人事が勧めるギャルゲー(Ciel『After…』プレイ日記その4)

 わたくし、勤め人である。いわゆる総務で採用担当などしている。先日無事に22卒の募集が充足し採用選考が終了した。

 立場的には学生とエラい人の板挟みである。

 会社って意外とまじめで、世間に言う以上に学歴も、資格も、文字の綺麗さも全部重視して選抜している。反面、結局は人柄というのも風説のとおりである。「人は見た目が9割」。恐ろしい言葉だがそのとおり。見た目が良くて愛想が良いととどんな経歴も輝いて見える。それだけの話だと思う。人を雇うとき、会社はまじめに盲目で愚かなのだ。

 就職活動で大切なのは、これまでの自分といまの自分を魅力的に見せるための立ち居振る舞いと、それを自覚して「できている」さまを見せつける(自信を持って応対する)ことであり、背伸びしたり萎縮しないことだと思う。一般常識の学習をしたり、自己PRの内容を煮詰めるのは、そのための手段に過ぎないはずだ。

 就活生には、しっかりと自分を見つめて、本番にはすとんと落ち着いてやりたい仕事につけるよう頑張ってほしい。気負うことはない。どんな仕事でも納得してつくことができれば、野心を持って働く自分と、仕事のあとのギャルゲーを楽しみにする自分はきっと両立できる。以上が導入である。さあ実妹だ。


実妹ヒロインこじらせ日記

 こちらは株式会社スペースプロジェクトのゲームブランドCielより2003年発売のPCアダルトゲーム『After…』について語るものである。これまでにも実妹ぎゃんかわヒロイン「高鷲渚」についてあれこれ語っている。要約すると「気軽にギャルゲーやったらうっかり実妹設定というひときわ厄介な沼にあわれひとりで勝手に沈んで行く亡者の日記」である。

 今回もまたはりきってこじらせていこう。


いにしえの実妹ヒロインゲー『After…』

 登山狂の主人公を擁するノベルゲー寄りのPCアダルトゲーム『After…』。本作にはいくつかのルート・ストーリーが存在し、そのうちのひとつが主人公「高鷲祐一」とその妹「渚」、実の兄妹の物語だ。

 高鷲兄妹は、海外赴任で両親不在の一軒家に二人暮らし。二人は、共通の幼馴染である本作のメインヒロイン「汐宮香奈美」や、祐一の主催するワンダーフォーゲル部の面々との交流をきっかけに、祐一が高校三年、渚が高校一年の夏を境に急激に距離を縮めて行く。実の兄妹という絶対に結ばれない間柄と、実の兄妹だからこそ芽生えた複雑な愛情。『After…』が描く二人の約束された鬱ゲーっぷりは私の心を貫いた。やっているときはこの渚って子かわええなくらいでやってるもんだから余計に傷は深かった。

 夏から春。結ばれない運命の二人は、季節を共に過ごし、結ばれないままに「ずっと一緒にいる」ことを誓い合うという切なくも尊いおはなしとなっているのだが、『After…』という作品の真価はその後にある。兄の祐一は悲願だった飛騨山脈穂高連峰の冬山下山時に事故死。テンポよく友人の身体に憑依。憑依した友人の身体で渚と結ばれるという寝取りなんだか寝取られなんだかなんだかよくわからないグッドエンディングを迎えるのだった。

 

 実の兄妹の尊さ

 今般、かような展開を迎えた本作の二周目に着手。

 さすがに問題のくだりの手前で手が止まる。直前まで丹念にスクショを撮りながら(約1,000枚を数えた)二人に伴走する私だったが、一歩を踏み出す勇気が出なかった。

 でもやっぱり渚は可愛いし兄妹は尊い。

 夏から始まるストーリーでは、序盤に、海水浴、夏祭り、文化祭などありふれたイベントが描かれている。幼いころの父との思い出話を交わす夏祭り。これまで知らなかった写真部の渚を知る文化祭。他の誰も知らない互いを知っていたり、同じ学校に通いながら学年の違う妹を自然に気にかける兄と、そのことを素直に喜ぶ妹。

 二人はそのほかクリスマスなどのイベントを通じて、実の兄妹であることを自覚しながらも、互いを異性として強く意識するようになってゆく。二人の何気ない日常は見ていてちょっぴり痛ましくも微笑ましい、普通より少し仲の良い兄妹の姿だった。

 季節は冬。初詣という希望の日に悲劇が待っていた。

 参道の脇道、薄暗い林に連れ込まれる渚。二人の暴漢の魔の手が迫る。束の間、足をすくませながらも渚を守るためはじけるように飛び出した祐一は、泥臭く身を挺し辛くも渚の身は守る。しかし渚の心には深い傷が残った。お兄ちゃんにすがりついて泣く妹を前に、弱い自分を悔いる祐一。「俺は……渚を守ってやれなかった。それじゃダメなんだ。俺が守ってやらないと……」


決意といえば聞こえはいい

 渚に忍び寄る魔の手は、兄に妹を守る決意を、妹に兄に守られる決意をさせた。

 だが、妹を守らければという祐一のモノローグには、「これからそうする」ことを誓うことで、現場に居合わせた情けない自分を払拭したいという願望と、自らの妹への愛情を正当化する本心が見え隠れする。一方の渚は、この事件を境にお兄ちゃんっ子に拍車をかける、というか兄とその周囲に対していい子にしていたのを止め祐一に対して「ずっと一緒にいてね」という本音を隠さなくなる。

 先の事件は、実の兄妹という壁にぶつかる二人の「背中を押した」ように描かれている。だがそうではない。むしろ、実の兄妹という薄氷のうえに立っていた二人の関係を、足元から崩壊させたと言ったほうが正しい。この二人はもう二度と、ふつうの、仲の良かった兄妹には戻れないのである。

 さて、先に私はこの『After…』というゲームのことを、祐一が亡くなる直前までは、実の兄妹の切なくも尊い物語だと紹介し、ここまでの高鷲兄妹の物語を愛でるがゆえに、その後のエピソードに二の足を踏むと言った。

 だが違った。渚レイプ未遂。ここが決定的なこの二人の関係性の分水嶺だった。そこから先に足を踏み入れた時点で、高鷲兄妹も、この事件以後せめて兄が死ぬまでは幸せないっぱいの二人だと想っていた私も、すでに自覚なく棺桶に片足を突っ込んでいたのである。高鷲兄妹の物語に限ってみればこの『After…』というゲームは二段構えの落とし穴が存在した。とんでもないエンディングに目がくらんでいた私に二度目の死刑宣告が下ったのだった。合掌。


おわり

 愕然とした。この事実、いまこうして書いていて気がついた。もともと今回はファンディスクの『Secret Episode 2「おにいちゃんといっしょ♥」』の感想を書くつもりだったのだがいまはもうそのような気分ではない。

 ところで主人公である祐一の視点を基本としてストーリーが展開する本作。そこから見た問題の事件の意味合いはこれまでに思いを馳せたとおりであるが渚にとってはどうだったのだろうか。これからもこじらせていきたい。

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