり、終えて私の脳内にしか存在しない二人という注釈付きの推しカプを――悲しき実妹ヒロインゾンビを――爆誕させ幕を閉じた。あまりに救いのない悲しい事件だったというほかない。

さておき。

そんな『After…』のプレイと前後して足掛け半年。私にノベルゲームのなんたるかを教えてくれたゲームがもう一つある。それが今回感想を語る『ピオフィオーレの晩鐘』だ。

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[Treffen]

冒頭の通り、私には、ノベルゲームをプレイする習慣がない。

『After…』のプレイは、本年のゴールデンウィークにてステイホームで過ごそうと中古ゲームショップでジャケ買いしたところに端を発する。対して『ピオフィ』はそもそも自宅にあった。

本作はアイディアファクトリー株式会社のゲームブランド『オトメイト』作の乙女ゲームである。また、私の配偶者は乙女である。配偶者が乙女である私にとって、乙女ゲームというのは「見た目で妻の推し当てクイズ」「ストーリー妄想・勝手にキャラメイク」などに興じる、ちょっとしたおもちゃであった。

もともとPS Vitaにて2018年に発売された『ピオフィオーレの晩鐘』は、一昨年夏『ricordo』というタイトルを付し、Nintendo Switchに移植された。我が家にピオフィがやって来たのはその約一年後、昨年秋のことである。

なお、この移植は昨年11月『1926』という続編の展開を見越してのことで、そののち、今年にかけてエンディング後のキャラクター別ドラマCDが展開された。

さて、そんなピオフィが我が家にやって来てからというもの、私の妻は精神に著しい変調をきたした。妻の推しカプに由来するキャラクターのCDが発売される日は事前に、大勝利か爆死かの如何を問わず夕食が簡便なものになると宣告されたのは記憶に新しい。ありがたいことに妻は無事優勝した。

しかしながら『ricordo』の当家加入から、妻はほとんど一年にも及び孤独な戦いに明け暮れた。そして長きに渡る配偶者の変転ぶりは、私の心に大いなる興味の種火を灯した。

私の妻がここまで錯乱するこの乙女ゲームとはいったいどんな代物であるか。
私の妻をこれほど幻惑するイケメンはいったいどんなご尊顔であるか。

そうした疑問を確かめるべく、私はつつましくも平穏に生きる乙女『リリアーナ・アドルナート』として、1925年の南イタリア、イケメンマフィア・パラダイスたる『ブルローネ』への転生を決意したのだった。


[Zusammenfassung]

公式に本作のジャンルは「女性向け恋愛ADV」となる。主人公・愛称『リリィ』には、5名の攻略対象と、5つの波乱に満ちた結末が用意されている。

「波乱に満ちた」というのも、プレイ開始からほどなく、リリィは本作の舞台ブルローネ・ひいては現実のキリスト教圏を意識した『教国』にとっての重要人物であることが発覚する。『鍵の乙女』と呼ばれる自らも知らず育った特異な出自。それは教国の威を纏う代物だった。如何ともしがたい運命をその身に秘して、リリアーナは当人の自覚と意思を置き去りに、5つの波乱万丈な恋愛と人生を左右する選択を迫られる。

彼女の運命に名乗りをあげるのは以下5名のイケメンである。

ブルローネに由緒あるマフィアとして、リリアーナを影ながら守護する立場にある『ダンテ・ファルツォーネ』。
彼とファルツォーネファミリーを裏から支える日陰のアンダーボス『二コラ・フランチェスカ』。
かつてファルツォーネから分派し勢力を拡大する新興ヴィスコンティ一家の大黒柱『ギルバート・レッドフォード』。
両家に対し自由・横暴・猟奇に振る舞う荒くれ共・老鼠(ラオシュー)を統率する首領『楊』。
教国の使徒としていずれの勢力にも与さず暗躍する若き戦闘の天才『オルロック』。

パッケージに倣い、ダンテと歩む道をリリィの正道としても、いずれのルートも過酷を極める。マフィアなので。他ルートは言わずもがな。あっちのルートではむこうの攻略対象が仏になることもざら。それが『ピオフィオーレの晩鐘』というゲームであり、ブルローネというマフィアの巣窟にあって、鍵の乙女として自身の存在そのものが利他に富むリリアーナ・アドルナートの歩む道なのだ。

だが、幸か不幸か我アーナ・アドルナートの目の前には、一本のレールが敷かれている。妻の推しキャラ。私がプレイするに限ってはリリィが恋に落ちるべき相手は決まっているに等しい。すまぬイケメンたち。プロローグもそこそこに、妻から若干の手ほどきを受けつつ私が向かったのは、敬虔なる青年傭兵・オルロックが待つ薄暗い路地裏であった……。

※ 次回以降、オルロックルートに過剰に偏重した感想となるのでご注意ください。

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