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ロボット技術とアシストスーツ

パワーアシストスーツ(PAS)といえば、モーターや空気圧でガシガシと筋力をサポートして、筋力のない女性や老人でも100kgもあるような重たいものでも軽々と持ち上げたり、長時間、山道を歩くことができるような、人の能力を高め、増力化することを想像する人が多いようです。

「できないことをできるようにする」

本来の自分の能力では叶わない動作を実現することは、夢があって誰でも憧れますね。持てないものが持てたり、何時間も山道を歩いたり、病気や怪我で車椅子に頼らないとならない人を自分の足で立たせたり、歩かせたりできたらとても喜ばれ、生活の質を向上させることができます。
パワーアシストスーツには、人の能力を拡張し、「できないことをできるようにする」ことで、人の可能性を大きく広げることが期待されています。

このような「できないことをできるようにする」技術には大きな動力(パワー)が必要になります。動力は電力で動かすモータだったり、空気圧だったりします。このような動力はコンピュータなどで適切に制御されなければ、思うように動かせなかったり、勝手に動いたりして危険です。
適切に制御するためには、センサによって計測する必要があります。

動力(アクチュエータ)、制御(コントローラ)、計測(センサ)を持つものが「ロボット」と定義されるので、動力を持ったパワーアシストスーツはロボットである。といえるでしょう。

「介護ロボット」という名称が一般化しつつありますが、ロボットと言うからには、「センサ」、「コントローラ」、「アクチュエータ」を実装しているというのが一般的な考え方です。

実は、スマートスーツも開発当初はロボットでした。

腰の屈曲を曲げセンサやジャイロなどで計測し、背筋を補助するために背中に配置した弾性体(ゴム)の先端についたワイヤを電動ウィンチ巻き取ったり、繰り出したりしてゴムの硬さ(張力)を適切に制御していたのです。

腰の屈曲角から、その時の姿勢や動作を求め、その時に必要な張力になるようにゴムの硬さを調整していたのです。一般的にゴムは引っ張れば引っ張るほど、縮もうとする力が強くなります。ゴムを伸ばすにはそれだけの力が必要です。それをモータを組み合わせることで適切に制御することに成功しました。

この技術で当社は特許を取得しています。

しかし、今、販売しているスマートスーツは動力などは実装しておらず、ゴムだけでアシストしています。わざわざ、モータを外して、自ら「ロボット」と称することをやめました。

なぜ、ロボット要素であるモータやセンサをはずしたのか?

ユーザ目線で考えれば、スマートスーツ導入の目的は、”作業による腰への負担の軽減”、軽労化です。これが達成できればモータがあろうがなかろうが、ロボットであろうがなかろうが関係ありません。
しかも安くて、着用しやすく、洗濯などのメンテナンスも楽な方が良いのです。

一般的にロボット要素を実装する場合、大きなパワーを発生させることが期待されます。そうなると、そのパワーを受けとめる骨組みもしっかりしていなくてはなりません。

例えば、子供の三輪車に車のエンジンを乗せたら、三輪車はあっという間に壊れてしまいますよね。大きなパワーを受ける頑丈な骨組みが必要になるのです。発生したパワーを動作の補助(アシスト)に使う場合、その反力をどこかで受けなければならないからです。

大きなパワーを発生させる「できないことをできるようにする」パワーアシストスーツは、だいたい身体の外に頑丈なフレームを持っています。これを外骨格型といいます。もし、モーターなどが発生する大きなパワーを自分の身体で受けたら脱臼したり、骨折したりしますからね。

一方で、スマートスーツは「できることを楽にする」ことを目的にしています。「できること」、すなわち自分の持っている力の範囲内で、目的の作業や動作をするときに、少しだけ助けて(アシストして)あげようとする技術ですから、必要とするパワーはわずかで自分の身体(骨格)で受けても骨折や脱臼をすることはありません。これを内骨格型と言います。

スマートスーツは「軽労化」を目的としていますから、必要以上に大きな力は必要ないのです。むしろ、自分の筋力を使うことでトレーニングになり、体力の維持・増進に繋げようとしているのです。

技術を中心に考えるのではなく、使う人、ユーザを中心に考えること。すなわち「ヒューマンセントリック」こそ、我々の理念なのです。