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#3 マルちゃん

中学3年生の頃に同級生の影響で洋服の魅力に取り憑かれ、今に至る(41歳)までに体験した、洋服をはじめとした道具にまつわるアレコレを中心に "モノ" にまつわる物語を書き綴る日記『僕の洋服物語』のスピンオフマガジン。

これまで20年以上、洋服というフィルターを通して、多くの人から数えきれない学びをもらった。もちろん裏切られたり、騙されたりしたことだってある。

でも私は人が大好きだ。
これは、私の人生において忘れられない "ヒト" との記憶。

読んだあなたが、人生の素晴らしさを再確認し、自分の周りにいる人のことが、今よりもっと好きになれる。そんなきっかけとなってくれたら嬉しい。

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『#2 マルちゃん』

※これは私の人生において忘れられない大切な人の思い出です。
加えて本人の性格や諸々を考慮し判断したうえで、そのままの事実を書きます。決して笑える話ではありません。苦手な方はここで読むのをやめておいてください。

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このマガジンを始めたとき、真っ先に浮かんだ "ヤツ" のことは今まで、どこにも書いたことがない。というより書けなかった。

人一倍、目立ちたがり屋だったのにこのマガジンで書かないのは違う気がした。もういい加減、機嫌を損ねそうだから登場してもらうことにする。

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彼は私が20歳の頃、当時働いていた古着屋で私が店長を勤めていた店にお客さんとして現れた。

当時15歳。最初に来店したときから、人懐っこくて面白いやつだった。そこから、ちょくちょく店に通ってくれるようになる。

彼が18歳を迎え、大阪の専門学校行ったあたりで、私も別の店に移り、それから10年ほど会っていなかった。

2013年、私が店を始めたすぐに彼はふらっと現れた。ちょうどその頃、大阪から徳島へ帰ってきたらしく、相変わらず洋服が大好きな彼は私が独立したという情報をどこからか聞きつけてやってきた。

「岡ちゃん、久しぶり!」

そう言われたが、彼のあまりの変わりように一瞬誰だが分からなかった。

「...!あっ!久しぶり!!」

首と顔以外の部分にタトゥーがびっしり。どちらかというと真面目で可愛いかったキャラからは想像もつかない風貌に変わっていた。

「タトゥーも好きだし、僕も色々あって...」

なにか、影を落とすような含みのある会話から、私の店や取り扱い商品の話を熱く語ると、彼は高校時代と変わらず目を光らせて話をきいてくれた。

その後、徐々に来る回数は増え、半年後にはスタッフさながら。ほぼ毎日店に来るようになる。

昔と変わらない人懐っこさと天性の愛されキャラが徐々に店の常連さんにも受け入れられていく...なにせ、洋服が抜群に似合うやつだった。

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店に頻繁に来るようになってすぐ、彼は自分の話をしてくれた。株運用で毎月の収入はそこそこあることに加え、父親との不仲、精神的に不安定なことなど...

一人暮らしでは栄養が偏ってしまうというので、頻繁に自宅に招き食事を一緒に食事をした。私といる時は驚くほどよく食べるが、1人でいると、何も食べず野菜ジュースだけで過ごしたりすることを知っていたからである。

他の用事あるので「週に2回まで」そんなルールを決めていた時期もある。食事にしろ、なんにしろよく怒った。

まるで親子である。

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2016年、彼が店に来始めて3年が過ぎたころから私の店は成長期を迎えた。お客さんの数も増え、スタッフも抱えて、日々の仕事にいっぱいいっぱいで、彼の話をゆっくり聞く時間は少しづつなくなっていった。

それに伴い、彼の来店頻度も1週間に1度、10日に1度と、徐々に減っていき、彼は徐々にわたしから距離を取るようになった。いや、今思えば私が遠ざけていたのかもしれない。

新規のお客さんが増えているなかで、彼の人懐っこさは時にトラブルになりかねない危うさもあった。

その後、彼の全身に彫り物をしたタトゥーアーティストが、突然この世を去ったことも拍車をかけ、彼は精神的に非常に不安定になる。

音信不通、ラインの返信も数日後。そんなのが当たり前になった。

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ある日、私は彼と食事の約束をしていた。
だが、打ち合わせが長引きそうだったので急遽キャンセルした。

「近いうち行こうな」
「うん。分かった。」

その2週間後、彼は事故で亡くなった。結局、食事にもいけないまま..

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葬儀は彼の家族からの依頼で、彼のクローゼットにある膨大な洋服からコーディネートをした。お気に入りのアイテムたちも一緒に。

さらに、

「ボロボロになったら絶対僕がもらうから!」

そう言い続けていた店の外壁に立ててあった旗を被せてやった。

「兄と会うたび、岡崎さんのこと岡ちゃんは家族だからって、嬉しそうに話してました」

「ありがとうございます。岡崎さんと出会って彼は変わりました。ここ数年、前を向いて楽しく過ごせたと思います」

妹さんや母親から、そんな言葉をいただくたび、

あの時、一緒に食事にいってたら、
あの時、もっとちゃんと話を聞いてたら、
あの時、もっと.....

その思いは今も消えることはない。
悔しすぎる。

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49日法要が終わり、家族から任されていたこともあり、荷物を整理するため彼のマンションに入った。

改めて見ると、彼の部屋の壁には私の店のショッピングバッグが画鋲で貼られ、私が彼の誕生日に送ったメッセージカードなども同じように貼られていた。

まるでサンタからもらったプレゼントを大事に飾る子供のように...

マルちゃんのクローゼットにある大量の洋服は、店で仲が良かった常連さんに分配した。今でもみな着続けてくれている。

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彼との思い出やエピソードは語り尽くせない。
私の店には、彼が大事にしていたモノを今でも数点飾ってある。

私はマルちゃんが人の悪口を言ってる場面を知らない。

飲めない酒も「岡ちゃんと酒のみたいから」って、こっそり練習していたのを知っている。

まるちゃんはいつも楽しそうだった。
私の店を心から愛し、全力で支えてくれた。

今でもバイクが店の横に止まると、マルちゃんがふらっと現れてくれるような気がする。

あのステッカーを貼りまくったヘルメットをかぶって。

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私はこの店を続けていかなくてはいけない。もっともっとかっこいい店を作らなくてはいけない。

人と同じで、店も嬉しいこと、悲しいことを積み重ねて成長する。誰かにとってのかけがえのない場所に変わること、どれだけ大変でも忙しくても忘れてはいけないことがあることを、マルちゃんは教えてくれた。

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マルちゃんありがとう。これからも見ててくれよ。

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