あの日の君を訪ねたくて

読書は、旅をすることに似ている。作者の目や手を通して紡がれる、よく考えられた世界を、思考を頼りに巡り歩く。最初のページをめくってから、奥書をあとに本を閉じるまでの、ひとときの非日常体験─

小学生の頃、兄がすごく気に入っていた本があった。G・D・グリフィス 作/前田三恵子 訳/福永紀子 絵、文研出版の『荒野にネコは生きぬいて』。
突然この本が頭に浮かんだのでネットで検索してみると、驚いたことにまだ入手可能。なぜ兄はこの本を気に入っていたのか知りたくて、読んでみることにした。

入手したのは、2014年の第37刷。自分の記憶にある頃の物よりサイズがワイドで、薄くなっている気がする。ランドセルに入れるには、手頃かも…と、妙なところに いまどき を感じてみる。

生後12週間で荒れ地に捨てられたネコが、厳しい自然の中で、時折、心優しい人たちと すれ違いながら成長し、逞しく生き抜くさまを描いたおはなし。
変なデフォルメはせず、淡々とネコの姿が描写される。ときに残酷な出来事が降り掛かっても、ネコはひたすら生きていく。終の住処を見つけ、このまま幕を閉じるかと息をついたところで迎えた結末─

読み終えた時、言葉を無くした
心には、風が吹きすさぶ荒涼とした風景が残った

幼い日の兄は、このお話のどこに惹かれたのか?

ひたすら生きたネコの強かさ、逞しさ
媚びることなき孤高な姿
過酷な境遇への同情・憐憫
自由であること

─あれこれ思い浮かぶが、本当のところは分からない。

次にあった時、確かめてみよう。
あの日の兄は果たして、そこにいるだろうか。

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