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ゆめうつつ、そのどちらでもないもの|#1 ジンベイザメ

「準備はいい」
「あぁ」

「急いでね」
「…本当に、残るのか」

「えぇ、それがワタシの役割」
「そうか」

彼女の黒曜石のような瞳が揺らぐ。
揺らいだように見えた。
揺らいでいたらいいな、という希望的幻想だったかもしれない。

海中基地の潜水艇ポートには、一体の、いや、一匹の大きなジンベイザメが姿を見せていた。
最新のホログラム技術を搭載した潜水艦は、海の中であろうと、擬態する対象を忠実に投影できる。
海中の戦車であろうと、美しく優雅で、ゆったりと水中を泳ぐ巨大なジンベイザメになれるのだ。

急がねばならない。
迷路のような海中要塞を抜け、大洋に出るまでのタイムリミットはあと数分である。

潜水艇はゆっくりと降下し、ホログラムをまとったまま加速度を上げていく。
第五海水路を進み排出ゲートを目指す。

この船はいつか世界を壊すために生まれた。
原子力潜水艇
—美しい海の生物に姿をかりた殺戮兵器

この船を本当のジンベイザメにしましょうか—

いつか彼女がそう言ったような気がした。
それも悪くないと思ったんだ。
ただそれだけの理由で、僕は大洋を目指す。

無線通信が入る

「カイル、聞こえる?」
「あぁ、聞こえてる」

「第五海水路は、その先のゲートが数分前から帰還艇の受け入れを開始してる」
「やなタイミングだな。代替経路をくれ」

「次を左に。使われてない第八水路へ。」
「ゲートは開くのか」
「今から母船の制御室に侵入してみる。こじ開けてはみるけど、開けたとして、1分保つかはわからない」
「充分だろ」

第八水路はしばらく使用されていないからか、海水の濁りが激しい。白く霞んだ水路の底にセメント屑が積まれているのも厄介だ。

「こんなところでも、ねぐらに出来るんだな」

いくらゲートを作ったとて、海洋生物の侵入は防げない。打ち捨てられたセメントにはすでに小さな生き物たちが生態系を作っていた。

小さなものほど弱く強い。
海の底にいると、ニンゲンにできることなど何もないのだという気持ちになる。海に抱かれた陸の生き物は、存在そのものが脆弱で、発想にも限界がある。故に陸の取り合いでその一生を終えるのだろう。
結局今からやろうとしていることもその制約の内側なのだろうかと自問するが、the result is null答えはない

ジンベイザメの腹で擦らないように気をつけながら、ゲートを目指して急いだ。

上に下に、船は泳ぐ。
まるでホンモノのジンベイザメみたいに。

「気づかれた。あと30秒」
「大丈夫だ。出るぞ」

はじめて海中基地を抜けた。
そこはただ静かに暗い海があるだけ。
何もない海中に放り出された、圧倒的な孤独と自由。

サメは泳ぐ
ただひとり 寡黙に
ヒカリの届く水面をめざして

「まだ…聞こ…えてる?」
「あぁ、そろそろだ」

「太陽は…美…しいで…しょうね」
「今見せてやるよ」

水中が仄かに明るくなっていく
水面から差し込むヒカリが幾重にも屈折して重なり揺らいでいる

その光を纏うように サメは泳ぐ
まるでホンモノのように
ぼくと、キミが寄り添うように泳いでいる
泳いでいるような気がした

「美しい絵のようだよ」
「まるで…ホンモノ…ね」

「何か言いたそうな言い方だな」
「いいえ…ほん…の、少しだ…け…な…けよ」

「カ…イル…」
「なんだ?」

「…に…いく…わ」
「エリス?」

無線が途絶える
でもまだ彼女も同じものを見ている
そんな気がした

「先に行くぞ。」

またあとでね、と彼女が言った。
言っているような気がした。
それだけで充分だ。

その日、敵国襲撃作戦実行中の無人原子力潜水艦が姿を消した。AIによるセミオート操作になんらかの誤作動があったものと考えられる。
同日、海底基地の排水タービンが何らかの原因で故障。基地内に致命的な海水侵水があり、基地隊員は全員避難。また、母船側の制御室がシステムダウンにより実質機能せず、帰還を余儀なくされる。

後日この海底基地は復旧の見込みが立たず、そのまま海に沈められることになる。

同じ頃、生息地域外でジンベイザメの目撃情報が数件ソーシャルネットワークに流れるが、そんなものに目を止めるほど世界は暇ではなかった。

そのサメは優雅に泳いでいたという。
静かなる海を
まるでホンモノのように。

#夢から作る物語


2024/2/15
音無、フルカラー、観客タイプ

ジンベイザメ型の潜水艇にて何か迷路か要塞のような水中施設から脱出中
何か機密情報を持ち帰らないといけないような感じ、内容は不明

乗組員はワタシではないような感じ
途中、傍を潜水したのはワタシか
施設内船着場のようなところ、息ができるところで誰かと短時間の会話、内容は不明
相棒のような人、黒髪、短髪、男性?
作業服のようなものを着ている

ジンベイザメは文ストの白鯨に影響されてるような映像、海の中だけど

短い夢
時間とミッション遂行に追われる感覚が強い
ジンベイザメサメ型潜水艇の横を一緒に泳ぐシーン、ワタシとだれかと、ジンベイザメを最後尾やや下からのアングルで、キラキラと水面からのヒカリに照らされて、印象的な絵
潜水時の水音はしない
オチなし

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