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[続.洋服物語] 日本のモノづくり

先ほど、縫製工場から連絡があり、予定していたパンツの完成が大幅に遅れるようだ。早くて6月末。遅ければ7月中頃ということである。

理由は協力工場があらたに廃業したそうである。今年に入って、私がお願いしている縫製工場の協力会社だけで4社廃業している。

ブランドをやるために他の商品の仕入れを抑えているなかで予定のものが作れない、遅くなるというのは店を続けるうえで大きな打撃である。1時間ほどの電話で解決策を一緒に考えたが、日本全国の縫製工場、特に腕の良い工場さんほどパンク状態だという。

状況は知っていたがここまで自由にならないのは私としても販売方法を大きく変えるしかない。予定していたパンツに関しては高知のイベントもあるので各サイズ1本ずつだけでもどうにか作ってもらい(数本だけ制作するというのはサンプルラインと呼ばれ価格は1.5倍になってしまうが…)予約販売のカタチにするしか方法がない。

予定していた他のアイテムも大幅に遅れてしまう。
正直、どうすることもできない。

最低でも半年前にサンプルまで完成していなければ現状、難しいということがよくわかった。洋服ブランドの展示会が毎年早まっているのも、こういう理由なのだ。

店と並行してブランドを作り、並行させることがいかに難しいか。
店頭の補助的なアイテムではなく私の場合オリジナルを中心にした店に作り替えようとしているのだから尚更である。


国内工場が次々と廃業している理由は大きく3つの問題が重なって起きている。(縫製工場の社員さんから実際に聞いた話)

縫製工場を維持するにはたくさんの人手が必要なのだが、多くの国内工場はベトナムや中国の留学生や出稼ぎにくる人たちでまかなっていた。その人たちがコロナで自国に帰らなくてはいけなくなり、深刻な人手不足を引き起こした。

そこで大手ブランドをはじめ数多くの会社が中国やベトナムに自社工場を作った。結果、わざわざ日本で縫製の仕事をしなくてもそれぞれの国で需要が高まり自国で仕事が確保できるようになった。さらにそこで支払われる賃金も日本で働くのとさほど変わらないらしい。

その結果、ベトナムや中国から来ていた従業員たちも帰りたいけど帰れないのではなく帰るメリットがなくなったということである。

「日本の縫製工場なのだから日本人を雇えばいいじゃん」

確かに、私がお願いしているような日本人だけで運営している縫製工場もたくさんある。だが、縫製工場で支払われる時給や日給を調べたことがあるだろうか?たいてい最低賃金である。さらにはミシンを使いこなせるとい技術も必要なのだ。

店の元スタッフが、店で働き始めるまえに国内の腕の良い縫製工場を数社面接したのだが、その度に代表自ら、「若手がきてくれるのは嬉しいが来年どうなるかわからない。ボーナスも出ないし、基本給も最低レベルだから将来を考えるならこない方がいい。」そんなことを各社で言われたらしく、心が折れてしばらく私の店で働くことになった。

安価な洋服を求める動きが加速し、縫製工賃をできるだけ下げて欲しいという作り手の要望にできる限り応え続けてきたことも要因のひとつだろう。技術を持った人たちの高齢化と若い世代がいない現状。

まさに負のスパイラル。

結果、既存の縫製工場に他の仕事がたくさん舞い込むようになるが対応できないということが起こり、今までどうりモノがスムーズに作れなくなる。

日本全国、日々悪化し続ける状況のなかで私のような実績の乏しい個人ブランドで小ロットかつ手間のかかるものを優先して作っている余裕などないというのが本音だろう。

店舗業務の合間にひとつづつアイテムを作って、販売して、そこからまた次のサンプルに取り掛かるという具合でやってきたが、今後は他のブランド同様、ある程度の商品ラインナップを作り年間計画を立てて工場さんをあらかじめ押さえられるような動きができないと継続した商品リリースは厳しそうだ。

日本のモノづくりにおいて今が踏ん張りどきなのは間違いない。


コロナも含めて世の中の流れを追い風にした店や洋服ブランドもあれば、消えてしまった店もブランドもあり、いつも時代もビジネスというのは「勝者」と「敗者」がはっきりと分かれる。

理想を貫くというのはそれなりの力がなければ難しい。「負けた時どうしよう」「負けたら人生が終わる」そうやって考えて怖いと感じている人も多いだろう。

でも絶対にそんなことはない。

何度も書くが自分はゴキブリだと思えば楽になれる。(私はいつもそう思うようにしている)そうやって自分を奮い立たせ、致命傷になるほどの全速力で壁にぶつかり続けていれば結果など何も怖くなくなる。

まさに自分もそうである。今年のリリース予定が粉々に崩れ、笑うしかない状況なのに平然とこんな記事を書いている。

どれだけの人がこの記事を読んでいるのか定かではないが、今まさに苦しんでいる社長や代表、会社員でも学生、主婦の方でもどんな人にだって言えることは、「命」というかけがえのない財産がある限り負けで終わることはない。

挑戦を繰り返して100戦99敗1勝。
最終的に一度でも勝てば良いのだから。


記事を公開した1時間後、縫製工場から再度連絡があった。
各サイズのサンプル制作はなんとか来月末までに間に合うようだ。
なんとかまだ前には進めそうだ。


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