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#1 渡辺菓子店のおばちゃん

中学3年生の頃に同級生の影響で洋服の魅力に取り憑かれ、今に至る(41歳)までに体験した、洋服をはじめとした道具にまつわるアレコレを中心に "モノ" にまつわる物語を書き綴る日記『僕の洋服物語』のスピンオフマガジン。

これまで20年以上、洋服というフィルターを通して、多くの人から数えきれない学びをもらった。もちろん裏切られたり、騙されたりしたことだってある。

でも私は人が大好きだ。
これは、私の人生において忘れられない "ヒト" との記憶。

読んだあなたが、人生の素晴らしさを再確認し、自分の周りにいる人のことが、今よりもっと好きになれる。そんなきっかけとなってくれたら嬉しい。

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『#1 渡辺菓子店のおばちゃん』

私が18歳から21歳まで働いていた古着屋の遊歩道を挟んだ正面に「渡辺菓子店」という店がある。

そこには、昔ながらの徳島の銘菓、おかきや和菓子に加えて、ポテトチップスやポッキーなどのお菓子やアイスクリーム、ジュース類なども販売している。

当時働いていた職場の目の前ということもあり、職場の仲間は全員、毎日ジュースやお菓子を買っていた。おばちゃんは歴代、店のスタッフの入れ替わりが激しいことも当然知っている。

働き始めたすぐ、当時18歳だった私に「大変だろうけど頑張って」と声をかけてくれた。

先日のメインマガジンエピソード50でも書いたが、おばちゃんの助言通り、初めて経験する洋服屋は想像以上に大変で、毎日「やめたい」と心で叫びながら日々を過ごしていた。

職場とおばちゃんのお店の中央には石で作られたベンチが設置しており、私は仕事が終わるたび、その石のベンチに腰をかけて、当時ブラックコーヒーは苦くて飲めなかったから、お決まりの甘い缶コーヒーを飲んでいた。

もちろん、おばちゃんのお店はとっくに閉店時間を過ぎており、あたりは街頭の光だけ。

そんな毎日が半年ぐらい過ぎたころ、ほんの少しだけ仕事には慣れてきたが、「販売の仕事は向いていないからもう少し頑張ってやめよう」そんな気持ちは変わらなかった。

毎月張り出されるスタッフ別の販売成績表では、
下っ端の私は変わらず最下位。

仲良くしてくれる先輩もいたが、オーナーや店長から向けられる目は冷たかった。

その日は、朝から体調が悪かったが、遅刻などもってのほか。当時まだ鍵は持たせてくれていなかったため、いつものように定時10分前に来て、店の前でオーナーや他スタッフを待っていた。

渡辺のおばちゃんといつものように挨拶をして雑談をしていたら、今まで感じたことがない胃の痛みと吐き気が襲ってきた。

オーナーが出勤してきたので、ひとまずは店の掃除、トイレ掃除をこなしながら、この意味のわからない胃痛と吐き気を気合いだけで押し殺していた。徐々に脂汗のようなものが出始め、数時間後に限界を迎え、店内で倒れ込んでしまった。

流石に、皆が心配してくれてタクシーで病院に行くことになった。

結果は疲労と急性胃腸炎とのことだった。点滴をすると少し落ち着いてきたので職場に戻り、残りの数時間だけ仕事をしてその日の閉店をむかえた。

母親が迎えにきてくれるという連絡があったので、いつものように石のベンチに座っていると背後から聞き慣れた声がする。

渡辺のおばちゃんだった。もうとっくに店は閉店しているはずなのに...

「清水くん(オーナー)から聞いたけど大丈夫?」

「ありがとうございます。大丈夫です。だいぶ楽になりました。」

そんな会話だったと思う。おばちゃんは店の2階に家族で住んでいる。
私が仕事後に石のベンチで少しの時間を過ごすことは以前から知っていたのだろう。

「今までも清水くんとこで働く子たちをみてきたけどあなたは少しみんなと違って繊細な感じがしてて、ちょうど心配してたら今日倒れたっていうから...。私、腹がたって清水くんに怒ったのよ笑。あの子に厳しすぎるって。」

続けておばちゃんは、

「真面目にやるのは素晴らしいけど、自分のことも大事にしないと。おばちゃんなんて、しょっちゅういつもの椅子に座って寝てるの知ってるでしょ?それぐらいでいかないと。もっと正直でいいと思うよ?無理してもお客さんにはバレるからね。」

そう言ってくれた。そして徳島発の大企業、大塚製薬が誇るオロナミンCをひとケース持たせてくれた。お菓子もパンも。

少し心が緩んだ。迎えにきた母親の顔を見て涙が止まらなくなった。

18歳の当時、周りの友達は進学し大学生活を楽しそうにやってるのに「自分ばかりなぜ?」といったひねくれた心が日々大きくなるなかで、おばちゃんのこの一言は、崖っぷちだった私を優しく包み癒してくれた。

未だに脳裏にあの日の景色、その言葉がはっきりと焼き付いている。

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胃腸炎で倒れた数ヶ月後から、なぜか私の販売実績が今までの不振が嘘のように伸び始めた。その半年後には、店のトップを争う位置に。

今なら、なぜ半年間売れなかったのか?なぜ売れるようになったのか?ある程度は説明できる。

18歳の右も左もわからない自分がどれだけ作り笑いをしても、大人のお客さんたちには全てお見通し。逆になにを考えているのかわからないヘンなやつだと思われていたのだろう。そんな販売員から洋服を買おうとは誰も思わない。

「自分の考えを正直に出すこと」

それは、キャリアや経験を問わず、誰だってできる。それこそが販売員としての最低限の誠意だと気づき始めたのもこの辺りから。

仕事においてもっとも大切なことを渡辺のおばちゃんは教えてくれた。

職場を移ったあとも定期的におばちゃんの店でお菓子やジュースを買っていたが、独立後は場所も離れてしまい顔を出せないでいる。

先日たまたま近くを通ったが、
相変わらず同じ場所で新聞を読んでいるおばちゃんの姿を見て、胸が熱くなった。

近いうちに顔を出してみよう。
久しぶりに甘い缶コーヒーを買いに。

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