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冷静と情熱のあいだ。私の作った黒いヤツの話 (前編)

中学3年生の頃に同級生の影響で洋服の魅力に取り憑かれ、今に至る(41歳)までに体験した『洋服』をはじめとした『モノ』にまつわるアレコレ。

自分の価値観を形成するうえでターニングポイントとなった『私と"モノ" との記憶』いわばモノにまつわる物語を書き綴る日記。

これは、
『おすすめアイテムの紹介』ではない。
『私物紹介』でもない。

読んだあなたが、少しでも洋服を好きになるきっかけ、自分の使う道具を愛らしく感じてもらえるようになれば嬉しい。


Episode.32
『Painted Blank "Stephan"』

現在3作目までリリースしているオリジナルブランドの2作目となったこのアイテム。

1作目も3作目も大苦戦だったが、多分に漏れずこのシャツも苦戦につぐ苦戦を重ねて完成した。

この有料記事には、ブランド立ち上げから1作目のリリースまでの日記を1万文字以上にわたり赤裸々に綴った。

3作目については、エピソード5で書いた。

自分が生み出すアイテムは、基本的に構想からリリースまで最低でも1年はかかる。オリジナルブランドの商材こそ、全ての物語は私のなかにあるのだから、文章に起こしやすいと思っていたが、

構想から完成まで、その全てを凝縮して記事にするとなると他のエピソードを書く何倍も"骨が折れる" (エピソード5に関しては書きながら涙が溢れた。)

ただ、このシャツの記事は "いま書かなければならない理由がある"
素材を変えたニューバーションが近日発売されるからだ。

それについてはリリース日が決まり次第改めて書くが、その前にこの、
『ステファン』についての物語を書いておきたかった。

前置きばかり長くなりそうなので、そろそろ。

〜 起想 〜

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あなたなら、年間を通して着る洋服の中でどんなものがあれば便利だろうか? 想像してみてほしい。

春や秋には軽い羽織り感覚で着れる。夏には日差しから肌を守り快適に着用でき、冬にはアウターの中に着ても軽くなりすぎない重みのあるインナーとして使うことができる。

1年を通して使えるものということは、当然だが着用回数は多くなる。

『シャツとジャケットの中間的なモノで、季節を全く気にせず着ることができ、さらに着用回数に応じて成長する洋服』

これが、2作目となる "Stephan(ステファン)" のスタート地点。苦悩の始まりである。

〜 デザイン 〜

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まずは、アイテムのイメージを作る。自分の頭の中にある理想の形を、サンプル製作が可能な位置にまで具現化する作業。(こんな感じの落書きから始まる)

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季節を問わず、インナーを選ばず着用できるシャツにするべく、大きすぎず細すぎないシルエットで設計。 特に「襟」は、着用に伴い適度な開き具合を感じられるよう、何度も細かい調整を重ねた。

最も大事なのが「袖丈」 通常平均より数センチわずかに短くした袖は、あえてビンテージワークジャケットなどに見られる袖口の仕様を採用。

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この「シャツなのにジャケットのような袖」は、一見するとチグハグな印象を受ける。ただこのわずかな違いがロールアップ(袖をまくる)で着る際のストレスを軽減し、ボタンを止めた際でもスッキリと収まる。

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全体像として『シャツ8、ジャケット2』のバランスを目指した。

〜 サイズ〜

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『気に入っているのになぜか着ていない』

その大きな要因は『サイズ』『素材』である。要するに着ている本人も気づかないほんの少しのストレスが、知らないうちに洋服を "タンスの肥やし" に変える。

それだけは絶対に避けなければいけない。

シャツにおいて最もストレスとなる、袖丈と着丈そしてアームホールの太さや首の広さなどは徹底的に熟考した。

これは、20数年の経験をもとに、現在着続けているシャツや薄手のジャケットのサイズを書き出し、このアイテムに最適なサイズを細かい部分だと数ミリ単位で書き出す。

この時点で、設計図は完成した。
どれだけ設計図(パターン)を完璧に仕上げても実際に縫製する人の腕で着心地は大きく変わってくる。縫製は私が心から信頼している岡山の老舗シャツ工場に依頼した。

社長には「シャツ工場の社員さん全ての人が、これ以上ないと言える最適な縫製方法でお願いします。コストはひとまず考えなくて構いません」
と伝えた。

結果、縫製は全箇所に伸びが少なくほつれにくい「本縫い」 を採用。 衿付け・袖付けなどもすべて平台の本縫いミシンで縫製しつつ、着用時の心地良さを追求し、平面的なシャツにならないよう「いせ込み(※)」と呼ばれる方法で立体的に仕上げてもらった。 縫製と刺繍には「綿糸」を使用した。

縫製に使う糸も、着ていくごとに少しづつ生まれる「色落ち」を楽しんでほしいからだ。

いせ込み:熟練の技術が必要となる、平面の布に丸みをつけて立体的に仕上げる技法

素材は通年の着用を考え麻(リネン)を使うことは決めていたので、工場にあったものでひとまず作ってもらうことにした。

素材で洋服の良し悪しは概ね決まる。

素晴らしい素材を使えば、それなりに良いものはできる。
だからこそ、素材の情報が全くない段階で100点をつけられるものでなければ意味がないと勝手に思い込んでいる。

つくづく遠回りな性格だと思う。

〜 素材選び 〜

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サンプルの到着までに素材選び。『素材が上質』というのは当たり前だが、

「どこで、誰が、どうやって作った素材、生地であるか」

それが明確じゃないものは使いたくない。
案の定、100種類以上、さまざまな生地を取り寄せたが、しっくりくるものが決まらなかった。

『上質かつ薄くて丈夫。通年着用でき、冬物と混ぜても負けない存在感のある生地』

考えれば考えるほど深みにハマる。完全に暗礁に乗り上げた感覚が私を包む。

そんな中サンプルが届いた。

〜 自問自答の日々 〜

素材も決められず、届いたサンプルをあけ試着してみる。縫製は完璧。正直それだけだった。

形は70点。全くダメではないがよくもない。

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「なぜ良くないのか?」

毎回この時間が苦痛で仕方ない。答えがないものに答えを出す作業。1人でサンプルを眺め、試着を繰り返す。

10日ぐらい経ったころ、ようやく一筋の光を見出すことができた。

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ロングシャツのようなデザインで進行していたが、裾のカットを大幅に変更し、よりベーシックなシルエットに変更。仕様変更に伴い、細かな部分全て微調整した。

「これでダメならわからない」

正直、そこまで突き詰めた。

〜助け舟は書道教室〜

形は修正した。あとは素材。
まず、これまで見てきた素材の何がダメなのかを考えた。

「それぞれに物語はあるが自分とのリンクを感じられない」

そのことに行き着いた。

じゃあどうするか?
自分のこと、ブランドのコンセプトを改めて思い返す。ここら辺は、先程紹介した有料記事に細かく書いているが、ほんの一部だけ抜粋する。

立ち上げたPainted Blankは、主人公である Blank(ブランク) が世界中を旅しながら友人を少しずつ作っていくという物語がバックストーリーとなっている。

トニー(1作目)はイギリス人でブランクとは旧知の仲。不器用なブランクが唯一最初に友達になったのがトニー。

二人で一緒に世界中を旅して、友人を増やしていく(アイテムを増やしていく)物語。仕事ばかりで、海外にも行ったことのない僕が、世界各国の洋服を20年に渡り販売してきた。だから代わりに主人公 Blank に旅してもらおうと思った。

これはブランディングの際「ブランドに人格があれば?」という項目を考えるにあたり僕が想像した物語。ブランドロゴの下にある文章の"全ての物語" というのは、僕が想像したこの Blankの旅物語も含まれている。

このシャツのデザインソースにはヨーロッパのさまざまな洋服のエッセンスが入っているのだから、ヨーロッパ原産の素材が物語には合う。
それだけだとありきたりで面白くなかった。

何かしら、もうひとつ物語が欲しい。
私とヨーロッパをつなぐ何か....

その答えに辿り着いたのはそれから10日ほど経った頃。きっかけは私が昔通っていた書道教室だった。

ようやく、形、素材が決まった。

セカンドサンプルを発注した。
ただ、苦悩はこれで終わりではなかった...

ここら辺の話やその後のことはまた明日書こうと思う。

【このマガジンの他の記事はこちら】

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