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【脱炭素経営の前線から 9】「大阪ガス開発ゼロエネルギー冷却新素材を世界へ」SPACECOOL(株) アライアンス本部 中川翼氏

大阪ガスが独自技術により開発したゼロエネルギーで冷却ができる新素材SPACECOOLスペースクールが、本格的な事業展開へと動き出し、注目を集めています。大阪ガスとベンチャーキャピタルWiLのジョイントベンチャーとして設立されたSPACECOOL株式会社のアライアンス本部 中川氏に、新素材開発と新会社設立までの経緯、最新のパートナー企業様との協業事例をお話しいただきました。

インタビュー形式

・プロフィール 2017年大阪ガス株式会社入社。3年間法人営業を務めた後、2020年4月よりイノベーション推進部ビジネスインキュベーションチームにて、全社の新規事業創造プログラム「TORCH」の企画・運営に携わるなど、新規事業創出を推進。2021年8月よりSPACECOOL株式会社に兼務出向し、アライアンス本部にてパートナー企業様との協業を推進。    


■大阪ガス技術研究所で長期に研究

―ゼロエネルギーで冷え続ける新素材「SPACECOOL」が、いよいよ3月の脱炭素経営EXPOに出展されることになりました。まずは事業会社であるSPACECOOL株式会社が昨年4月に立ち上げられた経緯を含めて、中川さんのプロフィールをお聞かせいただけますか。

中川:私は2017年に大阪ガスに入社しました。大阪ガスではスタートアップ投資や、新規事業を作っていくイノベーション活動に積極的に取り組んでおります。その担当部署であるイノベーション推進部に2020年に異動となり、その後、SPACECOOL株式会社の立ち上げにともない2021年8月より現職となりました。アライアンス本部ではパートナー企業様との協業の推進に努めております。

―SPACECOOLは大阪ガスのエネルギー技術研究所でずっと研究開発をしていた技術ですね。それをベンチャーキャピタルのWiLとともにSPACECOOL株式会社を立ち上げて別事業にした経緯は?

中川:大阪ガスの単独事業でやるというのがセオリーだったのですが、今回のSPACECOOLは新しい素材で新市場を切り開くものでしたので、ベンチャーライクによりスピード感を持って事業化することを目指しました。
実はSPACECOOLの基となる研究自体は、かなり前から始まっておりました。我々はガス会社ですので、燃焼や熱利用などの研究をしておりますが、2013年頃から工業炉などの輻射熱(赤外線)を使った発電技術の研究を開始しておりました。その中で、この熱輻射の制御する技術は放射冷却、つまりは夏場の熱射対策の素材開発にも応用できると当社の末光(テクニカル本部長)が大阪ガスの研究員時代に考えました。2014年にスタンフォード大学から放射冷却に関する論文が出たことも後押しとなって、2017年から大阪ガスでは本格的に放射冷却素材の開発に取り組むこととなりました。
その研究成果が新素材SPACECOOLです。2021年4月よりSPACECOOL株式会社による事業が開始されました。

―御社のリリースを拝見するとSPACE COOLは「世界最高レベルの冷却性能を誇る放射冷却素材」とあります。

中川:直射日光下でも、宇宙に熱を逃がすこと(放射冷却)で、エネルギーを使わずに外気温よりも温度を低下することが可能です。大阪ガスで行った2020年夏の実証実験においては、直射日光が当たった状態で本素材の表面温度が外気温より最大約6℃低くなったことを確認しております。
さまざまな使用方法が考えられますが、まずはフィルムと帆布の2種類の製品を開発し、これらを有償サンプルという形式で限定的に企業様に販売させていただいております。

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■パートナー企業様と共に、さまざまな展開をスタート

―どのような導入例がありますか?

中川:一例を紹介しますと運送トラックのコンテナへの利用ですね。トラックは屋外かつ直射日光があたるなど非常に暑熱環境が悪く、作業員様の熱中症問題の解決や冷凍冷蔵品を冷やすエネルギーの削減などが求められています。そこで実際に走行する車両にSPACECOOLのフィルムを貼り、効果をお試しいただいているところです。エネルギー不要の素材ですから、脱炭素への貢献にもつながります。鴻池運輸株式会社様やSBSホールディングス株式会社様など、複数のお客さまで導入いただいているところです。
また、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会様と大阪商工会議所様が公募されている夢洲における実証実験にも採択いただき、さまざまな形でSPACECOOLの効果を検証しています。例えば株式会社竹中工務店様やセイリツ工業株式会社様にご協力をいただき屋外の分電盤にSPACECOOLを貼っています。屋外の分電盤は直射日光による熱で、内部のインバータなどの電気設備が故障や劣化してしまう問題がありますが、これまでは対策がとりにくく、効果的な方法は見つかっていませんでした。SPACECOOLは従来の方法よりも冷却効果を発揮するとともにコストも抑えられるメリットがあります。分電盤の他にもメガソーラーのパワコンと言った分野にも広くアピールし、再生可能エネルギーの高効率利用にも貢献したいと考えております。
現在、さらなる展開を視野にさまざまな会社様とお話を進めさせていただいております。


■脱炭素経営EXPOでの出会いを期待

―今回、SPACECOOL社の脱炭素経営EXPO出展を決めた理由には、脱炭素経営を目指している企業様とのお話やご商談の機会への期待が大きいのでしょうか?

中川:そうですね。SPACECOOLは脱炭素に貢献できると考えております。ですので、今回の出展目的の一つ目としては、SPACECOOLという素材を知っていただいた上で、皆様が課題とされている脱炭素に貢献できるということを打ち出すことです。
そして二つ目の目的は、脱炭素を経営課題と捉えている経営者の方々や設備責任者の方々など、実際に課題を抱えていらっしゃる方々が集まる場所と聞いておりますので、ご来場された皆様とディスカッションさせていただくことです。我々はSPACECOOLという素材を開発しましたが、どのような活用方法が一番お客様にとって良いかは、「こんな用途もあるのでは」といった現場のお客様の声を聞くことが一番大切だと思っております。一緒に導入をご検討いただけるパートナー様との出会いの場とさせていただきたいと考えております。

―それは私たち展示会主催者としても、非常にありがたいお話です。展示会本来の使っていただきたい形態であると感じます。

中川:展示会で素材を実際に触っていただき、我々がイメージしている世界観をダイレクトに伝え、ディスカッションできることはリアルの展示会ならではと感じていますし、期待しています。
オンラインでの商談が増えてきている中で、原理は分かっても素材そのもののイメージを持ちにくい状況も多いと感じていました。実証試験を行っている研究所は大阪にあるため、他エリアの方には体感いただく機会を作ることも難しかったのです。今回の脱炭素EXPOでは素材の体感ができ、伝えたいことをダイレクトに伝えられるブース設計にしたいと思っております。
我々SPACECOOL株式会社は、「世界に木陰の涼しさを」をビジョンとしてかかげています。SPACECOOLは空調などに比べると、大幅に涼しい、冷たいというものではありません。しかし、公園の木陰のように外気温よりもちょっと涼しい環境を、エネルギーを全く使わずにお届けできることが大きな価値と考えています。脱炭素やエネルギー枯渇問題といった課題の解決案として、日本のみならず世界で活用の幅がある素材であると思っております。

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●SPACECOOL様、取材にご協力いただき、ありがとうございました。

https://www.spacecool.jp/

<お知らせ>
脱炭素経営EXPO[春]
 2022年3月16日(水)~18日(金)
場所:東京ビッグサイト 2022年初の脱炭素経営EXPOとなります。ご注目を!

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