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潜伏中の極右主義者、ネット追跡で居場所を特定してみた

暴動のほう助などで刑事告発されているアメリカの白人至上主義者、ロバート・ルンド。どうやら彼はヨーロッパのどこかに潜伏中らしい。いったいどこにいるのか。調査集団べリングキャットがOSINTを駆使して彼の居場所を突き止めた!

“こんな写真から居場所を特定するのは無理だろう”

自分がアメリカの極右主義者ロバート・ルンドになったと想像してみよう。居場所は誰にも知られたくない。とりわけ警察や、ベリングキャットのうっとうしい調査員には。

ルンドは暴動および共謀罪で起訴されていて、来春ロサンゼルスで始まる裁判で有罪判決が出れば、最長で10年の懲役を科される可能性がある。今はヨーロッパのどこかに潜伏しているところだ。

でも、自分が手がける極右ファッションブランドを宣伝したいし、タフガイのイメージも広めたい。だから、どこにいるのかバレないように気をつけながら、複数のテレグラム・チャンネルで情報発信を続けなくちゃならない。

2022年10月31日に投稿した新商品のジャケットの写真は、われながら完璧だ。この写真を見ても、誰にも居場所は特定できないだろう――と、自分では思っているようだ。

2022年10月31日にロバート・ルンドのブランドのウェブサイトに投稿された写真3枚。ベリングキャットは、ブランドの宣伝にならないようジャケットのロゴや文章を隠した(以下、この記事内ではすべて同様の理由により加工を行った)

ぱっと見ただけだと、この3枚の写真からジオロケーション(注 画像などから場所を特定するOSINTの一手法)をするのはまず無理だと思うだろう。街の景色もないし、標識やわかりやすい物も写っていない。ベリングキャットは2020年の調査で、ルンドが投稿した写真から滞在中の都市を初めて割り出した。だが今回、ルンドはしっかり気をつけたようだ。

甘い、特定には10分もかからなかったよ

写真に写っている壁には、2021年の調査でルンドの居場所のヒントとなったグラフィティのようなものもない。あるのは、1本の赤い塗料の線と、どこにでもありそうな白っぽい壁面だけ。

ジャケット以外の部分はわざとぼかされている。ルンドは2022年11月に、アメリカの極右ポッドキャストで、投稿する写真や映像は「撮影場所がわからないように編集しなくちゃならない」と話しているんだ。

でも実は、この写真からも場所が特定できる。しかも、10分もかからなかった。

2022年11月13日にベリングキャットのリポーターが撮影した同じ場所の写真

Googleストリートビューで、この壁がブルガリア第2の都市プロブディフにある集合住宅の外壁だとわかった。ヒントは赤い1本の線だけで十分だった。ルンドと親しい人物がInstagramに投稿した写真をジオロケーション済みだったので、どこから探せばいいのかはもうわかっていたからだ。この写真も近くで撮られたにちがいない――その推測は正しかった。

当人にそのつもりはまったくなかっただろうが、暴行の前科持ちで、最長10年の懲役に再び直面している極右主義者ロバート・ルンドは、オープンソース・リサーチの方法がどれほど有効なのか、うってつけの教材となった。

違う角度から考え、周囲との関係性を把握し、対象人物の過去の行動から仮説を立てて、一般ユーザーが作成した一見バラバラなコンテンツをつなぎあわせ、筋の通ったストーリーを組み立てる――そうすると、難しい問題も解くことができるのだ。

ルンドが問われている罪とは なぜ追うのか

32歳のルンドは、現在は消滅したアメリカの白人至上主義ギャング「ライズ・アバブ・ムーブメント(RAM)」の創設者のひとりで、2017年に複数の集会で起きた暴力的な衝突との関係で2018年に起訴された。

2019年6月、カリフォルニア州の裁判官はルンドの起訴の根拠となった反暴動法が違憲だとして起訴を却下した。その後、自由の身となったルンドはアメリカを出国し、ヨーロッパに向かった。ルンドは本記事ではコメントを拒んだが、2018年に初めて起訴されて以来、支持者やフォロワーに向けたポッドキャストで、自分の身を守る行動をしているだけだと何度か語っている。

ルンドの起訴却下に対する連邦政府の控訴手続きが進められていた2020年11月、ルンドがセルビアの首都ベルグラードを新しい拠点として活動を始めているとベリングキャットが暴露した。調査結果を公表してから3カ月もたたないうちに、セルビアのメディアはベルグラード当局がルンドを国外追放処分にしたと報道した。

ロバート・ルンドのテレグラムチャンネルの動画(2020年11月8日の)のスクリーンショット。セルビアのベオグラードで極右のグラフィティの前にいる

しかし、後に判明したのだが、遅くとも2021年11月にはルンドはセルビアに戻っていた。このとき、アメリカ連邦控訴裁判所はルンドの起訴の却下を取り消していたが、ルンドが無罪になる可能性はまだあった。ルンドの弁護士はアメリカ連邦最高裁判所に対して上訴を受理するよう申し立てていたからだ。

ルンドについてベリングキャットは2020年と2021年の2回、記事を発表したが、今回は事情が多少異なる。現在、ルンドの上訴はすべて棄却済みなのだ――連邦最高裁判所は2022年1月に上訴を棄却した。2023年4月にロサンゼルスの連邦裁判所でルンドの公判が始まる予定になっている。

ルンドは連邦の反暴動法に基づき二つの罪に問われており(暴動のほう助、反暴動法に対する違反の共謀)、それぞれ最長で5年の懲役を科される可能性がある。ルンドの共同被告人3人のうち1人は2022年5月に同じ罪状で調書をとられ、現在は公判を控えて勾留されている。他の2人は、パスポートを返上し、移動は南カリフォルニア内に限定するといった条件付きで保釈されている。

当局はルンドを追っているのか

2022年に行われた審問手続きにルンドは出席していないようだ。3月の審問について裁判所が公開した資料には、弁護士はルンドに「連絡や相談ができない」とさえ書いてある。

アメリカ連邦保安局は、国内で行われた犯罪の被疑者が海外に逃亡した場合、追跡し送還する役目を担っている。ルンドを追跡しているのかどうか、滞在地を特定し送還するために国際的な法執行機関と協力しているのかどうかを尋ねたが、本記事公開時点では返答はない。

検察局にも、ルンドが自由の身でいられる法的根拠があるのか、ルンドに逮捕状が出ているかどうかを問い合わせたが、本記事公開時点では返答はない。

(つづく)

次回はベリングキャットがどのようにしてルンドの居場所を特定していったのか、その過程と、使われたテクニックを全て公開します。

取材・執筆 マイケル・コルボーン

ベリングキャットのジャーナリスト、調査員。中東欧での極右活動を調査し監視する「ベリングキャット・モニタリング」を率いる。Twitterアカウントは @ColborneMichael

翻訳 谷川真弓
2022年11月29日