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【脱炭素経営の前線から 7】 「戦略成功にむけた3ステップとは」 ボストン コンサルティング グループ(BCG) プリンシパル 日山 史巳氏

カーボンニュートラルの実現が企業存続にかかわる課題となった今、経営コンサルティングファームによる専門的なクライアント支援に期待が高まっています。今回はボストン コンサルティング グループ(BCG)日山氏に、脱炭素経営で欠かせない3つのステップや日本企業の対応の現状についてお聞きしました。日山氏には11月[関西]脱炭素経営EXPOでセミナーにご登壇いただく予定です。

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●プロフィール  BCGグローバルアドバンテッジグループ、オペレーショングループ、パブリックセクターグループ、TMT (テクノロジー、メディア、テレコム)グループのコアメンバー。BCG大阪オフィス創業メンバーの1人。IMD MBA修了。総合商社やアパレル企業での勤務、インドネシアのスタートアップ企業の経営などを経てBCGに入社。BCGヨハネスブルク・オフィスで勤務した経験もある。交通インフラ企業、資源開発会社、ハイテク製造業、情報通信サービス等の幅広い分野に対し新規事業戦略や立上げ支援、トランスフォーメーション、組織・業務改革等プロジェクトを10か国以上で経験。


■気候変動トピックが、経営の根幹となる時代へ


―ボストン コンサルティング グループ(以下BCG)は、本年11月に英国で開催される「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)」のコンサルタンシー・パートナーに就任されています。本日は、ぜひ脱炭素経営への知見をお聞かせください。

日山:はい、プリンシパルとしてBCG大阪オフィスに所属しております日山と申します。私たちの仕事では専門領域をいくつか持つことが多く、私の場合も4つの専門グループに所属しております。そのひとつ「パブリックセクターグループ」が、今回の「脱炭素経営」に関するプロジェクトを主に担当しているセクターです。
BCG東京オフィスや南アフリカのヨハネスブルク・オフィスでの勤務を経て、昨年7月の大阪と京都2つのオフィス同時開設にともない、関西創業メンバーとして活動しています。私はもともと大阪出身でございまして、生まれ育った街の産業や社会発展の一助になれればと新オフィスメンバーと一丸となって頑張っております。直近では交通インフラやハイテク製造業系、情報通信サービスのお客様を中心に、カーボンニュートラルに関するご支援や、また関西を中心に講演などをさせていただくことが多いです。

―BCGには、世界中の企業から日々多数の相談が寄せられていると思いますが、現在の御社HPトップに掲載されているのは気候変動に関するトピックですね。やはり世界的にみても気候変動に関するご相談は増えていますか?

日山:実際のところ、相談やお問い合わせは相当に増えています。BCGグローバルでは、COP26とのパートナーシップ締結に伴い、従来の組織を拡充した「気候変動・サステナビリティセンター」を立ち上げ、全世界でこの分野の取り組みを加速させています。日本において契機となったのは昨年10月の菅前総理による「カーボンニュートラル宣言」。特に関西地域では「脱炭素が(大阪)万博の大きなテーマのひとつとなる」ということが年末に決まったタイミングですね。これをきっかけに、お客様のご相談内容が、それまで多かった「カーボンニュートラルを理解するのを助けてほしい」からさらに一歩進み、「具体的に我々の会社は、何をしていけばいいのか」というビジネスや具体的なオペレーションの中身に入り込むものが増えました。

―「菅前総理の宣言で、一気に流れが変わった実感がある」とは、この連載取材内でも繰り返しでてくる言葉です。立場が違う方々ですが、同じ実感をお持ちのようです。

日山:それまではカーボンニュートラルはどちらかといえばCSRの一端として捉えられていました。それが、これはまさに企業の成長戦略であって、経営の根幹の問題であるという認識に変わり始めているのが、多くの日本企業の現在の状況だと思います。比較すると欧米企業はかなり早くから動いておりまして、さらに欧米のなかでも特にヨーロッパは進んでいます。すでに消費財メーカーなどではいち早く競争優位に立とうという動きがみられます。


■セミナーでは「3ステップの取り組み」を詳しく


―11月[関西]脱炭素経営EXPOでは、日山さんの特別講演「企業において、カーボンニュートラルにどう対峙していくべきか」が開催されます。その内容についてお聞かせください。

日山:カーボンニュートラルに対峙する企業にとって、経営上の取り組みをどうスタートするかは大きな問題です。BCGでは、カーボンニュートラルに関する経営の取り組みには3つのステップがあると考えており、今回の講演でご紹介させていただく予定です。本日は、各ステップのいくつかのポイントを簡単にお話させてください。
まずステップ1は、「前提条件を整える」ことです。具体的には、まず初めに、経営層から従業員まで一体となって危機感や取り組みの必要性を認識できる状態を創る必要があります。小売業であれば、店舗の従業員まで、製造業であれば工場で生産に従事する方々までが、「この取り組みを今すぐに実施することが必要」と理解し、腹落ちするレベルまで意識を醸成する。これは非常に大事です。加えて、ステップ1達成のためにやるべき項目は全体では4つほどあるのですが、中でも重要な項目をあげると、「自社のCO2排出の実態をしっかりと把握する」ことに尽きます。自社のみならずバリューチェーンの全体の排出量を算定する必要があるため、非常に難しい課題ではありますが、様々なツールや情報共有の枠組みを活用して取り組むことが求められています。またステップ1のもう一つの要諦としては、「不確実性を前提として、幅のあるシナリオを用意・想定しておく」ことも大切になります。カーボンニュートラルへの取り組みを考える際には、外部環境に関連して、自社単独では変えられないような規制や制約、社会の動向など、非常にさまざまな要因が複雑に絡んできます。将来に向けて目指す自社のあり方や、それに対して取るべき方策の結論を初めからひとつに定めることが極めて難しいという事情があるためです。

―なるほど。まず社内を整えることからですね。ではステップ2は?

日山:ステップ2は、「自社の事業オペレーションの中で、何をどう変えるかを明確にし、目標を設定する」ことです。ここでは、具体的に何をするのか、取り組み方針をしっかりと固めたいです。カーボンニュートラルについて検討するにあたっては、ともすると「守り」に意識がいきがちなのですが、自社のサービスや商品、バリューチェーンを俯瞰して、他社との差別化につながる要素としてとらえることもできると思います。またさらに、そういった環境変化の中で新しい事業を生むという「攻め」の視点も取り入れたいと思います。

―守りではなく攻めの姿勢、目標の設定が大切と。そしてステップ3は?

日山:最後のステップ3は、「ステップ2までの戦略を実行しきるための体制づくり」です。仮にステップ2まで進めたとしても、戦略を立てただけで最終目標までやりきることができなければ、結果的に脱炭素に関して社会にインパクトを出せたという成果が手に入りません。しっかりとPDCAサイクルをまわすために、組織や人材の配置や評価のあり方、新しい意思決定のメカニズム、成果をモニタリングするための方法を確立しなければならないと考えます。また同時に、多様なステークホルダーに目を向けて積極的にコミュニケーションを取ることも重要です。株主・投資家や金融機関、商品を利用してくださる消費者はもちろん、自社の従業員や地域社会の方々を含む幅広いステークホルダーに対して、自社のカーボンニュートラルのストーリーを分かりやすく、胸をはって伝えていく行動が不可欠です。社会へのコミットメントをしっかりと示すことは、忘れてはいけないポイントの一つです。

【BCG】脱炭素expo 講演紹介記事向け資料_png


■関西の活性化を願って、ヒントを届ける


―ありがとうございました。この講演をぜひ経営者の方にビジネスチャンスとして生かしていただきたいですね。

日山:私としましては今回の講演は、経営者の方はもちろんながら例えば経営企画部のマネージャーの方や、設備の更新や物流、工場の生産戦略のご担当者など、現場、現業の方にもぜひ、お聞きいただきたいと思っています。大阪、京都、神戸などで皆様と議論させていただく中で、トップダウンの指示のもとで具体的にどう取り組むべきかを現場で日々悩まれている方が少なくありません。この講演を通じて、ぜひ何らかのヒントをお届けできればなと考えています。

―西日本の展示会ということで、特にお伝えしたいことはありますか?

日山:私は大阪オフィスでの業務を通して、関西がポテンシャルを発揮しはじめてきているのではないか、と感じております。大阪、京都、神戸には著名な大学が揃っており、人材輩出の基盤を得ていろんなスタートアップが育ち始めている状況の中で、私たちもある意味日本を一緒に元気にしていく存在でありたいと思っています。万博という大きなイベントが3年半後に迫る中で、規模を問わず、関西のすばらしさを日本に、世界に発信すべく頑張っていらっしゃる企業の皆様、現場の皆様とともに大阪を「いい街やな」と世界に発信したい。この思いを、ぜひ具体的なアクションにつなげていきたいと考えています。

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■ボストン コンサルティング グループ様、取材にご協力いただき、ありがとうございました。


<お知らせ>
[関西]脱炭素経営EXPO 2021年11月17日(水)~19日(金) 
場所:インテックス大阪 関西初の脱炭素経営EXPOとなります。ご注目を!

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