見出し画像

西宮中学校と周辺区立施設の施設マネジメント計画

今年度から杉並区では、新しい総合計画・実行計画に基づき、これまでの施設再編整備計画について見直し改定を行なった施設マネジメント計画に沿って、各地域の区立施設についてワークショップ形式で対話の場を持つことになりました。

その最初の一歩となるワークショップが、

・西宮中学校と周辺区立施設
・浜田山駅周辺の区立施設
・上荻会議室跡地と周辺区立施設

の3ヶ所でスタート。
9月までに行う全5回の予定のうち、今週末に2回目が各地域で行われています。

施設再編整備計画では、住民からの意見や各施設が果たしていた機能について十分な議論がないまま、コストや延べ床面積の削減などを理由に次々と施設が統廃合されてきました。

私はこうした施設再編に深い疑問を抱いていた住民の1人であり、「施設の中で活動したり寛いだりする人の営みを置き去りにして、コストと建物ベースの議論がされている」とずっと感じてきました。

だからこそ、行政組織を改変して施設マネジメント担当課を2つ置いて人員配置した杉並区が、今回からの新しい取り組みをどのように進めていくのか、そして地域の中で施設を実際に利用している人からの意見をどのように反映させていくのかには、大変注目しています。

各地域とも、保育園、ゆうゆう館(高齢者福祉)、児童館(児童福祉)、ケア24(地域福祉連携)、図書館、さざんかステップアップ教室(個別最適を目指す学習の場)など、様々な施設が点在しているため、老朽化してきたところをそのまま建て替えるのが良いか、一つの建物にいくつか機能を持たせて複合化するのか、仮校舎などを建てる用地はあるのか、など課題を出し合い、意見を交わします。

今その地域に住む人と行政とが情報共有をしながら、これから先も末長くみんなが利用できる施設にしていくためにどうしたらいいかを一緒に話し合う、大事な機会です。

ここでは、地元久我山と宮前の地域にある計画について、少し詳しく書いてみようと思います。

宮前地域の課題

 この地域では、
・西宮中学校
・宮前図書館
・さざんかステップアップ教室宮前
・大宮前保育園
・ゆうゆう大宮前館
・(宮前児童館)

という多くの区立施設で、老朽化のため建て替えの時期が近付いています。全て徒歩圏内に位置しているため、建て替えの際にはそれぞれ別々に考えるだけでなく、複合化を考えても良いのではないか、というところが出発点にあります。

私はそれぞれがとても大事な施設なのでそれぞれ建て替えれば良いのではとも思いますが、複合化によって新たな価値が創造できるなら、それはそれで面白いかもしれないな、とも思っています。

西宮中学校と宮前図書館の話

 ワークショップの会場となっている高井戸第二小学校(高ニ小)も、課題の施設ととても近い位置にあり、第1回目はここからみんなで歩いて各施設の見学をしました。

 高ニ小は2014年に校舎の建て替えが完了しており、この地域で「一抜けたっ♪」という形。ここの建て替えの際に、宮前児童館の中にあった学童クラブでは足りないということで、学童クラブが校舎に併設されることになりました。
 なぜ高ニ小の話を最初にしたかというと、本日行われたワークショップの中で、児童館を利用している子の保護者から、「複合化が必要なんだったら、高ニと複合化すればよかったんじゃない?って話、懇談会でも出てたよね。」という意見があったからです。高井戸第二小学校の土地は区立学校の中でもかなり広く、西宮中学校と比べても1500㎡ほど広い敷地面積があります。

https://www.city.suginami.tokyo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/026/892/gakkousisetuseibikeikaku.pdf

 そんな中、2022〜2023年に行われた西宮中学校の改築検討懇談会の中で、西宮中学校の中に宮前図書館を入れ込む、という計画を区が示しました。当然、地域の方々からは猛反発を受けました。

体格の大きな中学生が小さい校庭を使うなんて可哀想、という情緒的な話ではなく、トラックで直線距離が取れずカーブが長くなることで怪我に繋がったりと、実質的なリスクが大きいのが現状です。

 中学校だけでもいっぱいいっぱいなのに図書館を入れ込むなんて考えられない、というのが、学校支援本部や保護者からも多く出た意見でした。そもそも複合化をしなくても、多目的室の設置など部屋数を増やす予定があり、校庭の面積を今と同等程度確保するのですら至難の業。
 また、複合化によって蔵書が減ったり、図書館としての機能が弱められることにも懸念の声がありました。

 私自身は地域の方から、「図書館は静かな環境であってほしい。中学生の大きな声が聞こえるのでは困るし、かと言って中学生の活動を制限してもらいたいとも思わないから、一緒にしないでほしい」といった、図書館ユーザー側の声も聞きました。

 宮前図書館の中には比較的大きな読書室(学習室)があり、学生や社会人が静かに勉強を進めることができます。中高生の居場所がほぼない宮前地域にとって、おしゃべりができないのは難点ですが、別の学校に通う友達とも会えるこの読書室は、貴重な場です。

 一年をかけた懇談会の結果、「複合化は難しそうなので、やり直しましょう」という結論に至りました。
 その後、区として他の施設の改築を検討する必要性も踏まえ、改めて住民と一緒に考え直す機会として設けられたのが、今回のワークショップです。(と、前向きに捉えておくことにします。)

ゆうゆう館の話

 杉並区は現在「高齢者向けの専用施設よりも、多世代交流の場に対するニーズがある」という認識の元、ゆうゆう館を全廃する方向で計画が策定されています。

 ゆうゆう館はかつて、健康寿命を伸ばしていく目的で『敬老会館』としてつくられた、高齢者福祉の場です。今はありませんが入浴設備も整えられていた時期もありました。日常的に高齢者が集い、活動し、体や心を休め、出自や経済事情に関係なく、同じ時代を生きてきた人との交流の中で生活をつくっていくことができる場です。
 グループを作って行う自主団体の活動、歌や体操、語学などのプログラムへの参加、和室でテレビを見たり、マッサージ機に座ったりと、一人暮らしの高齢者が増えてくる中で、地域で共に生きるために非常に大切な役割を果たしています。
 また、保育園や児童館と併設することで、人生の異なる段階にある人同士がお互いの普段の生活を大切にしながら、機会をつくって様々な文化的交流を行ってきた、かつての杉並区の哲学が伺える場でもあります。

https://www.city.suginami.tokyo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/013/639/arikatahoukoku.pdf

 今回、宮前地域の施設を考える中でも、ゆうゆう大宮前館は廃止される方向で検討が進んでいました。しかし、日常的にゆうゆう館を利用している方々からは、当然不安の声が上がっています。

 「私は毎日通っていて皆勤賞なの。生きがいなのよ。ここがなくなったら、ボケちゃう。」と冗談混じりに、しかし切実な思いとして話してくれる方は、1人ではありません。

さざんかステップアップ教室はどうなるのか

 学校へ行きたくない、学校へは行く気がない、先生に会うのが嫌、友達が怖い、勉強は好きだけど学校じゃなくてもできる。
 様々な思いがある中で、一年のうち3ヶ月以上学校を休むと「不登校」と呼ばれる子どもたち。そんな中でも、保護者や教育相談係の人たちと話し合って、規模の小さい施設でなら、やさしい人たちがいるなら、と家から出て活動していける場として、さざんかステップアップ教室はあります。

 今は宮前図書館と併設されており、傍の通路では学習の一環としてプランターでトマトの栽培なども行っていて、安心して過ごせる場になっている、という印象です。

 図書館を中学校の中に、という話では「じゃあさざんかはどうなるのか」という議論がもちろんありました。
 学校に行きたくない人が行く場所を、図書館と一緒に学校の中につくる、ということはあり得ませんよね。だからそうなった場合はどこか別に建て替える必要があります。
 図書館を現地建替にした場合、3〜5年もかかるような建て替え期間に行く場所がなくなる子どもたちはどうするのか、という問題もあります。

 今通っている子どもたちからきちんと意見を聞く、ということをどれだけできるのかも課題です。

保育園と児童館

 大宮前保育園は、ゆうゆう大宮前館と同じ建物の1階にあります。園庭には果樹や桜の木があり、隣の公園にも桜があり、2階にあるゆうゆう館ではお花見も楽しめるという、文化的に豊かなコラボレーションが叶った施設だったりもします。
 敷地面積は約1057㎡で、西宮中学校の1/10くらいの大きさです。住宅街の中にあり、園庭は南側ですが、そこまで直射日光が当たるような構造ではありません。
 保育施設整備の基準が変わり、改築の際には床面積を拡げる必要があるため、その意味でもゆうゆう館との併設が難しい、という課題があります。

 宮前児童館は西宮中学校のすぐ横にあり、こちらも小さな園庭を持っている施設です。子どもたちは自分の意思で自由に出入りして遊んでいます。最近トイレの改修工事が行われていました。
 児童館は0〜18歳の児童が自分の意思で自由に居られる場所ではありますが、午前中は特に、乳幼児親子が遊びに来ることも多くあります。
 放課後や休日、特に雨の日は室内で体を動かせる場所を求めて小学生たちが集まります。中高生が勉強をしたりボールで遊んだりするには少し難がある、規模の小さい施設です。

 今年度杉並区では「子どもの居場所づくり基本方針」を策定する予定で、今回このワークショップの課題に宮前児童館が微妙に外されているのは、方針ができてから考えた方がいい、という区の考えがあるからです。
 児童福祉法に則った児童福祉施設としての位置付けがあるので、これからつくる基本方針もそこから外れるはずはなく、私としては他に理由があるのではないかと勘繰ってしまいますが、とにかく、区はそのように説明しています。

 保育園や児童館は、子どもたちが1人の人間としての歩みを自分の意志で始めていく、その育ちの始まりを支える場です。職員、保護者、そして地域の人が結びつき、子どもの姿を真ん中に大人たちが話し合い協力し合って育ちを見守っていく、そういう拠点としてある場です。

ワークショップの行方

 さて、今回のワークショップは全5回が予定されており、そのうちの2回が終わりました。

1回目で見えた課題

 1回目は各施設について知ろう!ということで、実際に歩いて見て回りました。
 高齢者の歩くスピードについて、区の若い職員たちはどう感じたのかな、というところが気になります。

 移動をする中で、かなり距離が空いたところで職員が振り返って待つ、という場面が何度もありました。周辺のゆうゆう館をなくして、多世代交流施設であるコミュニティふらっとに集約します、ということをこれまで悪気なく計画してきた杉並区ですが、実際に一緒に歩いたことで、高齢者の足で"徒歩圏内"というのがどういうものかを、実感できたのではないかなと思っています。

 "徒歩圏内"であるからこそ、地域の中で繋がり助け合える関係になれるのであって、これが少し離れたところにあってバスで通うようなことになれば、せっかく出会っても日常的には交流できない相手になってしまいます。
 「お互いに生存確認してんのよ」と笑いながら家を訪ね合い、お裾分けをしたり、世間話をしながら体調を気遣ったり、という関係性を育めることが、小規模でも地域に点在している公共施設の利点です。

 1回目のグループワークは、まだワークショップの主旨やお互いの論調がはっきりしていない中、発言を抑制している人が多くいました。

2回目で表面化した疑念

 2回目は、西宮中学校、宮前図書館、さざんかステップアップ教室宮前について、改築をしていくにあたっての課題が上げられました。区が説明したことに対して、良い点や疑問を共有して話し合いましょう、というグループワークだったのですが、その前に全体での質問の場面で、こんな話が出ました。

 「西宮中の改築検討懇談会では、図書館との複合化はなくなったはずだ。しかし今の話を聞いていると、また振り出しに戻って、図書館との複合化も視野に入れて、他の施設のことも一緒に考えようということになっているように聞こえる。私たちが懇談会で話し合った結果はどうなっているのか。そしてこのワークショップで話し合われることはどう反映されるのか。一年かけてやった懇談会は過去のことだから、また新しくゼロから話そう、というのはおかしいのではないか。」

 グループは全部で7つありますが、グループワークが始まってからも、3つのグループではほとんどの時間を使って、西宮中学校の話をしていました。懇談会に参加していた学校関係者や自治会の方々は、やはり自分たちが一年かけて話し合ったことがどうなっているのかの説明が曖昧なまま進んでいくことには納得がいきません。「保育園とゆうゆう館の話をプラスして話していく中で、これまでの議論が有耶無耶にされてしまうのではないか」という不安の声も上がっていました。

3回目をどうつくるのか

 区の説明によると、3回目のワークショップでは保育園とゆうゆう館の課題を共有してそれについてグループワークを行い、4回目で区から施設整備のイメージを複数案出して、それを見ながら意見を出し合うことをしたい、とのことです。

 2回目でこのような疑念を持たれている中、4回目のワークショップで区からイメージを提案される際に、3回目までの住民意見がどの程度反映されているのかが大きな転換点となります。
 もしくは3回目の動向によっては、4回目で「区から提案する」ということ自体を見直す必要が出てくるかもしれません。

 また、当の中学生たちからどんな意見が出ているのかが、まだ示されていません。いつ意見を聞き、それをどう活かすのかも注目です。

 地域の中で地域のために様々な活動をしてきている人、自分の生活実感をきちんと区政が把握して活かしてほしいと思って参加している人など、それぞれがそれぞれの立場でものを考えて意見を出し合い、聴き合い、みんなでより良いものを生み出そうとする空気を、行政がどれだけ掴み取れるかが試されている、今回のワークショップはそんな場だと、私は感じています。

みんなでつくる

 このワークショップに今から参加することはできませんが、4回目と5回目の間(7月中旬〜8月中旬)に、周辺住民への意見聴取と地域意見交換会を開催する予定だそうです。

 そして9月以降に区が計画(案)に記載する取り組み案を決め、計画(案)には全ての区民がパブリックコメントを通して意見が出せます。

 一つの地域だけをとっても、考えることは膨大です。今のことだけではなく先のことまで考えるためには、これまで積まれてきた歴史を知ることが必要です。
 「同じ過ちを犯さないようにしながらより良いものを作っていく」というその心意気を住民と行政とが共有しながら協働できる、そんな自治の取り組みが杉並のあちこちで起こって、杉並区全体がより息のしやすいしなやかなまちになっていくといいなと、私は思っています。

 杉並の課題はまだまだたくさんあるので、少しずつ書いていくようにしますね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?