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【小説】隣の気になるお姉さんに乱〇パーティーに誘われた話【前編】

少し変だけど魅力的だなと思ってた隣のお姉さんがすごく変だった。



 僕には近頃、気になる人がいる。アパートの右隣に住む丸山さんだ。

 彼女は僕より5つほど年上の一人暮らしで、今年就職で東京に来たばかりの僕に何かと親切にしてくれる。といっても、ほとんどは近所の良いお店を教えてくれたり、実家から送られてきた野菜を分けてくれたりといった普通のご近所づきあいだ。

 教えてくれたお店は美味しい魚屋さんの時もあれば、前衛的な爬虫類カフェの時もあった(くそでかいイグアナ怖かった)。野菜はジャガイモの時もあれば、ヘチマをくれたこともある(どうやって使うんだ)。
少し変な人だなとは思ったが、こちらに友達が少ない僕にとって、そうした気遣いや交流は非常に嬉しいものだった。


 肩口で切り揃えた少し癖っ気の黒髪。背は高い方でないが、すらっと伸びた背筋と大きめのピアスが大人の女性という印象を与える。
そして、凛とした印象に似合わずとても柔らかく笑う。贔屓目を差し引いても、魅力的な女性だと思う。



「木田君、乱交パーティーって知ってる?」

「だんごパーティー……?」

「違うの、乱交らんこうパーティー」


 ある日、玄関でばったり会ったその丸山さんから出てきた爆弾発言によって、朝の穏やかな気持ちは綺麗に吹き飛び、焼け跡にタンゴが流れた。一番上は長男(長男)。


「興味あるかなって」

「いやいや、わからなすぎて何も言えないですよ。そもそも、映画とかじゃなくて本当にあるんですか?」

「私の友達が来週の土曜に開くんだけど、良かったら木田君も来てみない?」

「……どんな友達ですかそれ。丸山さんも行くんですか?」

「昔ちょっとね。もちろん私も行くよ」


 さて、気になることは色々ある。そもそも僕はそういうコアな経験はおろか、普通の性経験もあまりないのだ。いきなりそんな所に行って大丈夫だろうか。警察に捕まって翌日のニュースになったりはしないのだろうか。
何より、丸山さんの過去と現在は一体どうなっているのだろうか。


 丸山さんは「どうしたの?」とでも言わんばかりに、いつもと同じ柔らかい笑顔で首をかしげている。


「行きます」


 そんな種々の懸念は、好奇心と丸山さんに負けてしまった。別に丸山さんとどうこうという下心ではなく、気になったら手足が動いてしまう性分なのだ。

いや、本当に。信じてくれ。



「おはようございます」

「おはようー。なんだか今日はサッパリしてるね」

「ちょうどさっき髪切ってきたんです」


 そして当日、指定された地下鉄駅の改札に丸山さんが待っていた。あまり化粧っ気のない白いシャツワンピース姿で背筋を伸ばして立つ丸山さんは、いつも通り過ぎるほどにいつも通りで、乱交パーティーという非日常的な響きからはとても遠い所にいるように感じる。
あの後も二回顔を合わせているが、丸山さんが今日のことを再度話題に出すことはなく、僕も問い直すことはできなかった。


 僕は丸山さんにからかわれているだけで、これから町で人気のだんご屋に行くのではないだろうか(僕達の格好や会話はそれにぴったりだ)。電車を降りてから心臓がずっと鳴っているのは、緊張か混乱かあるいは恋だろうか。


 到着したのは駅から3,4分ほど歩いたところにある、大きくて古いマンションだった。丸山さんが突き当たりにある部屋のインターホンを押すと、40代くらいの長身で線の細い男性が迎えてくれた。


「カオリちゃんようこそ~。その子が友達?はじめまして」

「コウジさんこんにちは。お疲れ様です」

「は、はじめまして。シュンです」


 丸山さんから考えてねと言われた、ここでの呼び名を名乗る。


「じゃあまず参加費を頂きます。あっちが荷物部屋で、荷物置いたら会場を案内しますね」


 コウジさんと言うらしい男性に参加費(少しいい焼肉1回分くらいだ)を支払うと、部屋の中へと案内された。玄関にある靴箱の大きさと既にある靴の数からして、かなりの人数が集まるようだ。


 別室では別の男性が、荷物と貴重品を預かってくれた。貴重品は鍵をかけたトランクにまとめるなど、かなりきちんと管理しているらしい。その男性が会場を案内してくれるというが、丸山さんは初めてでないので会場の案内不要らしく、「また後でね」と奥の部屋に歩いて行った。






「まず2階は、こっちがシャワールーム。2つあるので自由に使ってください。バスタオルは1人1枚まで持って行って大丈夫です」


 男性が躊躇いなくドアを開けると、中では裸の女性が体を拭いていた。僕は咄嗟に顔をそむける。


「ッ、ごめんなさい!!」

「あ、ごめんね」

「こんにちはー、使ってますー」


 そこにいた茶髪にショートカットの女性は、タオルを持っているのに前も隠さず、苦笑いしながらヒラヒラと空いている方の手を振った。ドアを開けられたことは驚いても怒ってもいないようだ。


「シャワーを使った後は床が濡れないように、必ず先にシャワーブースの中で軽く体を拭いてくださいね」


 えっそのまま説明続けるの? 目を逸らしている方向から視線を感じるんですが。


「また後で」

「はい、宜しくお願いします。」


 僕は斜め下を向きながら答えた。顔が熱い。






「(で、こっちの2部屋がプレイルーム。下で仲良くなったらそういうことをする場所です。覗く時はお静かにお願いしますね)」

「(…………)」


 僕は入り口から部屋の中を見てようやく、丸山さんの言葉が何か全く別のものを指しているわけでなかったことを納得した。


 明かりを暗くした部屋の中ではまさに「そういうこと」が行われていた。部屋には2つのベッドがあり5人の男女がいたが、一人として何も身に着けていなかった。
 背の高い長髪の女性が男性に跨って体を揺らしながら、ベッドの上に立ったもう一人の性器を手で扱いていた。反対側のベッドでは男女が互いにしなだれかかって手と唇を重ね、隣の様子など目に映らないと言わんばかりに二人の世界を作っている。


 断続的な嬌声。微かな香水と汗の匂い。廊下よりもねっとりと暑くて重い空気。情事を覗いているというのに、いないかのように扱われる僕達。その薄暗い部屋はどこか異界のようで現実味がなく、ただ先ほど男性が口にした「仲良く」というさらりとした言葉とは、ずいぶんと断絶があるように感じた。
 これから僕や丸山さんも、この部屋を構成する一部となるのだろうか。


「遊ぶ時は必ずゴムをつけてください。あと、そこに用意しているローションもできれば使ってくださいね」

「あっハイ」


 男性の声で現実に引き戻される。

 花巻のお父さんお母さん。僕は元気にやっていますが、頭がパンクしそうです。







ライター:かねどー (寄稿作品)

後半はこちら


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